連休二日目(早朝訓練)
オーディスワイアと旅団員の若手の戦闘訓練──片脚が義足だとかなり不利でしょう……
次話は水曜日の午後6時~を予定。
翌朝──恒例の朝の水やりと拝礼を済ませると、広くなった敷地を見回す。壁が無くなっただけで圧倒的な広さ、開放感が半端ない。
「サッカーだってやれちゃうぜ」
……いや、そこまでの広さはないか?
蹴球なんて体育の授業でしかやった事は無いけどな!
……それにしてもカムイの成長ぶりには驚いた。きっとはっきりとした目標が出来て、それに対して努力しようと覚悟を決めたのだろう。
ただ周囲に流されるだけだった少年が、今や自らの意志で、自らの道を歩もうと行動し始めたのだ。
この素晴らしい若者の決意に応えてやりたい。
あいつに相応しい剣を作るべきか……しかし、魔法も使えないし、カムイは操気では筋力強化や瞬発力強化しか使えないのだったな──
その自己強化を補助する魔法の効果を付与した剣を作るべきだろう。身体能力の高いカムイをさらに強化すれば、例え操気や剣気(攻撃に気の力を重ねる)が苦手でも、上級難度で活躍できる冒険者になる。それは間違いない。
何しろ俺の若かりし頃が、まさにそうだったのだから。──最初から剣気の使い手だった訳じゃない。
「あ、おはようございます」
突然背後から声がして、声を上げてしまった。
「び、びっくりした……なんですか、今の『うひょぁっ!』っていう声は」
そこに居たのは木剣を二本用意したカムイだった。朝食前に運動をしようというのだろう。
「お前が脅かすからだ。気配を消して俺の背後に立つんじゃない」
何か、どっかの狙撃手みたいな事を口にしてしまった。
「すみません──けど、ちょうど良かった。暇なら剣の稽古に付き合ってくれませんか」
カムイは木剣の一本を差し出してくる。
一本の剣での戦い方はリトキスが一番の使い手だが……まあいい。
俺は広々とした場所に行くと、渡された木剣を黙って構える。
「寸止め、瞬迅(気による加速移動)ありで構いませんか?」
カムイは言う。
俺は黙って頷く。──かなり本気の訓練になりそうだ。
俺の予想通り、少年はかなり気合いが籠もった攻撃を繰り出してくる。
俺から学べる事があると踏んで訓練を求めているのだ。
それが何かを俺は知っている。
足を使わずに、剣捌きだけで相手の攻撃を受け流し、反撃に転じる動きを学びたいのだろう。
これは俺が大剣を使い始めた頃から行っていた防御手段、そして攻撃への布石の一つだった。
カムイの攻撃は入団したての頃とはまったく鋭さが違う。一撃一撃の速度も重さも段違いだ。側面に回り込もうとする動きも、瞬迅なしでも充分に速い。
カムイの瞬迅は距離が短いし、連続使用も出来ないが、それでも充分だろう。
横薙ぎにされた木剣が俺の脇腹を狙って襲い掛かると、俺は腰を落として剣を斜めに構え、上方へ弾き返すと、カムイの空いた胴体に向けて返し刃で打ち据えようとする。
「ガツン」と木剣を木剣で受け止めるカムイ。
さすがに一度喰らった攻撃はもう通用しない。
「良い動きだ。──とはいえ、まともに攻撃を受け止めていたら、武器も自分自身もすぐに限界がきてしまうぞ」
ところがだ、次の攻撃を受け流して反撃した時に、カムイは俺の反撃してきた胴を薙ぎ払う木剣を受け止めながら、強引に半歩踏み出し反撃してきて、俺の腕を打ち据える。
「いでででっ‼ 寸止め、寸止め!」
俺は非難の声を上げつつ、カムイの成長を頼もしく思った。この豪快な反撃は俺も使った事がある。
相手の攻撃を受け止めながら、接近しつつ一刀両断にする強引な反撃。訓練でカムイには見せた事は無かったが、俺もこうした反撃をした事がある。少年なりに考えて──反撃の達者な相手に対して行う、起死回生の一手として編み出したのだろう。
「いやぁ、つい……」
思い切り振り抜いた木剣が二の腕を叩いたのだ、痣になっているだろう。筋肉で防いでいるので、骨にヒビは入って無いだろうが。
「まったく、酷い奴だぜ。新しい剣を作ってやろうかと思っていたが、やめとこうかな」
するとカムイは焦った様子で「いや、それは──ごめんなさい!」と謝り出す。
なんだなんだと庭に出て来たのは、レンネルとエアネルだった。木剣がぶつかり合う音を聞きつけて出て来たらしい。
「朝から訓練ですか」
木剣と革の盾を手にしたレンに、槍──穂先の付いてない棒──を手にしたエアが庭に出て来た。
休日の朝に訓練か? そう尋ねると、レンは大きく頷く。
「今日は海に釣りをしに行く予定なので、その前に少し体を動かしておこうと思って」
「昨日カムイに、ボッコボコにされたのが悔しかったと、そう言ってるのね」
弟の言葉に余計な意訳を付け加える双子の姉。
レンは姉の言葉を否定も肯定もせず、俺の方を向くと「団長は姉の相手をしてくれませんか? はっきり言って、ここのところ良いところ無しの姉を見ていると──一生、中級止まりの冒険者になる未来しか見えません」などと厳しい事を言う。
「分かった……少し相手をしてみよう」
怒り出したエアネルを抑え、広い場所で訓練相手を努める事になった。
突きを多用する槍使いの攻撃は、足捌きで回避するのが定石だが、俺の足だと──わずかな体移動で躱し、ギリギリを見極める必要がある。
だがエアネルの突きはそれほど怖くない。突いてくる瞬間が分かり易いのだ。
「エアネル──槍の先を回転させて、相手に的を絞らせないように工夫したり、自分から左右に体を振って、突きを放つ瞬間を悟らせるな」
そう説明してやると、彼女は「そうか」と思い当たったらしい。弟相手に突きが悉く回避されている理由がはっきりとしたのだろう。
「分かった──少し考えさせて」
そんな風に言うと、彼女は棒の石突き部分で地面をトントンと叩きながら、自分に何かを言い聞かせるみたいに思案している。
目を閉じ、じっくりと時間を使って何かを考えると、「よし」と口にして槍を構えた。
するとどうだろう、先ほどとはまるで違う相手と戦っている気分になった。
離れた位置から接近してきたかと思うと、こちらの攻撃範囲一歩手前で横に飛び、鋭い突きが二回、しかも穂先を揺らし的を絞らせない。
さらにこちらに接近したかと思ったら、即座に後方に飛んで空振りを誘うと、腰を落としたところから突き上げる様な鋭い突きが胴体を狙って飛んでくる。
エアネルにも何度か、想像力を使って戦略の幅を広げるように、と忠告したが──今一つ彼女には馴染まない言葉だったらしいと考えていたが、具体的な指示をした方が、彼女の想像力に対し刺激を与える結果になったみたいだ。
腹部に棒が押し当てられ、彼女はにんまりと笑う。
「そんな動きが出来るなら、初めからやっておけ」
そんな悪態をつきつつ、カムイとレンネルの戦いを見守る──彼らの訓練は、互いの戦士としての誇りと誇りがぶつかり合うような、激しい攻撃の応酬となっていた。
レンは昨日の敗北から考えに考え、どうしたら相手に有利な立ち回りを行えるかを真剣に突き詰めていたのだろう。
盾を使った巧みな回避行動がカムイに隙を作らせる回数が増えてきた。
「団長! 剣を!」
カムイが俺に向かって叫ぶ。
俺は手にしていた木剣を投げ渡し、カムイに双剣を使わせる事にした。




