斬破の習得と、旧友との邂逅
レオシェルドはいかにも侍──あるいはロウニンっぽい人。剣技に対する想いは強く、それでいて後進の育成にも(最近になって)思いを抱くようになったようです。
連休の最終日だというのに、宿舎前では──斬破の習得訓練が行われていた。
いつもは鍛冶屋の二階で寝泊まりし、市外訓練場で訓練をしている新人達も、訓練の音を聞きつけたのか──数人が庭の方にやって来て、先輩冒険者の訓練を見ている。
カムイには「破砕撃」を覚えさせようとして、気の変換を──身体の中に気を通して、体外に衝撃波として撃ち出す訓練をさせた。まずは武器を持たず、掌から外気勁を放つ練習に取り組ませた。
エウラは木剣から斬撃を撃ち出す練習を繰り返し、繰り返し行わせているが──一向に上達の兆しが見えずにいた。
「俺の教え方が悪いのかもしれんな」
正直に言って、気の扱いを他人に教えるのは苦手だ。相手の体内にこちらの気を通す形で、気の操作を覚えさせるくらいしか知らない。
何故なら──外部からの気を受けて、自分で操気のコツを覚えてからは、自分の力のみで「破砕撃」や「斬破」を習得したからだ。
もちろん他の冒険者が使っていたのを見て、自分も使ってみようと何度も、何度も訓練をしたが。
気を攻撃に使うには拳での、武器での、衝撃に重ねて打ち出すと、威力を倍加させる事が可能だ。素手から打ち出す攻撃でも、触れた箇所から衝撃を打ち込む事が出来るが──扱いは難しい。
岩を砕いたり割ったり出来るが、それは一部の者にしか使えないらしいのだ。俺は操気を覚え始めてから、独学でそうした事が出来るようになっていた為、それが難しい事だと知らずに使えるようになってしまったのだ。
「だめだ、全然──上手くいきません」
カムイは地面に置いた玉石を前に項垂れている。
掌から衝撃波として気を打ち出し──直接、石を割る。……それが出来ても「破砕撃」を使えるようになるとは限らないが。
「では武器を持って、剣に気を纏わせる心象でやってみろ。外気勁の使い方としては、そっちの方が難しいかもしれないが」
エウラの方は五割くらいの成功率で、斬破が放たれるくらいだった。威力もいま一つで、斬る力と、破砕する力が混じったみたいな──変則的な衝撃が、ぶつかった対象に広がっている感じだった。
「もっと尖鋭化させるんだ。糸の様に細い……と言うのは言い過ぎだが、斬撃の細く鋭い刃を飛ばす感覚だ。振り下ろした刃の先から、引き裂く力が放たれる──そんな感じだ」
口で説明するのと、実際に使う感覚は異なるだろうが──説明の仕様も無い。本人の戦う意志、戦いの勘だけが頼りになる。
夕方近くになるまで訓練を続けていた。
メイはカムイに、もっと武術を仕込んでおきたいようだったが、彼女はリーファと共に夕食の用意をしに調理場へ向かう。
カムイには武器に、自らの気を流す能力に長けていたようだ。意外な事だが、内気勁が不得意であるにもかかわらず、武器と自身の肉体に流す気の変換──外気勁──が、自然と行われているのだ。
「予想外だな」と、俺は率直な感想を述べ、振り下ろした剣の先から爆発力を叩き込むやり方を、自分なりの表現や言葉で伝えようとしたが──やはり、物理的な干渉を起こすまでには至らなかった。
外気勁として木剣に伝わった気の力を、攻撃に一瞬で変換するには何が必要なのだろうか? 敵の防御を打ち砕く力として俺は奮っていたが。カムイはそうした気の変換方法を、本能的に学んでいかないとならないかもしれない。
「実戦で身に付く技術でもある。武器に流した気を、攻撃に変換する部分さえ感覚として身に付けられれば、すぐにでもモノに出来るはずだ」
カムイは気落ちする事も無く、俺の言葉に素直に従って「はい」と返事をする。
エウラの方は──やはり斬撃を上手く撃ち出す事が出来ないみたいだ。これはカムイと同じく、精神と肉体の──その両方に気の力を操作する心象が、上手く一致していないせいなのではないか。そんな風に考えていた。
そもそも「気」とは、生命に近い力だ。
動物や自然の中に内在し、循環されている力。
それを攻撃に変換して使用するというのは、自然の状態ではあり得ない事柄に属するはずだ。
つまり肉体にも精神にも、本質的に備わっていない物を、新たに獲得するように仕向けるようなものだ。自然(肉体)が否定する力を手に入れようという取り組みになる訳で、当然その新たな技術の獲得は困難なものになる。
言うなれば今までに無い、新たな器官を作り上げるみたいなものだ。……そうだ、気の集まる丹田に、新たな機能を付け加える様なものかもしれない。
それが簡単でない事は明らかで、精神にも肉体にも、新たな気の使い方を覚え込ませる必要があるのだろう。
俺はこの思いつきをカムイとエウラに説明し、自らの精神と肉体の変容をするくらい、強靭な意志と肉体の制御で獲得しなければならないと訴えた。
二人にそんな演説をしている所へ、玄関からリトキスと──誰かが入って来た。
一瞬、それが誰なのか分からなかった。
記憶の中にあるその人物は、いつも刀と軽鎧を身に着けていたので、同一人物だと脳が判断できなかったみたいだ。
記憶の中にある顔よりも少し老けた──無表情な面構えと、ざんばらの髪。
それを見てもしばらく誰だか思い出せなかったが、リトキスとその男が近づいて来ると。その男が放つ気を感じ取って、それが誰なのかを思い出した。
「レオシェルドか!」
俺は驚いて、その男の名を呼んだ。
抜き身の刀を構えでもしているみたいな鋭い気配。
離れている時はまったく感じないのに、近寄られると誰よりも濃い、威圧的な気配を感じる相手。それがレオだった。
「久しいな、オーディス」
数年振りに聞いたレオの声は相変わらず低く、渋い声。
周囲の仲間達も、ただならぬ気配を感じさせる男の登場に、息を潜めて見守っている。
リトキスが隣に立つ男を、仲間達に紹介し始めた。
「この人はレオシェルド。『金色狼の旅団』の中でも、別格の強さを持つ剣の使い手で──鋭い剣の一撃は、鎧を着た相手でさえ一刀両断するほど凄まじい切れ味を見せる──剣の達人だね」
おお──と、声を上げる旅団員達。
エウラは噂で何度も耳にはしていただろうが、実物を見るのは初めてだったろう。
久し振りに再会した剣士は、藍色の作務衣に似た衣を着込み、その風貌をやや落ち着いた中年に見せていたが。まっすぐにこちらを見る黒い瞳には、闘志を思わせる鋭い気配が滲んでいるみたいだった。




