「無双の太刀」と呼ばれた男
次話から週1回の投稿になるかな……日曜の昼に投稿できるよう頑張ってみますが──
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俺とレオシェルドは互いの無事を喜ぶと同時に、血気盛んだった過去の姿と比べて、落ちぶれたとまでは言わぬものの──覇気の無い、冒険から遠ざかった冒険者の衰えを目の当たりにし、二人して曖昧に笑い合うのだった。
「だいぶ鍛冶職が板についてきたらしいな。噂は耳にしていたが、あの頃の──『三勇士』と呼ばれていた男とは思えんな」とレオシェルドが言えば。
「ふん、それはあんたもそうだろう。金色狼を抜けてから、冒険に出ていないんじゃないか?『無双の太刀』などと呼ばれていたあの頃の精彩は、まるで感じないな」
互いに罵りあっているが、軽蔑している訳じゃ無い。古くからの冒険者流の挨拶みたいなものだ。
「無理も無い。自分は冒険者を引退して、すっかり隠居生活を送っていたからな。日々の訓練は欠かさなかったが、それでも衰えを身に染みて感じているところよ」
零落した侍の様な風貌の剣士は、そう言って肩を落とす。そんなレオを見て、リトキスは「まだまだあなたには、やれる事があるでしょう」と、もっともな言葉を口にする。
「まったくだ。俺よりも少し年上くらいのあんたがそんなに老け込んでいては、こちらの士気も下がると言うもの。──本当に頼むぜ」
やれやれ、という感じで、周囲に集まっている若者達を見る。
「それで──リトキスが言うには、自分に若い冒険者の訓練をさせようと考えているらしいが……その前に、本当にオーディスが団長になったのか? そういう役どころを嫌っていただろう」
「人には、受けざるを得ない物事というのがあるものさ」
俺がわざとスカして応えると、レオは苦虫を噛み潰したみたいな表情をしてこう言った。
「お前のそうした物言いも懐かしく感じるところだ。だが地の神の剛腕にかけて、お互いに無事で何よりだ」
変わらぬ仰々しい枕詞を付けて、互いの生存を喜ぶレオ。
「相変わらず堅苦しい奴だ。俺はずいぶん前に引退してから、ずっと鍛冶職に専念しているからな。鍛冶場で爆発でも起きん限りは──」
そこまで言って、例外がある事に思い当たった。
「……まあ、フォロスハートに混沌が侵攻して来た場合は、俺も戦闘に加わるが、それ以外は安全な場所で、冒険者達の支援に専念しているよ」
そうした会話をしていると、リトキスが何の訓練をしていたのかと尋ねてくる。
「ああ、ちょうどいい。カムイに『破砕撃』を、エウラに『斬破』を教えていたところだ。そうした『剣気』の扱いはレオの得意分野だろう? さっそく教えてやってくれ」
リトキスは「破砕撃は僕も教えて欲しいところですが……」などと口にする。
「自分は構わないが、その前に──外気勁は使えるのか?」
「ああ、カムイは操気は苦手なんだが、武器に気を纏わせるのは得意らしい」
するとレオは頷く。
「ああ、そういった類型もある。操気が苦手でも、そうした能力があれば操気自体も、どんどん伸びていくはずだ」
レオの言葉はカムイを勇気づけたようだ。少年は進み出ると「お願いします」と頭を下げる。
そんな矢先、違う奴らが玄関を開けて入って来た。
子連れのアディーディンクとリゼミラだ。
「ん? ぉお? なんか見覚えのある奴が居るじゃないか」
「レオシェルドさんじゃないですか! おひさしです」
子供を連れた二人の様子を見て、珍しくレオが苦笑いをして見せた。
「ああ、久しいな。しかし、噂には聞いていたが──本当に結婚していたとは。リゼミラとアディーディンクでは……いや、なんでもない」
そう口にしながら二人の子供達を見る。
不思議な雰囲気を纏う、初めて見る男を警戒して、二人の子供は母親の陰に隠れるような行動をした。
「嫌われたな」
俺の言葉にレオは首を竦め、「いつもの事だ」と答えた。
一緒に夕食をと思って来たというリゼミラ達であったが、剣豪との再会に血が疼いたのか、リゼミラはユナとカーリアに子供を預けると、レオと闘うと言い出した。
「自分は構わないが……」
衰えを感じていると言っていた割には、簡単に負けるつもりは無さそうだ。さすがに一対一で易々と負けはしないという自負があるだろう。
「戦績は、リゼミラの方が勝っているのではなかったか?」
俺がそう声を掛けると、剣豪は長めの木剣を手に取りながら軽く振り──頷いた。
「そうだな。……すまない、そこの魔法使いの少女」とユナの方を向く。
「防御魔法を使えるなら、二人に掛けて欲しい。怪我をしたく無いのでな」
ユナは頷き、二人に防御魔法を掛ける。
いきなり始まった二人の戦闘狂の闘いに、周囲に居た旅団員達が遠巻きに見守る。
「あのレオさんという人は、相当に強いんですか?」
子供の肩を抱いているユナの言葉に、俺は「見ていれば分かる」とだけ応える事にした。
二人の立ち合いが始まった。
間合いは三メートルほど離れていたが、リゼミラが一瞬で間合いを詰め、二本の木剣を振り回して襲い掛かる。
縦に横に振り回された剣筋を見切って躱すレオ。
次の瞬間、木剣同士がぶつかり合う乾いた音が響き渡った。一瞬だったが、三回の剣戟が交わされ、互いの攻撃を弾き、受け流す攻防が繰り広げられた。
「鈍ってないね」
「お互いにな」
そんな言葉を掛け合う二人。
今度はレオが一歩、大きく踏み出した。
空気を切り裂く音がした。
見えない刃が地面の埃を舞い上がらせる。
リゼミラは剣先から横に退避して、不可視の攻撃を躱す。
大きく振り下ろされた剣先から斬破が飛び、離れた位置のリゼミラを攻撃したが躱された。
「それじゃ、こっちも!」
そんな掛け声と共に、リゼミラが大きく剣を交差させる形で、二本の剣を振り下ろした。
リゼミラが「十字斬破」とか言っている技だ。
双方の武器に気を流すので、相当に器用な奴でなければ使えないだろう。あるいは単純に「才能」と言った方がいいか。
「はぁっ!」
なんと、十字に飛んだであろう斬撃をレオは、下から振り上げた斬破で切り裂いて見せた。
空気を弾き飛ばすみたいな音が二人の間から聞こえた。
ぶつかり合った斬破によって、風が巻き起こる。
周囲で見ていた俺達の顔を撫でる風が通り過ぎて行く。
二人の激戦はすぐに終結した。
間合いを詰めた二人の間で交わされた連続攻撃の一つ、リゼミラの木剣がレオの腕を打ったのだ。
さすがに二本の剣から繰り出される連撃を前に、レオの身のこなしだけでは回避するのは困難だったらしい。
「参った、さすがだな」
レオの降参の言葉が決着の合図となったのである。




