青い蟹の神と子供達
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ブックマークもいつの間にかこんなに……ありがたいですなぁ……
次話は日曜日の午後6時〜に投稿予定。
西海の大地まで歩いて来ると、そこには土の地面が広がっていた。
二つの大地を接合する拠点には、そこそこ大きな陸地がある。塩分に強い樹木が数本生えた先に石造りの建物が数軒見え、そのさらに先に砂浜が見えている。
砂浜に来ると、別の島へと繋がる橋が作られていた。別の島はそれほど離れていないので、橋を使って歩いて行ける距離だが、その他の島には船が無いと渡れない。
その離れ小島的な場所にも砂浜が見え、そこに子供達が群がっているのが見える。──その子供達は青い置物の上に乗ったりして遊んでいるのだが……近寄ってみると、その置物とは「海の神エウシュアットア」だったのだ。
「久し振りだな、オーディスワイア」
青い大蟹が俺を見つけて言った。彼はどっしりと砂浜に鎮座したまま動かないが、その身体に上がって子供達が、傾斜になった蟹のすべすべした甲羅を滑り台代わりにして遊んでいる。
「神よ……嫌だったら子供達をどかしますが?」
俺は申し訳ない気持ちでそう言った。
「構わん。子供達の好きにさせてやりなさい」
そうは言うが、神を踏みつけにするような真似をしてもいいものなのかどうか──子供達の為にも、もう一度、神の存在について語り聞かせてやるべきなのかもしれない。
俺の気などまるで考えもせずに、子供達は楽しそうに青い蟹の背中に上がると、背中を滑っていく。
自分の子供だったら頭に拳骨を喰らわせてやるところだ。
「おお、オーディスワイア。来ていたのか」
今度は別の声が足下から聞こえてきた。白い砂の中から現れたのは灰色の小さな蛇、エウシュマージアだ。
どうもと頭を下げつつ、子供達の為に公園の遊具などを作らなければならないかもしれないと、うっすらと考えていた。
「エウシュマージア様の為の象徴武具について、簡単な設計図をいくつか書いてきました。どれがいいか選んで頂きたいと……」
蛇はしゅるしゅると蟹の脚の陰に隠れるみたいに蜷局を巻く。
どうぞと設計図を広げて見せ、蛇の前に差し出す。
交互に三枚の紙を見せると、灰色の蛇は鎌首を持ち上げた。
「うむ、一枚目の鎌がいいんじゃないか。象徴的な模様も気に入った」
少年の様な声で地の化身が応える。
黒く塗った木の柄に銀色に輝く刃を取り付けた鎌だ。これは武器の大きさでは無く、普通の稲刈り用の小さな鎌。
豊穣を祈願する意味で鎌にしたのだが、海の神から分離して生まれたエウシュマージアにはどう受け取られるかと思ったが、好評だったのは意外だった。
子供が大きな蟹の螯をよじ登る為に前にやって来ると、灰色の蛇は慌てた様子で脚の陰に隠れる。
「どうしたんですか、エウシュマージア」
「うむ……いや、子供達は蛇が苦手なのではと思ってな。まあ私も子供が苦手なのだが」
なるほどと納得しかけたが、子供が蛇を嫌いというのはよく分からない。蛇をほとんど本能的、生理的に嫌う奴は大人の方が多そうだ。
自分の子供の頃は蛇を見つけると、捕まえようと必死に追いかけた記憶しかない。橋の下とか、板の下とかに隠れているのを見つけると、ちょっかいを出したくなるのだ。……蛇にはいい迷惑だったろう。
こうして地の化身エウシュマージアの象徴武具は──武具では無く、稲刈り用の農耕具となったのである。
「お──い子供達、貝を集めなくていいのか? 俺もせっかくだから潮干狩りをしていこうかと思ったんだが」
俺が言うと子供は一斉に「忘れてた!」といったような言葉を口にする。
「その辺でも採れるが、向こうの方が良く採れると思うぞ」
エウシュアットアはそう言って、少し離れた場所を螯で指し示す。
子供達は桶を手に目の前の砂浜に向かって行く。──俺は設計図をしまうと、子供達の持っていた桶を一つ借りて、エウシュアットアが示した砂浜に裸足になって向かった。
足の裏で穴を掘り貝を探し出す。
海の神が言い当てた通り、その場所では一歩ごとに大量の貝がごろごろと見つかった。面白いように採れるので、夢中になって貝を拾い集めていると──あっと言う間に、桶は満杯になってしまう。
「ほら子供達よ、向こうでこんなに採れたぞ。向こうを試してみろ」
そう声を掛けると、少年少女はそっちに向かいながら貝を探していく。
そう言えば漁業権も無いのに採ってしまった。
西海の大地に入って来た場所にあった建物で、貝を買い取れば問題ないはずだが。
「牡蠣の養殖や、魚の住処を作る計画も進行しているそうだな」
エウシュアットアは言う。
管理局の水産計画で、煉瓦材で造った柱を組み合わせた物を沈め、魚の住みやすい環境を作る事が提案されたらしい。
また牡蠣の為の丸太を打ち付けた場所を作り、そこにぶら下げた籠などで牡蠣を育てる計画もあると言う。
「そのままでも充分に豊富な海の幸が手に入ると思うんですがね……」
俺の言葉に海の神は脚を折り畳んで「外の世界の事もある」と口にした。
パールラクーンへの輸出を考えると、確かに多くの安定的な漁獲量が求められるかもしれない。
俺は二柱の神に別れの挨拶をして、子供達と一緒に帰宅する。
自分の採った分の貝を買い取ると、ミスランまで向かう荷車に乗せてもらい、その日はゆっくりと帰宅するのだった。




