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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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通信技術を作り出す難しさ

「錬成容器」を作製する、何だか説明するのが難しいお話に……

コンピュータを作る作業に似てるかな?

 錬成容器を使っての「通信魔法回路生成」をするのは、いくつかの理由がある。

 まず一つは、俺以外の錬金術師でも「通信魔法回路生成」を出来るようにする為、というのもあるが、本当は次のものが最も大きな理由だ。


 それは、一つの送信機や受信機を作製するのに、もの凄い集中力をって取り組まなければならず、さらにその出来上がりにも、微妙な誤差が生まれる可能性が高い為だ。


 何しろ途轍とてつもなく難しい術式で縫い上げられた魔力回路だ。「通信魔法」の解析や復元が出来たのは、俺が()()()()()()「ラジオ」を組み立てたり、無線機の作製などもおこなっていたからだろう。

 他の錬金術師が「古代の遺産」に「鑑定」をしても解析が困難だったのは、そうした送信機や受信機についての知識が無かったからだ。

 まったく不明な物について取り組んで解析するには、相当に複雑で難解な遺物だった訳だ。──俺にはどちらかというと、馴染なじみ深い物に似通った物だという感じがしたくらいだが。


 つまるところ古代の遺産である「監視飛翔体」を解析できたのは、()()()()()()()()()なのだ。

 あれが持っている技術体系は科学では無いが、科学に置き換えて考えると、その構造が似通っている事に気づくはずだ。




 そんな感じで通信技術について頭を悩ませていると、鍛冶屋の奥にある研究室に客がやって来たとサリエが声を掛けてきた。

「来客? 鍛冶屋にではなく、俺にか?」

「はい、その──地の神ウル=オギト様の使いの方だと……」

 恐縮した様子でそう語る彼女。俺は「分かった」と言って鍛冶場の方へ向かう。

 そこには数名の神殿職員が立っていた。


 大きな木箱の入れ物を手にした二人の屈強な男が机の上にそれを置き、神官服をまとった男が手紙を差し出しながらこう言った。

「これは象徴武具の作製報酬です。手紙にはウル=オギト様からのお言葉が書かれています」

 続けて彼は「旅団宿舎の方にうかがったら、鍛冶屋の方に居ると聞いたので」こっちへ来たのだと説明する。


 若い神官とお付きの者が揃って頭を下げ、鍛冶場を出て行く。

 ポカンとするサリエに仕事に戻るよう言いながら、手紙に目を通す。


{  オーディスワイアへ


  象徴しょうちょう武具の金鎚の作製に改めて礼を言う。

  作製報酬と、白金の延べ棒を贈ろう。

  また蜂蜜酒ミードでも手に入ったら持って来てくれるとありがたい。

  よろしく頼む。


                          ウル=オギト   }


 なんとも簡潔なお言葉だ。

 もちろん代筆させた文章だろうが──文面には、あの愛らしい銀色(ねずみ)の姿は見えない。

「蜂蜜酒を気に入ってもらえたようだな」

 地の神への土産は酒類になりそうだ。の神に仕える巫女の中には、酒を飲ませないようにする勢力があるようだったが。


 木箱の入れ物を開いて見ると、中には白金の延べ棒が四本も入っており、銀貨の入った皮袋も二つ、みっちりと詰め込まれていた。

 それらを金庫にしまって置き、俺は研究室に戻ると、再び通信魔法回路の組み立てに頭を使う。設計図を前にして、簡略化できそうな場所を探しては印を付け、さらにそれを作り出す錬成容器と照合して手直しする。


 小さな金属(コア)作り出すのに、かなり大きな錬成容器を作り出す事になりそうだ。

 細かい術式の刻印作業を行う容器だ、それも高度な術式を組み上げる物。簡単な作業内容では無い。緻密な構造を何層も重ねて構成する事で、容器の中に()()()()()()()、物体に通信魔法回路を生成する()()()()()()


 釘を作る容器ですら、溶かした鉄の「不純物を取り除いて」、「大きさを決定(金属を分断)」、「釘の形に生成(圧縮)」し、「硬化する」といった──いくつもの段階的な作業を行っているのである。


 今回の物は、そういった作業を段階的に分けると、百以上の項目がある膨大な作業だ。もちろん細かい部分を作製するから、さらに膨大な層構造になるのだが、大まかに作業段階を分類すると、作業工程は十数個と少なくなるだろう。

 例えて言えば、配線が重なったり、ぶつかったりしないよう組み合わせるのに、細かな設計が必要になるので、錬成容器を使って、それらを自動的に作り出せるようにした方が圧倒的に楽になる、という訳なのだ。

 自動化万歳。

 だがその自動化の為には、錬成容器を作り上げなければならない。




 その設計を単純化する部分を考えているうちに、相当の時間が経過してしまったようだ。

 試作通信機から受信の合図が鳴る。

『オーディスワイアよ。一日ぶりじゃな』

 鏡の画面から紅玉ルビーの仮面を付けた赤毛の女性が映る。声は近くに居る巫女が発した物だろう。


 火の神ミーナヴァルズは画面の向こう側で長椅子に腰掛けている。その隣には錫杖しゃくじょうを手にした通訳の巫女が控えている(画面には映らないが)。仮面の女神が画面端に寄った時に、通訳に耳打ちしているのが見えた。


『管理局から使者が来て、そやつらから話を聞かせてもらった。神殿の連中は自分達で、独自の判断をしようとしておったようじゃが、オーディスワイアの名前を私に通さないでおこうとするとは……まったく、奴らには再教育が必要じゃな』

 手を()()()()と振るいながら、自分がしゃべっている雰囲気ふんいきかもし出す女神。


 どうやら神殿の管理局担当者は、神貴鉄鋼シルエヴァルリスや神結晶の使用許可を勝手に却下しようとしていたみたいだ。それを女神ミーナヴァルズが自ら顔を出して行って、管理局の職員から直接、話を聞き出したという。


『神貴鉄鋼と神結晶の使用については、もちろん象徴武具などの、神々に関係する物を造るのを優先させる。これは譲れないが、オーディスワイアの判断で錬成容器や、冒険者の武具に使用する事を許可する。これは他の三神も同意しておる』

 精神世界を通じて他の神にも意見を求めたのだ。

 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 管理局から神殿に通信機を送り届けると決まった後で、神殿に勤める連中が素直に火の神にまで、この話を持って行くか──疑問に思い始めたのだ。


 そしてその予感は的中したらしい。幸い女神が管理局から使者が訪れたのを知り、俺の名前が出たのを確認して直接、管理局の職員から話を聞こうと動いてくれた為、この話がまとまったのだ。危うく話の通じない神官らによって、重要な未来への発展を奪われるところだった。


『今後はこのような事の無いよう、きつく言い渡しておこう。それにしても、この通信機は実に良く出来ておる。試作品という事じゃが、完成品が出来たら持って来るようにの?』

「まあ試作品と言っても、完成品と大して違いは無いと思いますが……」

 俺は火の神に許可を出してくれた礼を言い、通信を終了した。


 通信機のこれ以上の進化は、小型化と低燃費化くらいだろう。フォロスハートの中でのみ使用するなら通信距離の問題は無いはずだ。

 まあそれも管理局で調査協力をしてもらえば、どれくらいの通信可能距離があるか、はっきりとする。鑑定による推定範囲では百五十キロを超えていた。

 魔力のつながりが切れそうな場合は、間に中継器を置く事で距離を伸ばせるだろう。あるいはより長距離に通じる「通信魔法回路」を構築する、新たな技術革新を起こせれば。──通信魔法で使う力は科学の「電波」などとは違う部分がある。

 きっと通信距離も今よりも伸ばせるはずだ。


 俺はさっそく、錬成容器を造る設計図を完成させる為に、本腰を入れて取り組む決意を固めた。

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