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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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開発者の苦悩

またしても無茶をして倒れてしまうオーディスワイア。

集中し過ぎるのは危険です。

 青写真──設計図の骨子こっしは決まった。

 恐ろしく細かかった図式も単純化をして、だいぶまとまりのある物になった。簡略化といっても、大事な部分をおろそかにしてはいけない。機能の維持をしつつ、複雑で余分な場所を無くし、無駄な活動力エネルギーの消費が発生しないよう、注意深く組織の構成(メカニズム)を考えていく。

 設計図を書き起こすだけでも、恐ろしく集中力を必要とする作業になった。昼食を食べ終えるとすぐに研究室に戻り、作業を続行する。


 最初に書いていた術式は大幅に練り直され、簡潔な物へと書き換えられた。

 初めの物はいかに無駄が多かったか、二枚の設計図を並べるとはっきりと分かる。まるで別物だ。

 しかしこれで活動力消費を抑え、長距離での通信も可能なコアが作れるだろう。




 気づけば夕方を大きく回ってしまっていた。

 錬成容器を造るのに必要な素材を集めて置き、この日は宿舎へと帰る。設計図を頭の中に入れ、いくつかの改良できそうな部分に注目しながら頭の中で再構築を行う。


 宿舎に帰ると、庭ではリトキスとカムイが訓練を続けていた。冒険から戻った仲間達も一緒になって訓練をしている──元気なものだ。

 メイはカムイに格闘の訓練をしており、リトキスはリゼミラとの戦闘訓練を行っていた。

 四人ともかなり本気で、緩衝材かんしょうざいの入った手袋グローブを付けて激しく殴り合うカムイとメイ。

 二本の木剣を持つリゼミラと、一本の木剣を構えるリトキスの闘いは、見る者を引き込むほど、苛烈かれつで凄まじい乱撃の嵐となっている。


 木剣が空を切り裂く音と、木剣が木剣を弾き、受け流す乾いた音が鳴り響く。

 その時、重い音が周囲に聞こえてきた。


 双剣の乱舞をかわしながら横を駆け抜けた、リトキスの胴を薙ぎ払った攻撃が、リゼミラの腹部を打ったのだ。リトキスがリゼミラから、これほどはっきりと一本を取ったのは初めての事だったろう。

 周囲からも歓声が沸き起こる。

 膝を地面に突いたリゼミラの元へ駆け寄ると、リトキスはしきりに頭を下げていた。


「大丈夫か?」

 俺は庭へ向かい、リゼミラに声を掛ける。

「ああ、何とか……瞬迅での反撃をモロに喰らっちまったよ。……ああ、あざになってら」

 と、何の躊躇ためらいも無く上着をまくって確認する。

 がさつな女代表選手権があったら、こいつは首位等級トップランカーになれる女だ。


「リトキスがお前から一本取る場面なんて、初めて見たぞ」

「僕もですよ」とリトキスが認めた。

 よっこらしょ、と声を出して立ち上がるリゼミラ。

「そうだっけ? まあ今までは結構、相打ち的な終わり方が多かったよね。どちらも手数の多さで勝負の行方を競う様な、そんな闘い方をしているからねぇ」

 我ながらバカみたいな闘い方よね、と感想を口にするリゼミラ。客観的に見たらそう思えたのだろうか、だが多くの外野は、あまりの高速戦闘に声も出せずに見守っているのが関の山だろう。


 人外(じんがい)一歩手前とも言える戦闘能力の高さというものを、当人は理解できていないのかもしれん。……まあリゼミラが、おバカなだけとも言える。


「なんか、失礼なことを考えたな?」

 またしても俺の考えている事を言い当てるリゼミラ、余計なところで勘が鋭い。

「そんな事は無い、それよりもそろそろ夕食の支度したくを……」

 そう言って宿舎の方に歩き出そうとすると、足がもつれて倒れそうになる。

「あぶっ……! どうしたんだ? 急にふらつくなんて」

 リゼミラが俺を片手で抱きかかえる。太い腕と言う訳でも無いが、女の腕としてはかなり太く筋肉質な腕だ。


「ぉ……そうか、錬成容器を設計するのに、鑑定や魔法の集中を使っていたから…魔力切れと、精神的に──疲れたんだな……」

 ズルズルと崩れ落ちるみたいに暗闇が広がっていく。どうやら……意識が閉ざされてしまうようだ。


 *****


 意識を失った俺は青と、白い空間の中に居た。

 白い雲の上に居るみたいな、ぼんやりとした感覚と、曖昧あいまいな意識……次第しだいに周囲の白いもやが晴れていくと、そこは青空が広がる世界だった。


「少しは体を休めるべきだったな」

 近くから声がした。

 横になった状態から振り向くと、そこには一羽の大きな鳥が居た。青や緑色の羽根を持つ美しい鳥。

「ラホルス様ですか」

 精神世界に来たようだ。いや、風の神にいざなわれた、と言う方が正しいか。


「魔法を使った集中は危険だぞ。短時間で結果を出そうという気持ちは分かるが、意識を喪失そうしつするほどになっては、後遺症が残るやもしれぬ」

 上半身を起こすと──そこは雲の上だった。

 まるで綿飴わたあめの様なふわふわした白い物に乗って、大空に浮いている。

 風の神の領域だろう、変わった世界だ。青と白に満ちた世界。他には何も無い。

 見渡す限り周囲には青い空が広がっている。


「や、申し訳ありません。意識を失うほど消耗しょうもうさせているとは……気づきませんでした」

 翠玉エメラルド翡翠ひすいから成る様な大きな鳥は二度、うなずいて見せ「まあちょうどいい」と口にする。


「お前の『神貴鉄鋼シルエヴァルリスと神結晶を使った錬成』について四大神は許可した。それはひとえにお前を信用しているからだ、無駄にそれらを消費しはしないだろうとな。だが、()()()()()()()()()()()()のだ。充分その事を留意りゅういせよ」

 起き上がって体勢を変え、風の神に謝意を述べようとしたが、体が思うように動かない。


「よい、動くな。もう戻って体を休めるがいい。──我々はお前達と共にある、それを忘れるな」

 風の神の声が遠のいて聞こえる。

 ふわりと体が浮くみたいな感覚の後、俺はゆっくりと目を開ける……そこは自室の寝台ベッド。どうやら仲間の手によって部屋まで運ばれたようだ。


「ウニャァ──」

 胸の上にライムが乗っていた。何となくだが、ライムが好きで乗っていたという訳では無くて、誰かが乗せていったみたいな、そんな感じで座り込んでいる。

 毛布の上に座った白猫は、俺が目を覚ますと胸から降り、ドアの方へ向かって歩き出す。


「ニャァァ──」

 ドアを開けろ、そう言っているみたいだ。

 俺は寝台から足を下ろすと、のろのろとドアに向かって歩いて行き、ライムと共に廊下へ出る。

 食堂の方から声がする。

 食事が始まってしまったらしい。


 俺が食堂へ向かうと、ライムは階段の方へトコトコと歩いて行った。

「ありがとうな」

 その背中に声を掛ける。

 彼女は尻尾をピンと立て、こちらを見ずに歩いて行ってしまう。




 食堂に入って行くと、ユナが声を掛けてきた。

「大丈夫ですか? 回復魔法は掛けましたが、精神虚脱には効果が無いので……」

「ああ、大丈夫、心配かけたな。すまない」

 食堂にはリゼミラの姿は無かった、自宅で家族と食べているのだろう。

 皆が心配そうに見守り、声を掛けてくる。

 ふと、そうした仲間達の様子を見ていて、先ほどの神の言葉を思い出す。──我々はお前達と共にある──その言葉は、神々は俺をふくめ、多くの人間と共に生きている事を言っていた。


「お前一人が無理をしなくてもいいのだ」

 ラホルスの声には、そうした響きが感じられたのを思い出す。

 ……俺はあせっていたのかもしれない、そう思い当たった。混沌こんとんが与えてきたあの苦痛、そして混沌結晶がもたらす 侵蝕しんしょく。そうした物をまざまざと感じ、宇宙のそれと区別がつかないほど巨大な闇に、何とか対抗する手段を見つけようと気づかぬうちに、必死になっていた。


 神の暖かな言葉は、俺に「心の余裕を持って、仲間を、神々を頼れ」と言っていたのではないか──そう思えた。心優しい風の神の言葉に、俺は胸の奥が熱くなるみたいな、馴染なじみの無い心地良さを感じていた。

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