連休最終日
次話予定……今回からは無しで。
極力、水曜日と日曜日の週2回投稿を目指しますが……そろそろ限界かも;
あ、誤字報告ありがとうございました。
仲間達は連休最後の休みを思い思いに使って、心と体を休める日にしたようだ。
──俺はというと、映像送受信機の構造を解析した情報を基礎に、新たな映像の送受信について考えたり、飛翔し制御する機構について研究したりして、ずっと鍛冶屋の研究室に籠っていた。
考えあぐねたりすると──気分を変える為に、エウシュマージアの象徴武具である「鎌」に使用する素材を揃えたり、設計図を見直したりし──時には、カムイの為に作る剣に、どういった効果を付与するかを考えたりする。
時間が空くと、アリエイラの湖から入手した霊晶石や宝石を、それぞれの素材置場に配置して、充実した棚を見て満足したりしていた。
「う──ん、この」
休日返上で仕事をこなす俺。
いつから旅団長は「黒い企業」の様な労働環境になったのか?
「あ──やめやめ」
監視飛翔体の問題は、映像などを送受信する部分が一番の問題点だ。そこを重点的に研究していこう。
俺は解析した送信部分と受信部分の複製を造る作業に取り掛かる。
金属板に送信や受信を可能にする回路を造り、硝子鏡面を取り付けた金属板から送信、鏡を取り付けた金属板が受信して、その映像を鏡の中に出力する構造だ。
金属板にそうした構造を封入するのは、金鎚で打ちながらでは不可能だ。──そこで、錬成容器を使った「回路の焼き付け」を行う訳だが……
「これ専用の錬成容器を造らなければならないか」
監視飛翔体用の小さな送信機と、鏡を取り付ける受信機。その二つの異なる回路の焼き付けを行う、二種類の容器を造る事になった。
「経費が嵩むな」
だがその前に実験的に送受信機の、遠距離通信を可能にする方法を探り出さなければならない。
もしかすると小型の物では、長距離の観測を出来ないかもしれない。それでは使い物にならないではないか。
「あ、魔力の共振性を利用してみるか」
俺は、その後──めちゃくちゃ実験した。
本当は順番としては、最も大きな事柄の「エウシュマージアの象徴武具」を造るべきなのだろう。
何故なら彼の神の力を取り戻す事で、他の大地に眠る神を探し出せるかもしれないのだから。
──だが今は、混沌領域を探索し、神騎兵の活動を助ける技術の開発に取り組む事を選択した。
どちらも大きな問題ではある。
しかし、この送受信の技術は、新たな大地の獲得に勝るとも劣らない、新技術の開発だと言える。
この原理はテレビの様な物を生み出すだろうが、おそらく最初は管理局や──一部の旅団が、冒険や探索で使う程度の情報伝達道具として使われるはすだ。
様々な実験の結果、混沌結晶を加えた回路が、最も遠距離までの通信を可能にする事が判明した。やったぜ、俺。
「初めて自分で自分を褒めたい」
というか、どの程度の距離まで通信が可能なのかは分からない。
実験の為にミスランにある宿舎の中に送信機を置き、映像を映す鏡を持って、俺は結局──都市フレイマまでやって来てしまった。まだまだ距離は伸ばせそうだ。
「おいおい、まだまだ距離を伸ばせそうだな……これなら、混沌の広大無辺な領域の中でも使えるだろう」
それに、混沌の中での運用に特化した造りにする事も可能なのだ。
馬車を使って街の中まで来た俺は、そのまま鏡を手に、神殿の方まで向かった。
どこまで歩いて行っても鏡に映る映像がブレる事も無い。
「あ、こら」
鏡に向かって思わず声を上げる。
玄関の棚から階段方向に向かっての映像を映していたのだが、不審な物が乗っていると思ったのだろうか。──猫のライムが棚の上に飛び乗って来て、硝子鏡面を付けた金属の箱をいじり始めたのだ。
「棚には乗るなと、いつも言っているだろ」
棚の上には小鉢植物園の硝子小鉢もあるのだ。簡単には動かないように、木枠で囲んだ板の上に乗せているのだが。
映像送信機は金属の箱を、棚の上に置いてあるだけだった。
硝子鏡面の前に顔を近づけ、匂いを嗅いでいるライム。……何とも愛らしい仕草だ。
「オーディスワイア様ですか?」
不意に近くから名前を呼ばれ、驚いてしまった。
「ゥぉっ? う、うん……そうだが」
何とか取り繕って声の方を見てみると、一人の巫女が立っていた。
火の神殿に務める巫女だろう。白いゆったりとした衣に、赤や朱色の装飾が入った巫女服を着ている。
「ミーナヴァルズ様がお呼びです」
唐突にそう告げると「拒否権は無い」とでも言う感じで、付いて来るよう身振りで示す。
「なんで俺がオーディスワイアだと分かったんだ?」
先を歩く巫女にそう尋ねると、彼女は火の神から「四角い鏡を持っている男が」オーディスワイアだと説明したらしい。
……なるほど、馬車でフレイマの近くに来ているのを感じ取った彼女が、暇を持て余して巫女に俺を呼びつけるように指示を出したのだろう。
鏡をちらりと見ると、画面には白い毛むくじゃらが座り込んで、ライムの背中か何かしか見えなくなっていた。
「困ったものだ」
俺はそう呟くと、巫女の後ろに付いて行き、迎賓館までやって来た。──以前に来た時と変わらない、整えられた庭園の側を通って、格式高い建物の中に入って行く。
館内の一室に案内された俺は部屋の中へと入って行き、そこで赤い衣服と仮面を付けたミーナヴァルズと対面した。……通訳の錫杖を手にした巫女の姿は無い。
「女神ミーナヴァルズ……何で俺がフレイマに来ていると気づいたんですか。来る予定も無かったのに」
彼女は紅玉の仮面を外すと、それをテーブルの上に置く。
「ふふん、お前が街道をこちらに向かって来るのが見えた故な。ちょうど退屈していたのじゃ、その鏡で何をしておった?」
馬車に乗っていたのが見えていたなら、何をしていたかもご存知でしょう。そう言いながらも、彼女に鏡を手渡す。
「なんじゃ、このもふもふした物は……ふむ、これが遠くの映像を映し出す鏡か」
「ええ、その鏡に映っているのは、旅団宿舎の一階です。白い毛玉は……画面の前に白い猫が座り込んでしまったせいですね」
「お、猫が退いたぞ。……ははぁ、なるほど。階段を上がろうとしている子猫を止めに行っているのじゃな」
画面を見ながら楽しそうに喋っている火の神。
俺は彼女の前にある長椅子に腰掛けると、風の神ラホルスに依頼された件について話を切り出す。
「ああ、神の手──神騎兵の強化か。新たな武装を造るにしても、その知恵は人の手による物でなければならん。そう申すのじゃラホルスの奴めが。まあ人の手に余る物であってもいかんからな」
そう言いながら彼女は手にしていた受信機の鏡を差し出す。
「それはともかく、お前の『金獅子の錬金鍛冶旅団』はフレイマに遠征に来んのか。せっかく冬になり暇になってきたのじゃ、お前もフレイマに訪ねて来んか」
そんな事を言うミーナヴァルズ。
「いや、旅団員が遠征に行くのであって、俺は遠征には行きませんよ」
すると彼女は「そう言うな」と口にしながら、つまらなそうに溜め息を吐いた。




