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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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巨大なる水の竜

次話は日曜日のお昼頃に投稿予定。

 湖底に向かって沈んで行く。

 その時、湖の奥にある──深い場所が気になった。そちらに向かって()()()()と泳いでいると、その深いみぞの奥が見えてきた。

 そっちも白い砂があり、大きな岩なども見える。


 そしてその奥──岩場の所に、真っ青な巨体を持つ竜の姿が見えた。

 正直な話、その姿を見ると恐怖を覚える。

 先ほど地上で会った水の神アリエイラの本体だと分かっていても、巨大なわにに似た頭部を持つ竜の姿は、潜在せんざい的に恐怖を呼び起こす姿であった。


(竜と言うよりは()()()()()()みたいだ)

 短い手足があるので、正確にはモササウルスとは違うだろうが、外形フォルムは鰐に似ており、その大きさは完全にモササウルスだ。


 ぶっちゃけ転移門先に、これほど大きな竜が現れたら……普通は逃げるだろう。──しかしそこは冒険者。巨大な砂鯨でさえも討伐とうばつしてしまうのだから、挑む者が出るかもしれない。

 しかしこの水の竜が相手だと、フォロスハートの冒険者はみんな叩きつぶされてしまいそうだな。

 そう考えつつ、深くなった場所には向かわずに、浅い方の湖底に降り立った。


 砂地の中に手を入れると、ゴロゴロとした感触があり、石がたくさん浮き上がる。──その多くが霊晶石で、いくつかは宝石や水晶。

 中には様々な色合いをきらめかす蛋白石オパールなども出てきた。

 発光結晶の光を当てて蛋白石を見ていると、青や赤、緑色といった様々な色に光輝く。


 それらを麻袋に入れていると、急に辺りが暗くなった──驚いて上を見上げると、巨大な影が通り過ぎて行く。……大きな竜が尻尾を横に揺らしながら水中を進んで行った。

 ぐるりと水中で向きを変えると──大きな体で、ゆっくりとこちらに迫って来る。


 それは水の神アリエイラだと何度も自分に言い聞かせるのだが、恐怖が腹の底から沸き上がるのを感じるのだ。生き物としての本能的な恐怖。

 この相手には絶対に勝ち目は無い、そういった思いを抱く恐怖だ。


 巨大なアリエイラは、湖底に巨躯きょくを静かにわせると、俺の目の前に顔を突き出す格好になる。

 恐る恐るその鼻先──というか、下顎の先端をでてみる。……ゴツゴツとした手触り。頑丈な革は、それ自体が頑丈な盾のよう。


 大きな彼女の身体に触れた事で、少し恐怖が和らいだ気がした。この巨大な生物は人間を襲ったりはしないのだと自分に信じ込ませる。


 つややかなうろこがあったので、それをなでなでと撫でると、彼女は静かに浮上して──湖底のさらに深い場所にある台座の様な岩場に戻って行く。

 水中を泳ぐ姿は巨大な鰐そのものだ。

 陸上最大の大きさを持った鰐でも、これほど巨大な身体では無いはずだが。


 水の神の顕現けんげん体は背中に鋭い角やとげを持ち、手足にも鋭利な爪が生え出ていた。尻尾にも棘や、先の尖った鱗が無数に付いており、背中の側面には角状の物にひれが付いた器官があり、それで水中での動きを機敏にしているらしい。

 小さな翼を開くみたいに広がったかと思うと、水をいて推進力を生み出している。


 遠くの方へ行ってしまった女神を見送って、霊晶石探しを再開する。

 水が湧き出している場所以外でも、砂の上にも下にも、大量の霊晶石が見つかった。

 気を良くして砂の中に手を入れていると、何やら近づいて来るものがある。

 それはキラキラと光を反射しながら、砂地の上を歩いてこちらに向かって来ている。それはゆっくりとした動きで、俺の手前までやって来て立ち止まった。


 それは透明な海老えび

 ()()()()()()()()()()だ。

 キラキラと輝くそいつの後ろから、青い半透明な身体をした海老が現れた。

 続々と姿を見せる海老──そしてかに

 どうやら水の神の召し使いか何かであるみたいだ。


 大きな海老は人の腕や脚くらいの大きさがあり、ずんぐりとした蟹も、胴体だけで人の頭くらいはある。

 彼らは湖の中に入ってきた異物を取り除いたりしているのではないだろうか。


 俺の周りに集まって来たそれらは、青っぽい色か、透明な水晶の身体の綺麗な存在だった。

 目玉の部分が赤や桃色に光を反射している。

 彼らは人間を見たのが初めてなのか、俺の周りをうろちょろとしながらも、こちらの邪魔をしようとはしない。


 しばらくすると、俺が霊晶石を探しているのだと感づいたのだろう。

 砂の中に潜って行くと、ぞろぞろと砂の中から顔を出し、体やはさみで霊晶石や結晶などを砂の上まで運んで来てくれた。


 麻袋が一杯になると背負うのが大変なので、霊晶石を集め終えると、彼ら海老と蟹の姿をした精霊と別れ、陸上へ向かって這って進んで行く。──そうしている俺の姿は海老と大差ないだろう。


 水面に上がって来ると、すぐに簡易暖房装置を稼動かどうさせ、用意した綿織物タオルで体をぬぐいながら寒さを振り払うみたいに手足をばたつかせて水を落とす。

 はたから見たら湖畔こはんでフルチ○になって、狂ったようにおどっている変質者みたいだ。


 しかし寒さはどうにもならない。砂地の上に置いた霊晶石や宝石などの事は忘れて、体中の水気を取り除くと、下着や衣服を着込む。

 義足も付け直すと暖房装置の前に屈み込んだ。

 髪は湿ったままだが──致し方ない。


 暖房装置の前で丸まっていると、そこへ水の神アリエイラが戻って来た。その手には熱い緑茶が入った陶器の器を手にしている。

「ありがとうございます」

 少し震える手で器を受け取り、暖房装置の前でうずくまったまま、拾い集めた霊晶石や宝石の方を示す。


「宝石まで拾ってきてしまいましたが……持って行っちゃまずいですよね?」

「別に構いませんよ。それに、ほら……」

 アリエイラが指し示したのは湖の方。

 何事かと暖房に背を向ける格好で振り返る。するとそこには、何匹もの水晶の身体を持つ海老や蟹が水面から顔を出し、その身体の前には──白い砂の中にまぎれて、いくつもの霊晶石や宝石が転がっていた。


「彼らもあなたの為に、湖底から持って来てくれているみたいですし」


 水晶の甲殻類は何なのかと水の女神に尋ねると、この湖に生まれる精霊なのだそうだ。滅多に形を取る事は無いのだが、まれに地下から水と共に湧き出す水晶などに紛れて、物質の身体を持って精霊が生まれるらしい。

 精霊の事はよく分からない……錬金術でも、その四大元素を基礎とするのだが……彼らは「命」では無く、「存在」の根源としての役割が大きいらしいが。


「彼らはあなたを気に入ったみたいですよ」

 確かに、水晶の海老や蟹が水面から顔を出して、懸命に螯を持ち上げて何かを訴えてきている。かちん、かちんと螯を鳴らしたり、砂を掻き分けて宝石を白い砂山の上に乗せたりしている。

 宝石や霊晶石を持って行け、という事なのだろうか。


「ありがたく頂戴ちょうだいするよ」

 そう彼らに声を掛けると満足したのか、湖の中へと帰って行った。

 アリエイラを見ると、そんな彼らを微笑ほほえましく思ったのだろう。優しげな笑みを浮かべて立っている。


 あの巨大な青い竜と彼女が同じ存在だとは、やはり整理がつかない。頭で理解する事と、心で感じる事は別なのだと、改めて知るのだった。

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