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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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斬破の習得と、旧友との邂逅

レオシェルドはいかにも侍──あるいはロウニンっぽい人。剣技に対する想いは強く、それでいて後進の育成にも(最近になって)思いを抱くようになったようです。

 連休の最終日だというのに、宿舎前では──斬破の習得訓練がおこなわれていた。

 いつもは鍛冶屋の二階で寝泊まりし、市外訓練場で訓練をしている新人達も、訓練の音を聞きつけたのか──数人が庭の方にやって来て、先輩冒険者の訓練を見ている。


 カムイには「破砕撃」を覚えさせようとして、気の変換を──身体の中に気を通して、体外に衝撃波として撃ち出す訓練をさせた。まずは武器を持たず、てのひらから外気(けい)を放つ練習に取り組ませた。


 エウラは木剣から斬撃を撃ち出す練習を繰り返し、繰り返し行わせているが──一向に上達の兆しが見えずにいた。

「俺の教え方が悪いのかもしれんな」

 正直に言って、気の扱いを他人に教えるのは苦手だ。相手の体内にこちらの気を通す形で、気の操作を覚えさせるくらいしか知らない。


 何故なら──外部からの気を受けて、自分で操気のコツを覚えてからは、自分の力のみで「破砕撃」や「斬破」を習得したからだ。

 もちろん他の冒険者が使っていたのを見て、自分も使ってみようと何度も、何度も訓練をしたが。


 気を攻撃に使うには拳での、武器での、衝撃に重ねて打ち出すと、威力を倍加させる事が可能だ。素手から打ち出す攻撃でも、触れた箇所かしょから衝撃を打ち込む事が出来るが──扱いは難しい。

 岩を砕いたり割ったり出来るが、それは一部の者にしか使えないらしいのだ。俺は操気を覚え始めてから、独学でそうした事が出来るようになっていた為、それが難しい事だと知らずに使えるようになってしまったのだ。


「だめだ、全然──上手くいきません」

 カムイは地面に置いた玉石を前に項垂うなだれている。

 掌から衝撃波として気を打ち出し──直接、石を割る。……それが出来ても「破砕撃」を使えるようになるとは限らないが。

「では武器を持って、剣に気をまとわせる心象イメージでやってみろ。外気勁の使い方としては、そっちの方が難しいかもしれないが」


 エウラの方は五割くらいの成功率で、斬破が放たれるくらいだった。威力もいま一つで、斬る力と、破砕する力が混じったみたいな──変則的な衝撃が、ぶつかった対象に広がっている感じだった。

「もっと尖鋭化せんえいかさせるんだ。糸の様に細い……と言うのは言い過ぎだが、斬撃の細く鋭い刃を飛ばす感覚だ。振り下ろした刃の先から、引き裂く力が放たれる──そんな感じだ」


 口で説明するのと、実際に使う感覚は異なるだろうが──説明の仕様も無い。本人の戦う意志、戦いのかんだけが頼りになる。




 夕方近くになるまで訓練を続けていた。

 メイはカムイに、もっと武術を仕込んでおきたいようだったが、彼女はリーファと共に夕食の用意をしに調理場へ向かう。


 カムイには武器に、自らの気を流す能力に長けていたようだ。意外な事だが、内気勁が不得意であるにもかかわらず、武器と自身の肉体に流す気の変換──外気勁──が、自然と行われているのだ。


「予想外だな」と、俺は率直な感想を述べ、振り下ろした剣の先から爆発力を叩き込むやり方を、自分なりの表現や言葉で伝えようとしたが──やはり、物理的な干渉を起こすまでには至らなかった。

 外気勁として木剣に伝わった気の力を、攻撃に一瞬で変換するには何が必要なのだろうか? 敵の防御を打ち砕く力として俺はふるっていたが。カムイはそうした気の変換方法を、本能的に学んでいかないとならないかもしれない。


「実戦で身に付く技術でもある。武器に流した気を、攻撃に変換する部分さえ感覚として身に付けられれば、すぐにでもモノに出来るはずだ」

 カムイは気落ちする事も無く、俺の言葉に素直に従って「はい」と返事をする。


 エウラの方は──やはり斬撃を上手く撃ち出す事が出来ないみたいだ。これはカムイと同じく、精神と肉体の──その両方に気の力を操作する心象が、上手く一致していないせいなのではないか。そんな風に考えていた。


 そもそも「気」とは、生命に近い力だ。

 動物や自然の中に内在し、循環されている力。

 それを攻撃に変換して使用するというのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだ。


 つまり肉体にも精神にも、本質的に備わっていない物を、新たに獲得するように仕向けるようなものだ。自然(肉体)が否定する力を手に入れようという取り組みになる訳で、当然その新たな技術の獲得は困難なものになる。

 言うなれば今までに無い、()()()()()()()()()()()みたいなものだ。……そうだ、気の集まる丹田たんでんに、新たな機能を付け加える様なものかもしれない。


 それが簡単でない事は明らかで、精神にも肉体にも、新たな気の使い方を覚え込ませる必要があるのだろう。


 俺はこの思いつきをカムイとエウラに説明し、自らの精神と肉体の変容をするくらい、強靭きょうじんな意志と肉体の制御で獲得しなければならないと訴えた。




 二人にそんな演説をしている所へ、玄関からリトキスと──誰かが入って来た。

 一瞬、それが誰なのか分からなかった。

 記憶の中にあるその人物は、いつも刀と軽鎧を身に着けていたので、同一人物だと脳が判断できなかったみたいだ。


 記憶の中にある顔よりも少し老けた──無表情な面構えと、ざんばらの髪。

 それを見てもしばらく誰だか思い出せなかったが、リトキスとその男が近づいて来ると。その男が放つ気を感じ取って、それが誰なのかを思い出した。


「レオシェルドか!」

 俺は驚いて、その男の名を呼んだ。

 抜き身の刀を構えでもしているみたいな鋭い気配。

 離れている時はまったく感じないのに、近寄られると誰よりも濃い、威圧的な気配を感じる相手。それがレオだった。


「久しいな、オーディス」

 数年振りに聞いたレオの声は相変わらず低く、渋い声。

 周囲の仲間達も、ただならぬ気配を感じさせる男の登場に、息をひそめて見守っている。

 リトキスが隣に立つ男を、仲間達に紹介し始めた。


「この人はレオシェルド。『金色狼こんじきおおかみの旅団』の中でも、別格の強さを持つ剣の使い手で──鋭い剣の一撃は、鎧を着た相手でさえ一刀両断するほど凄まじい切れ味を見せる──剣の達人だね」

 おお──と、声を上げる旅団員達。

 エウラは噂で何度も耳にはしていただろうが、実物を見るのは初めてだったろう。


 久し振りに再会した剣士は、あい色の作務衣さむえに似た衣を着込み、その風貌ふうぼうをやや落ち着いた中年に見せていたが。まっすぐにこちらを見る黒い瞳には、闘志を思わせる鋭い気配がにじんでいるみたいだった。

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