エウラの「斬破」習得訓練
名字を持つ人と、持たない人の違いが判明する話。
やっとこれについて書く事が出来ました……
評価ありがとうございます〜! ブックマークにも感謝です。
タイトル上部の『方舟大地フォロスハートの物語』から外伝や、登場人物の設定について書いた物を投稿してあるので、そちらもお願いします。
「それでは、そろそろ帰りますね」
俺は鏡を手にし立ち上がろうとする。
「帰るのか? 泊まっていってもいいんじゃぞ?」
火の女神は秋波を送る。
「いやいや、そういう訳にもいかんでしょう。俺にとっても、あなたにとっても」
俺はなるべくやんわりと、下手に出る感じで身を引く。
ミーナヴァルズは「つまらん」と口にすると、紅玉の仮面を付けて、手をヒラヒラさせて帰るよう促す。
「それでは──神騎兵の兵装については、地の化身エウシュマージアの象徴武具を造ってから、あるいは監視飛翔体を完成させてからになるかもしれませんが……必ず協力するので」
失礼しますと部屋を出る。
火の神は本当に自由奔放な人だ。
暇だと言っていたが、あの巨大な燃える蛇も、冬場は冬眠に近い状態になっているのだろうか。人型を取った女神の方は、自由気ままに活動を続けているようだが。
廊下に出ると、部屋の外で待っていた巫女に連れられて、迎賓館を後にした。巫女はご丁寧に神殿の馬車を用意してくれていて、それに乗ってミスランへと戻る事になったのだった。
馬車は宿舎の前まで来ると俺を降ろし、フレイマへ戻って行く。
扉を開けて庭に入ると、仲間達が集まって訓練を行っていた。連休最終日だというのに、身体を休める気は無いのだろうか。
様子を見てみると──訓練というよりは、講義をしているようだった。
メイがカムイに、相手の攻撃をどう見極めて、反撃に出るか、そういった細かい動きを説明している。
リーファやエウラも参加して、カムイに対して熱い指導が行われていた。
「休みだというのに、精が出るな」
四人が集まっている所へ近づくと、エウラは俺の姿を見て声を掛けてくる。
「オーディス団長、以前に言いましたけれど……斬撃を撃ち出す──『空破斬』と呼ばれる、剣気の技を教えて欲しいんですが」
そう言ってきたのだ。
「『空破斬』? 冒険者の多くは『斬破』と呼んでいたが──そう呼ぶのがシャルファー流なのか?」
俺の言葉に彼女は一瞬、返答に苦慮するみたいな表情をして見せたが、もごもごと言葉を口にする。
「あ──いえ、その……私の実家では、そう呼んでいたのです。──剣技を教える、武芸の一派だったので」
彼女の過去についてはあまり聞かなかった。そう言えばエウラの兄とも、過去の話しはあまりした記憶が無い……ただ。
「ああ、そうか。それで名字が『フィアネスト』なんだな。納得した」
フォロスハートの人々の多くは名字を持たない。名字があるのは領地を持つ貴族や、管理局が公認する職業を継承している家族。──例えば戦士を育てる役目を持つ、武道の師範を受け継ぐ一家などだけである。
エウラの兄エルグも、彼女自身も──名字を使って名乗った事はほとんど無かった。この兄妹を育てた両親は死に、二人を引き取った叔父が厳しい人だった、というのは聞いていたが。
「あれか。名字を捨てるだけの理由がある、という奴だな」
「ええ……まあ……」
エウラは「困った」という表情を隠そうともしない。
まあ、話したく無ければ話す必要は無い。俺は彼女にそう言うと、木剣や革鎧──それと防御魔法を仕込んだ盾を準備する。
「斬破は──剣先からほんの少し、射程が伸びる斬撃という心象だが、要は剣圧を尖鋭化し、刃の形を持たせた斬撃を撃ち出す──おい、そんな難しそうな顔をするな」
どういう訳かエウラだけでなく、カムイやメイまでもが俺の近くに集まって来て、訓練を見ようとしている。
「カムイはまだまだ『剣気』を使いこなせていないからな──まあ武闘大会では、剣気の使用は禁止されるはずだから、使えなくても問題は無い」
大会では、そうですね。とカムイ。
冒険では剣気を使えるか使えないかで、戦略がまるで変わってくる。戦い方そのものが変化するのだ。
カムイは操気も苦手だが、剣気を習熟する為に努力しているのも知っている。──これらの扱いは潜在的な部分が大きいのではないかとすら思われるが、地道に気の扱いに慣れていけば──いずれ、才能が開花すると期待する他は無い。
外野は放っておき、エウラに斬破を使わせてみる事にした。
俺は革鎧を身に着け、衝撃や魔法の威力を弱める効果を持たせた盾を構える。
「撃ってみろ」
彼女から数メートルほど離れた位置で攻撃に備える。初心者相手のこうした訓練は結構怖い、攻撃が逸れる事もあるからだ。狙った場所に斬撃が飛ばないと、どこに盾を構えていいか分からなくなる。
彼女の一回目の斬破は盾の正面に飛んできて、盾を弾こうとする力が加えられた。切り裂く系統の攻撃では無い、打撃に近い衝撃だ。
「斬破というよりは『破砕撃』に近い攻撃になっているぞ。剣先から放出される力では無く、一点を斬り裂く刃を飛ばす心象だ。木剣からでも鋭く、空気を引き裂く刃が撃てると考えろ」
次だと声を掛け、再び盾を構える。
破砕撃は剣がぶつかった箇所から、衝撃波が打ち込まれる様な──そんな攻撃だが、斬破の様に剣先から離れた場所に衝撃の力を繰り出す事も出来る。──しかし破砕する力は、ほとんど無くなるだろう。
そもそも身体の内部にある「気(内気勁)」を外部に効力を持たせる力(外気勁)に変換する必要がある。これが上手く出来る人と、出来ない人が明確に分かれる。──カムイは気を扱う事に、まだ不慣れなだけだと思いたい。エウラは……
「はっ!」
エウラの気合いの声が聞こえたが、盾には何の衝撃もこない。
「うぅ……出ませんでした」
エウラは外気勁への変換が下手なのだろう、内気勁が得意である反動だろうか。
彼女の「空破斬」習得への道は遠そうだ。
俺は盾をカムイに手渡すと、エウラから木剣を取り上げ、身体の中を流れる気が──外気勁へと変換する様子を見ておけと言って、盾を構えるカムイを前にして木剣を構える。
左足を前に踏み出し、剣に伝えた外気勁を線状に──一直線に撃ち出す。
「バシィッ」と盾にぶつかった斬撃が音を立てる。
カムイはしっかりと踏み留まったまま、びくともしない。さすがに鍛えられた足腰をしている。
盾に掛けられた力が衝撃を弱めたとはいえ、斬撃を撃ち出す攻撃がぶつかれば、かなりの重さを感じるはずだが。
「僕も、斬破を使う気の流れを見たいんですが」
盾を下ろしながら、カムイが俺に言ってきた。今度はその盾をエウラが持ち、俺はもう一度、斬破を使って見せる事になったのだ──




