旅団名の選考
「……『金色狼の三勇士の一人の旅団』ではいけませんの?」
「良い訳ないだろう! 金色狼の名前を騙ってるし。だいたい三人なのか一人なのかどっちなんだ⁉ 略されて『一人の旅団』とか言われて馬鹿にされるのが目に見えてる!」
レーチェは旅団名で宣伝効果を狙えると思いましたのに……とか真顔で言っている。
旅団名の頭の部分には色を含んだ名称を使い、団員数を増やしたり実績を上げて行く毎に、どんどん強そうな、価値のありそうな名前に変えて行くのが伝統的なやり方だと説明したが、現在はあまり受け入れられていないらしい──ここ数年で何があった?
「『白色の猫旅団』なんてどうでしょう?」
と言ったのはユナ。レーチェは「猫……」と嫌そうな顔をしている。
「なんで猫を?」
「あの、オーディスワイアさんの鍛冶屋の近くで白い猫を見かけたので……」
ああ、あの猫か。あの辺り一帯を縄張りにしている野良猫だと説明し、しかし可愛い名前は旅団としてどうだろう──という流れになる。
「なら『漆黒の虎旅団』でどうですか」
と言ったのは意外にもメイだった。
俺は意外に悪くないかもしれないと言ったが、レーチェは大きい猫じゃない、他のにしましょうとにべも無い。
俺は漆黒の虎は猫じゃない、冒険先で出会う猛獣だぞと脅かしてやると、「戦いになれば速攻で両目を貫いてやりますわ!」と殺る気満々だ。そんなに猫の目が嫌いなのかね……
その後もしばらく旅団名の候補を挙げていったが、これはと思うものはなかなか出ない。するとレーチェがこんな事を言い出した。
「私はやはり、オーディスワイアさんの冒険者としての実力や、錬金鍛冶師としての力量を看板に掲げた方が良いと思いますの」
と言い出して出たのが「オーディスワイアの旅団」という名称だった。
「安直過ぎて言葉も無い」
「何とでも仰って下さいな、分かり易さを重視しましてよ」
「だいたい個人名の旅団は大昔にはあったらしいが、その個人が居なくなると名前を変えようとか、旅団の後継ぎが~~とかで揉める原因になったらしいぞ」
「面倒ですわね」
すると今度はユナがこう言った。
「でも、オーディスワイアさんの錬金鍛冶の腕は凄いと思うので、それを旅団名に入れた方が──私は嬉しいかな」
「なら『錬金鍛冶の旅団』だね」
こう言ったのはメイである。
レーチェが大きく頷く。
「いいですわね。宣伝効果もあるし──こう言うのはいかがかしら、『神業錬金鍛冶の旅団』──どうかしら」
「誇大広告で訴えられそうだな」
俺の突っ込みに、なんですのそれは? と首を傾げる。
「『朱き陽炎の旅団』の鍛冶師のおっちゃんが言ってたけど、錬金鍛冶では黒、白、黄、赤の順に変わっていく何かを探るのが仕事だって言ってた」
メイの発言に俺は「ぉお」と声を上げる。
「錬金術の変容についての言葉だね。黒化、白化、黄化、赤化の順に変わる行程の先に、哲学者の石が生成されるというあれだね」
レーチェはその言葉を聞いた事が無いらしく、詳しく聞きたいと申し出てきたので話し始めたが、少女二人には難し過ぎた様子で、メイは「お腹が減った……」と腹を押さえている。
「ではここで食事を取りながら、旅団名を決めてしまいましょう」
レーチェはそう言ってリーファに食事を運ばせる手配を命じるのであった。




