判子と魔法弓と焼き菓子と
誤字報告感謝です。
臨むを(望む)、必要を(必用)、意外を(以外)としがちなんですよね……
変換の罠怖い!
ウリスの魔法弓が新しい職種に⁉
あ、次話は火曜日の午後6時以降に投稿します。
完成した判子は五分の四くらいの数だ。
それを夕食前に執務室で作業するレーチェとリーファに持って行った。
「完成しましたか! ありがたいですわ!」
木箱を受け取ったレーチェが声を上げる。
「ああいやいや、あと五分の一くらいは製作中だ。休み明けには完成するんじゃないかな」
箱の中にある判子を見ると、さっそく朱肉を用意して使ってみるレーチェとリーファ。
「いいですね。すごく作業が捗ります」
「ある程度、転移門ごとに用意した物を保管して置く事も出来そうですわ。助かります」
二人の喜ぶ姿を見てほっとする。
これからは冒険に出た団員達が判子を使って提出した物を集めて、それを旅団収支記録にレーチェが纏めておくだけでいいのだ。
入手素材の報告と確認は継続されるが、紙に一つ一つ書いていく作業からはある程度、解放されるのだ──それは楽だろう。
夕食を取る為に食堂へ行くと、数人が早くも席に着き談笑している。
ユナとメイとカーリアがまたしても子猫を抱きながら話しをしていた。もうすっかり一緒に食べるのが習慣化されている様子だ。
「なあ、あまり子猫に感情移入し過ぎるなよ? その子猫達は成長したら、管理局の方で飼い主を捜すらしいから」
え──、と反対の声を上げる少女達。そうは言っても仕方が無い。猫は保護対象なのだから、一つの旅団で独占する訳にもいかない。
「文句があるなら管理局に言ってくれ。向こうの方針なんだから」
もともと野良猫のライムから生まれた子猫達。彼らの飼い主を探すか、管理局の方で預かるかするのだろう。飼い主が居なかったら野良猫として街全体で飼うといった、予防措置みたいな事もするのかもしれない。
「管理局に掛け合えば、一匹くらいは残してもいいという許可は下りるかもしれないが」
彼女らの剣幕に負けて俺はそう言った。
青毛の子猫は皆に懐いているので、別れる事になったら色々とうるさそうだ。
そうこうしていると食堂の入り口からウリスが瓶を持ってやって来た。彼女はその陶器の瓶を俺の方に持って来ると、それを差し出してくる。
「おう?」
「これ、先日届いた両親からの小包に入っていた物です。木の実の瓶詰め……今年最後の収穫分ですね。これでお菓子を作って欲しいな──と」
珍しくウリスがおねだりをする。
その言葉にいち早く反応した娘が居る──メイだ。
「いいね木の実入りの焼き菓子。私も食べたい」
たぶん以前作った焼き菓子を期待しているのだろう。
「木の実を使った菓子ね。まあ良いけど……というか、作り方を書いた調理法帳簿を調理場に置いてあるだろう。たまには自分達で作ったらどうなんだ、俺は最近とくに忙しいんだ」
そう言うとメイはユナを見る。
「ユナに頼るな。自分で作ってみろ」
俺の言葉に頬を膨らませて「ぶ──」と不満を露にするメイ。
「自分で作れた方がいいだろ、自分で作った物は美味しく感じる物だしな」
そうは言ったものの個人的には、木の実の入った焼き菓子とかが好きなので、自分でも作ってみようかとも思っていたりする。
「あ──そう言えば、試したい菓子があった。俺も木の実を少し貰おうかな」
するとウリスは嬉しそうに何度も頷いている。その仕草を見ると、彼女はたまにメイの様な子供っぽさを持っているなと思わせる。──普段は物静かな彼女だが、素直で表情豊かな一面を見せる事も増えてきた。
旅団の生活にも慣れてきたというところだろうか。
冒険での活躍を耳にする機会も増えている。彼女が覚えた「魔法弓」のお陰で、他の旅団からも学ばせて欲しいと声が掛かっているくらいだ。
俺は彼女さえ良ければ魔法弓に関する技術も広く公表して構わないと言ってあるので、彼女は月に一度の講習会を開くようにしたところ、多くの受講者がやって来るようになったらしい。
ただやはり、習熟するのは相当に難しいようで、今のところ魔法弓が使えるようになったのは二人だけだという。
彼女自身も魔法弓で風の力を使った矢を放つ事で、一撃で敵を倒すほどの威力を持たせた攻撃を放てるようになり、狩人という職種では無い、「魔法弓使い」という職種が生まれるのではないかとも言われ始めているようだ。
彼女の頑張りに応える為に、明日は海の大地に行く前に、彼女に焼き菓子を作って行こうかと考えるのだった。
その日の夕食後には仲間達も、明日からの三連休をどう使うかで盛り上がっていた。
旅団員は休みでも、俺の活動は平常運転なのである。
出来れば俺もゆっくりと骨休めしたいのだが……
地の化身エウシュマージアに確認を取らなければならない用事があるのだ。




