水の神との対話。管理局の思惑を聞く
文化による侵食とは、便利さや簡略化を求める性向を利用した侵略行為になりかねない。
オーディスワイアはそういった事に危惧を抱いている、という事です。
次話は──水曜日の午後6時~投稿予定です。
湖畔に宝石や霊晶石を放っておき、簡易暖房装置を置いて大量の結晶や宝石を乾かす事にする。濡れたままでは持ち帰るのが大変だ。
乾くまで奥神殿にある暖炉で身体を暖め、乾かしながら──アリエイラと話しをする。何やら俺に話したい事があるのだとか。
彼女に勧められるまま暖炉前の椅子に座り、テーブルに置いた白磁の器に入った緑茶を口にする。
温かい飲み物を飲むと、身体が冷えていた事を実感した。
ぱちっ、ぱちっ、と薪が爆ぜる音を聞きながらアリエイラと向かい合って座り、湖底に沈む霊晶石や宝石の多さに驚いたと話す。
「そんなにありましたか。たまに精霊達がそうした石を運び集めているのは知っていましたが、それほど貯まっているとは思いませんでした」
「相当な量が埋蔵されているんじゃないでしょうか。ちょっと砂の中に手を入れて掘り返しただけで、簡単に見つけられたくらいですから。出来れば湖底を浚って、すべての霊晶石や宝石がどれほどあるか、見てみたいくらいですね」
ちょっと想像してみたが、あの湖底全体を煌びやかな宝石や結晶で、埋め尽くせるのではないかとすら思える。
「そうですか……これからは精霊達の手を借りて、霊晶石や宝石を湖畔に集めてもらいましょうか。それらを管理局に引き取ってもらえば……」
「それを各地の素材を取り扱う店で売ったり、錬金術師や錬金鍛冶師に回して貰えれば、霊晶石が品薄になる問題は、当面の間は回避できると思います」
水の神は頷き、目を閉じて考え事を始める。
暖炉の中でぽんっ、と大きな音を立てて薪が爆ぜ、アリエイラは目を開けると──管理局と話し合った時の事を告げた。
「管理局は『西海の大地』との接合以来、本格的に他の大地との接合を考え始めているようです。『鉱山と荒野の大地』の接合計画を練り、私達に問題点は無いかと尋ねてきました」
そんな事になっていたのか。管理局のどの部署が始動するつもりなのかは分からないが、神々に尋ねるとなると、それだけ本気という訳だろう。
「ただ、四大神の──私達の力だけでは、向こうの大地を引き寄せるのは難しいでしょう。鉱山と荒野の大地に眠ると思われる神の力を復活させられれば、あるいは──」
それについては管理局でも度々、議題として上がっているらしい。そうした話をメリッサから聞いた事もある。
彼女は別の大地に眠る神の力を「象徴武具」の力で回復させ、神の協力を得てフォロスハートと接合させようという考えを唱えたが、相手の神がどういった存在であるかが分からなければ、象徴武具を造れないだろうと俺は反論した。
その問題を解決するのに、地の化身エウシュマージアの力を復活させ、彼の神の力で──別の大地に眠る神の存在を探ってもらおうという話も出たらしい。
エウシュマージアにも直接話しを聞いたようで、対象の大地と同調できれば神を探し出すのは可能かもしれない、と言われたらしいのだ。
管理局も以前からある「楽園創造計画」などという、仰々しい理想を掲げる者達で話し合いを始めており。今は神結晶の入手を冒険者に依頼するなどして、この計画の進捗をわずかでも進めようとし始めたのだ。──この計画は夢物語では無いと、「西海の大地」が証明したのは大きかっただろう。
今まで以上に精力的に彼ら「革命思想の持ち主」が活動を活発化させたのは当然と言える。
理想とする世界を自らの行動で作り出す事が出来るかもしれないのだ。それは、やる気にもなるだろう。
「あなたは大丈夫なのですか? オーディスワイア」
アリエイラは唐突に言った。
「え? 何が……ですか?」
「体調とか、その他についてです。忙しい上に、さらにラホルスにまで協力を要請されて……」
ああ、と納得する。
確かに忙しく、取り組まなければならない作業は小さなものから、大きな物事まで──色々とある。旅団員の武具についても、神々の象徴武具についても作製に取り組まなければならない。
監視飛翔体の設計だけでなく、神騎兵の強化についても考えねばならないとなると、それは忙しくなる。
混沌結晶の研究をする暇も無い。
監視飛翔体や神騎兵の設計を考える上で、混沌結晶から学んだものを利用するのは、混沌と戦う神騎兵に有益であるのは間違いないだろう。
これからも混沌の研究を続けながら、この世界に満ちる混沌を退ける、その方法を探し求める歩みを止めない。
自分がそれを発見できずとも、誰かが俺の後を引き継いで──混沌に対する防御や、排除手段を手に入れられるまで、俺達のような技術者の知恵と力は、どこまでも続いていくのだから。
「これからのフォロスハートの為にも、ここが踏ん張りどころですね」
暖炉の前で髪を乾かし終えると、誰かが玄関の扉を叩いた。
「あら……誰でしょうか」
アリエイラは立ち上がって玄関に向かう。
居間から出て、彼女が通路を歩いて行く足音を聞く。
室内履きの、ぱたぱたと小さな足音を聞きながら──温かいお茶を啜る。
ここに来たのは二度目だが、実家に来た様な安心感がある。不思議なほど落ち着いていられる場所だ。
白い壁の所々が青い光を反射する。
石の中にある青く輝く石が、キラキラと光り輝く部屋。
心安らぐ匂いがする。
暖かい暖炉の前でウトウトと舟を漕ぎそうになった。
背伸びをして緑茶を飲もうと器を手にした時、ドアを開けてアリエイラが銀色の盆を手にして部屋に戻って来た。──どうやら食事を運んで来たらしい。
「神殿の方から昼食が届けられました。あなたの分もちゃんとあります」
テーブルの上に盆を置く。皿に乗った料理は魚の煮付けに、根菜の煮物。茸の入った炊き込みご飯など……何となく和風なのは、アリエイラが指示を出して作らせた物だからだろうか。
「懐かしい感じの料理ばかりですね」
すると彼女はにっこりと微笑む。少女の面影を残した微笑に──こちらも笑顔で応える。
醤油を基礎にした味付け──出汁も魚介の風味を感じる。煮干しや昆布の出汁だろう。
俺と水の神は、それらを美味しく食べ終え。食後に少女の神官が持って来た、小豆餡を包んだ胡桃餅を食べる。
糯米に小豆や大豆はフォロスハートでは貴重だ。生産数が少ないのが理由だが、小麦や米を生産する方が求められている現状では、これ以上の増産はなかなか難しいだろう。
糯米はウンディードでのみ生産が行われているので、他の都市ではまず手に入らないみたいだ。
餅を使った料理や菓子などが出回るようになれば、別の場所でも糯米が生産されるようになるかもしれないが。
「どうでしたか?」
胡桃餅を食べ緑茶を飲んでいると、アリエイラが尋ねてきた。
「もしかして、これは俺の記憶を辿って作らせたんですか?」
水の神は神妙な顔つきで頷く。
「美味しかったですが、あまり向こうの文化などを取り入れない方が──まあ俺自身も、チョ○レートを作ったりしているので、大きな事は言えませんが」
異文化の流入によって本来、花開くべき文明の息吹が閉ざされてはいけないと思う。
崩壊前の世界にあった文化の情報は、残された書籍の中にしか無い物が多いが。それらに目を通しただけでも、俺が元いた世界とは──ずいぶんと違った文化体系があったようである。
彼女は「あなたに喜んで欲しくて……」と寂しげに笑う。
「あ、ごめんなさい。それは嬉しいのですが……いえ、ありがとうございます」
疲れているのだろうか? 女神の厚意を無下にするところだった。せっかく用意してくれた心配りを否定するなど、いくら文化の──大勢のこれからに関わる事柄とはいえ、他者の厚意を蔑ろにしていいはずが無い。
俺は反省しながら──彼女の手をそっと握りしめた。




