訓練でのレーチェとカムイ
多くのブックマークと高評価にありがとう。
次話は来週の日曜日──つまり明後日の午後6時~を予定しています。
ケベルとサリエの二人にも明日から三日ほど休みにしようと言って、二人にも千五百ルキずつ特別手当を払っておいた。
彼らは喜んだが、休日の時間も鍛冶の勉強に当てている二人は、どこかへ出かける予定も無さそうだ。
手当は自由に使っていいと断りを入れて、早めに鍛冶屋を閉めた。
宿舎に戻ると大勢が広くなった敷地に集まっていたが、さすがに全員が一度に訓練できる空間は無い。壁のあった場所は土が埋められ、踏み固められた跡があった。
新たな敷地の花壇なども無くすか、端の方に移動させれば──より広い場所を確保できるだろう。
広くなった場所で戦闘訓練をしているレーチェ、そしてリゼミラとカムイ。
レーチェは木剣と革の盾を構えてリトキスの鋭い剣を弾いたり、受け流して反撃を試みている。──以前よりもかなり戦い慣れた様子で、彼女の戦士としての素質が開花してきたのを感じる。
レーチェは元から堅実な戦い方に重きを置いている戦士としての面が強かったが、今は的確な反撃に強打と連撃が加わり、リトキスを追い詰める場面すら増えているほど成長していた。
カムイも二本の剣を構えた型を取り、同じく二本の剣を手にするリゼミラと正面から打ち合っている。
カムイは驚くほどの成長を遂げている。
あの女の攻撃を躱し、反撃するなど──口で言うほど簡単では無い。二本の剣が次々に襲い掛かってくるのを予測して前に出るなり、横に回り込むなりしても、リゼミラの変則的な動きで反撃される事があるのに──カムイはそれすらも頭に入れて、しっかりと反撃に対する防御や回避も行える動きをしている。
しっかりとした足運びと体移動が出来なければ、ああはいかない。
「カムイの奴、やるようになったなぁ……」
俺がしみじみと言うと、側に居たレンネルが「最近では、僕も圧倒されていますよ。ここのところ連敗続きですから……」と悔しさを滲ませる。
今のカムイの動きを見ていると、若い頃のリトキスを思い出した。
「金色狼」時代に訓練で相手をした事が何度かあるが、一本の剣を持って攻めてくるリトキスは、まるで二本の剣を持った相手と戦っているかのような連続攻撃をしてくるので、恐ろしい若手が現れたもんだと思いつつ、攻撃と攻撃の合間のわずかな隙に反撃して、勝利を収めていたものだ。
素早い連続攻撃を受け流されて生じた上体のズレに合わせて、リゼミラが間合いを一瞬で詰めて剣の刃を両手で押し付ける様な一撃を見舞い、カムイを突き飛ばす。
「そこまで」と審判役をしていたメイが言うと、二人は向き合って一礼をする。
俺の姿を見つけたリゼミラが、他の者と交代してこちらへやって来た。
「どうだった──カムイの動き。ずいぶん様になってきたと思わない?」
「ああ、驚いたよ。この数ヶ月で二本の剣を同時に扱うコツを身に付けたらしいな。この分だと、武闘大会で優勝もあり得るか?」
それは相手次第だと、冷静な答えを返すリゼミラ。それだけカムイの強さが本物だという事だろう。いつもなら「そうかもね~~」などと簡単に返すところだ。
するともう一方の闘いの場から「おおっ」と歓声が上がった。
そちらを見ると、レーチェの突きによって倒されたリトキスの姿があった。──二人は互いに一礼をして何か言葉を掛け合っている。
「へぇ……まさかリトキスから一本を取るとはね」
「確かに、あのお嬢さんは最近になっていい動きをするようになったよ。盾の扱いと身体の動きに変化を付けたのがいい具合にハマってる感じだね」
リゼミラが言うには、左腕に付けた盾で身体の左側に弾くだけでなく、身体の右側に弾いて──そのまま身体を回転させて斬りつけたり、一歩踏み出して突きを打ったりするような、動きの多様性を取り入れたのだという。
……そう言えば何度か彼女と戦闘訓練をした時に、俺が剣と盾を使って冒険していた頃の動きをして見せた事があったが……
「若い頃のオーディスの戦い方に似てきたね。そのうちあんたがやっていたみたいに、白銀騎士を盾でタコ殴りにするみたいな訓練を始めるんじゃないの?」
「それを言うな」
そういう無茶苦茶な訓練をした事もあった。
こちらは剣での攻撃をせず、相手の攻撃を盾で受け流しつつ盾で押したり、叩きつけたりする戦法だ。
相手の動きを見極める訓練にはなったが、大した意味は無かったろう。若気の至りというやつだな。
離れた場所からこちらを見たレーチェが盾を振り上げて、リトキスから一本取った事を訴えてくる。
俺は何度も頷き、口の動きだけで「よくやった」と返事をして見せる。──彼女は「どんなもんだ」と言わんばかりの構えをして、次に戦闘訓練を行う者に場所を譲った。
ここは新入りを含めて二十四名の旅団員が居る──まあ魔法使いも居るから、戦闘訓練をする者はそのぶん少なくなるが。
その日は訓練後に俺から全員に千五百ルキずつ特別手当として配った。
彼らは喜んでいたが、こちらも正直ありがたい。
自分の保有している財産がいくらなのか──軽く見積もってみたが、硬貨だけでも十万ルキは優に超えていたのだ。
途中で数えるのを止めたくらいだ。
無駄に財産を抱えるような真似はしたくない。
余裕やゆとりは下手をすると贅肉となる。
物理的な贅肉では無い、心の贅肉だ。
一定の緊張感が無いと人の心はすぐに怠けようとする。
──まあ俺にはあまり馴染みの無い感覚だ。自身の心の調整など、いつも厳しく取り扱ってきたからだ。
他人の振り見て我が振り直せ──反面教師に事欠かない世界からやって来たのだ。この俺は……




