連休二日目の夕食会議
次話は日曜日の昼頃の投稿を予定。
カムイやユナ達に事情を聞くと、彼ら「黎明の白刃旅団」の三名がやって来て、戦闘訓練をしたいと申し出て来たらしいが──
「あいつら、すっごく失礼。うちはよその冒険者と訓練する時は団長の許可がいるって、カムイが断ったの。そうしたら……」
メイが横から口を挟んでくる。よほど頭にきたのだろう。
アンクバートが悪態を吐き始めて、危うく喧嘩になるところだった、とユナが説明する。
「あのなぁメイ、それこそ奴らの狙い通りじゃないか。挑発して──相手に喧嘩を吹っ掛けて戦闘になれば、それは相手の思う壺だろう? 冷静に対処して帰ってもらえばいいんだから。奴らの言葉なんか聞き流していればいい」
少女は「そうかもしれないけれど」と、むくれた顔をする。
「ともかく、私闘にならなくて良かった。連中も今度の大会に出場するみたいだし、そこでカムイが勝てばいいだけだ」
そうだろう? とカムイを見ると、ユナにメイもカムイの方を見た。
「了解です。全力を尽くします」
少年は苦笑いを浮かべて答える。意外な応援を背負う形になったみたいだ。
「カムイには、格闘の修練を積んでもらおう」
とメイが気炎を吐く。
少女の怒りはカムイを鍛え上げる鬼教官として、昇華される事になりそうだ。
「お、お手柔らかに」
カムイはメイの気迫にタジタジだ。……無理も無い。彼女と一対一で五分の闘いを行えるのは、同門のリーファくらいだろう。
リトキスも素手での闘いだけなら、メイには及ばない。
小柄な身体を捉えるのは難しいというのもあるかもしれないが、彼女の動きの速さ、反撃の巧さは──達人の域に達しているとすら思える。
俺も最近、彼女との訓練に付き合わされたが、また一段と強くなっていると感じた。攻撃した腕を取られて投げられたり、受け流されてがら空きの胴体を狙われたり……ボコボコにされてしまった。
一部の「良く訓練された変態」ならご褒美とも言える状況かもしれないが、特殊性癖を持たない俺にとっては、ただ単に「年下の少女に格闘技でボコボコにされた」という、──なんとも痛々しい想いしか持てなかった。
革鎧を身に着けた状態で、打撃のみの戦闘訓練をした時ですら、ほとんど一方的に打たれただけだ。
こちらは木の棒を手にして相手にしていたのにもかかわらず、彼女の身体に触れる事も碌に出来ずに、ボロクソに叩きのめされたのである。
「クックックッ……奴は四天王最弱──」などというお約束を口にする余裕も無く、地面に吹き飛ばされて咳込む羽目になったのは、未だに頭から離れない。
カムイもそれを傍から見ていたのだ。あの時の俺の様に、無様に地面に叩きつけられるのではないかと恐れるのも当然だ。
「メイ、大会前だ。怪我はさせないようにな」
俺は少女に手加減するよう求めたが、彼女の「わかった──」という返事からは、本当に理解してくれたのか、不安しか感じない。
夕食前は大勢が帰って来て、エアネルとレンネル、そして双子と共に「西海の大地」に釣りに行っていたエウラが、魚や貝を手にして戻って来たのだった。
「大漁です!」
とレンとエウラが報告に来るが、エアの方は──釣果がいまいちだったみたいだ。
「ふ、船に酔ってしまいました……」
エアネルは赤面しながらそう告げた。体調が悪かったのだろうか……彼女は船釣りを止めて、陸地での釣りと、潮干狩りに変更したらしい。
「おう、楽しんで来たか? ……まあ船酔いは楽しくはないだろうが」
エアネル曰く「海の匂いに酔った」のだそうだ。慣れない匂いと船の揺れで、感覚がおかしくなったと言いたいらしい。
レンネルは小さな鮪一匹と鰺を数匹、鰯などもかなりの数を釣ってきたようだ。
エウラも鰺、鰯の他に──鯛に似た魚を釣り上げていた。二人が海釣りを満喫したのは顔を見れば分かる。
夕食前には前日に砂抜きしておいた貝の料理や、豚肉の角煮などが食卓に出された。エウラも大きく具材を切った煮込み料理などは、作れるようになったみたいだ。醤油やお酒の量などは帳面に書かれた調理法通りに作れば問題ない。
蜂蜜も加えた甘辛い角煮は仲間達にも好評のようで、エウラは気を良くしている。
今後は料理下手な彼女も、少しは自信を付けて料理の腕も上がっていくかもしれない。
食後に黎明の白刃旅団の連中がやって来た一連の騒動について話し、私闘になるような状況は作らずに、やり過ごせるよう皆に改めて伝えておく。
「本来なら旅団という物は、互いに切磋琢磨し合う関係であるべきで──彼らのような、敵愾心をもって周囲の旅団や冒険者と、敵対する様な態度を取るべきじゃないんだが。……どうも白刃旅団は本当に、他の旅団に入った事の無い者達が集まって出来た旅団らしく、そういった基本的な作法が分かっていないみたいだな」
そう言いながらリトキスとカムイを見る。
「リトキスは武闘大会の『中堅冒険者』で出るから関係ないだろうが、カムイはもはや、白刃旅団のアンクバートとかいう奴に睨まれてしまったからな。休み明けから特訓して、確実に勝てるように整えておけ」
優勝できたら新しい剣を打ってやる。そう言うとカムイは、ますますやる気になったようだ。
「あの──僕のは?」
リトキスが控えめに手を挙げる。
「それは──何か他の物を考えておこう」
カムイに対してメイが「素手で勝てるくらいに鍛え上げる」と発破をかける。少女のやる気は完全にカムイを通して、白刃旅団の連中をボコボコにする事に向けられているらしい。
「怪我だけはさせるんじゃないぞ」
メイに一応、釘を刺しておく。
するとメイはユナの方を見て「回復魔法があるから平気だよね?」などと声を掛けている。
「いや、回復魔法があるから──とか、そういう事じゃなく……」
さすがにカムイも逃げ出したくなっただろう。
(がんばれ、カムイ)
俺は心の中で少年の成長を期待し、彼を千尋の谷に突き落とす。
明日は連休最終日、仲間達はそれぞれの予定を話し合っている。
「そう言えばオーディスさん」
と、リトキスが声を掛けてくる。
リトキスは連休を活かして、旅団の若手を育成する冒険者を探していたのだという。
「おいおい、そういった事は先に言ってくれよ。というか、旅団員を増やすなら──それなりの相手でないと……」
そこまで言うと、リトキスは片手を上げて制止する。
「もちろん分かっていますとも、だからこそ僕は、かつての仲間を探していたんです」
「なに?」
するとリトキスはニコリと微笑む。
「金色狼を辞めたレオシェルドさんや、アウシェーヴィア、キャスティなら──安心して旅団に迎え入れられるんじゃないですか?」
俺ははっとした──そうか、その手があったのをすっかり忘れていた。
「確かに──特にレオは剣の、アウシェは武器と魔法の、キャスは魔法の扱いに長けた冒険者だからな。……キャスはまだ現役だと思うが、いや──他の二人だって、その気になればまだまだ現役で冒険を続けられるだろう。他の旅団に加入しているんじゃないか?」
「いえ、少なくともレオシェルドさんと、アウシェーヴィアさんは、どの旅団にも入っていないらしいです。キャスティは──正確な情報が入らなかったので……」
この話をレーチェにも聞かせると、さっそく相手方と連絡を取りましょう、と言い出した。若手の育成の事もあるが、彼女は共に冒険できる強力な仲間が出来ると踏んでいるようだ……
「うっかりしていました。金色狼から古参の冒険者が離脱したと聞いた時に、この問題について考えておくべきでしたわね」
いや、もしかすると──より良い訓練相手を求めての事かもしれない。




