早朝訓練の結末と判子の完成
次話は日曜日のお昼頃を予定。
たくさんのブックマークと評価に感謝します。
双剣になったカムイと木剣と革の盾を構えるレンネルの激戦が始まった。もはや訓練の域を超えてしまった気もするが……
気づくと庭に多くの旅団員が集まって来ていた。激しい戦闘音を聞きつけた様子だ。
ウリスとヴィナーの姿もある。
多少の怪我はウリスの魔法で治せるだろう。
しばらく二人の若者の激烈な訓練を見守る事にする。
二人の闘いは予想外な展開となった。
双剣になったカムイを相手に、レンは一歩も引かない。
「そうか、相手の攻撃回転率を下げる為に前へ出て、反撃する作戦か」
だが──それはカムイ相手ならともかく、リゼミラには通用しないだろう。仮にカムイの攻撃速度がリゼミラと同格になったとしても、反撃に移る時機の見極めなど──経験の差が歴然と出てしまうのだ。
それは動きの速さとか、瞬発力とか、そういった物を超えた感覚的領域で決定される、先を予測して行動する──戦う者の精髄。
研ぎ澄まされた感覚の発現。
達人の領域に至った者だけが持ち得る特有の、超感覚的世界の視野と動き。
一瞬の間に繰り出される攻撃の二手、三手先を読む、卓越した戦闘感覚。
──俺も、そうした体験を得た事はあるが、いつも危機的状況でのみ、そうした感覚に没入するのを感じていた。
命を削る戦いの中で勝ち取った感覚は正真正銘、戦闘の中でのみ発揮される、独特な働きをする超感覚だった。
レンは盾で木剣を弾いて突進し、鋭い突きを見舞ったが、カムイはそれを読んでいた。突きを打つ右腕の外側に回り込むと、左手の攻撃でレンの脇腹を軽く打つ。
わずかな足捌きと体移動の差で、カムイが勝利を収めたのだ。
それもまた、経験の積み重ねが可能にする動きであり技だ。
二人の少年の闘いを見守っていた仲間達からも拍手が起こる。それほど見応えのある闘いだった。
確実に二人とも強くなっている。──そしてそれは、身体的な力が上がったというだけでなく、考えながら戦う事が出来ているせいだ。
どうやったら相手の攻撃を躱せるか、反撃できるか、攻撃後の隙を無くすにはどう動けばいいか……そうした事を考えながら、日頃の訓練を行っているからこそ、短時間で強くなれるのである。
若い頃は特に身体の使い方が分かっていない場合が多い。足の動かし方に気を使い、身体をどういう具合に動かせばいいか、それを考慮しながら戦えるようになれば、今まで出来ていなかった分だけ、どんどん強くなる事が出来る。伸び代があるのだから。
「負けちゃいました……」
木剣と革の盾をだらんと下げた手に持ち、レンが息を切らせながらこちらに近づいて来た。
「いや、良かったぞ。レンネルもずいぶんと強くなったな、驚いた」
今度オーディス団長の剣と盾による戦い方を学ばせて下さいよ、と言ってくるレン。
俺は「大した事を教えてはやれないだろうが」と断りを入れ、それでもいいのなら相手をしてやる、と宣言する。
「レーチェさんが言ってましたよ。『オーディス団長の動きを取り入れたら、対人戦闘のコツが見えてきましたわ』って、きっとオーディス団長が思う以上に、剣と盾での戦い方に独創的な部分があるんじゃないでしょうか」
もちろん盾を使った対人戦闘にも、それなりの経験を積んではいるが──それは、主に各転移門に現れる戦士や、騎士の姿を持つ敵との戦闘から得た経験からくる技術だが。
人型の魔物なども居る(身体の大きな奴も)。そうした相手との戦闘経験にも対人戦闘の技術は活きてくる。
「ちゃんと先達の意見を聞き、そこに新たな戦術なり、訓練による身体強化を取り入れるなりすれば、もっとレンもエアも強くなれる。若さとはそういうもんだ」
「団長もそんなに老け込む歳でもないでしょう」
「そうは言うがな、ある程度の年齢を過ぎると身体の成長は止まるものなのだ。──いや、待て。それこそが固定観念というものか。錬金術の発達で、身体を若いまま維持する薬品などが開発されるかも……」
真顔で考える振りをすると、レンが肩を竦める。
「そういった薬品の開発よりも、運動や食生活で変えられるものがあるんじゃないですか?」
などと可愛げの無い正論を口にするレンネル。
「おまえ最近、可愛げが無くなったなぁ。……ちょっと前まではエアよりも女の子みたいな感じだったのに」
するとレンは、ムッとした表情をする。
「大きなお世話ですよ。冒険者なんです、それは少しは男らしくもなりますよ」
そう言いながら、訓練はここまでにして、釣りに出かける準備をしてきますと言って、宿舎へと戻って行くレン。
庭で訓練をしているとメイが呼びに来た、朝食の用意が出来たらしい。
食堂へ向かう前に、玄関前の猫達の様子を見る。二匹の子猫がじゃれ合い、一匹の子猫が母猫のライムのお腹に寄り添って甘えていた。
そこへユナとエウラが猫達の餌を乗せたお皿を運んで来る。
「オーディス団長の今日の予定は?」
とエウラが尋ねてきたので、ウンディードへ向かう予定があると伝える──すると。
「あ──そうでしたか。いえ、実は剣気の訓練で斬撃を強化する技を見ていただけないかと。実戦で何度かうまくいったのですが、今一つ攻撃の伝わりが弱いというか……」
剣を振り下ろす圧力に、斬撃の衝撃波に似たものを叩きつける技があるが、これは剣よりも数メートル先に届くか届かないかの短い距離を攻撃する手段になる。
魔物などを相手にする時には有効で、例え固い鱗などに覆われた生き物に対しても、有効な攻撃となる──中堅剣士の生命線となる技だ。
「破砕撃」のような剣圧で攻撃箇所を粉砕する攻撃よりも、一直線上に撃ち出す攻撃なので、切断する威力は相当な物になる。
「分かった。今度時間が空いたら──って、せっかくの休日なんだ。体を休めろよ」
そう言ってやると、彼女は「いやぁ……」と頭を掻く。
「分かってはいるんですが、休みとなっても体を動かしておかないと鈍るような気がして……」
職業病ですね、と笑うエウラ。
最近彼女は伸び悩みを抱えている節がある。
何とか力になってやりたいが……
すると玄関の方で鐘が鳴った。
こんな時間から訪問客か?
俺は庭の方に出て、門の方に向かう。──するとそこにはサリエが立っていた。
「おう、どうした」
「寝る前とかの時間が空いた時に完成させちゃいました」と、サリエは判子を入れた小さな箱の中身を見せる。
「おお、ご苦労さん。──しかし、せっかくの休みなんだから実家に顔を出したり、どこかへ出かけたりすればいいじゃないか」
俺はエウラに言ったような言葉を繰り返す羽目になり、苦笑いする。
そうなんですけどね──と、同じく苦笑いを浮かべるサリエ。
俺は礼を言って、彼女が完成させた判子を受け取る。
「あ、劣化防止は掛けていないので、お願いします」
サリエに「分かった」と応え、彼女の仕事に労いの言葉を掛けて彼女が帰るのを見送った。すぐそこにある鍛冶屋の二階へと戻って行くだけだったが。
俺は倉庫に置いてある予備の錬金台を用意すると、素材保管庫にある不銹結晶を使って、判子に劣化防止を付与する。
完成した判子を執務室の小箱の中にしまうと──食堂へ行って、レーチェに判子がすべて完成した事を告げた。
「これで事務作業が楽になりますわ」
肩が凝る、といった風に肩を叩くので、その大きなおっぱいのせいだろうと内心思ったが、口にするのは止めておいた……




