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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第一章 錬金鍛冶の旅団

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旅団の立ち上げと侍女リーファ

「あ、あら? そんなにへこまれると、こちらが何か悪い事をしてしまった気持ちになるのですけれど……」

「いや、お前……レーチェの言う通りだな。しかし俺には人を束ねるなんて──あの頃はまったく思いも寄らなかったし、鍛冶師としての腕を磨こうと決心して、すぐに旅団を抜けてしまったからな」

 レーチェによるとリトキスは、各地を回っている途中でクラレンスに立ち寄り、当時冒険者になる事を本格的に決心した彼女の、冒険者の指導者として紹介されたのがリトキスだったのだ。


「たった一ヶ月間でしたけれど、あの方からは探索や戦闘での技術情報ノウハウをしっかりと学びましてよ」

 彼女はそう言って()()()胸を張る。

「なんだ、たったの一ヶ月間か」

「何かおっしゃいまして?」


「ところでわたくしに何か用でも? 旅団の立ち上げについてでしたら、ここミスランで本拠地となる場所を捜している最中でしてよ」

 彼女はそう言って紅茶を口にする。優雅な動作なのだろうが、ついつい上下する胸に目がいってしまう。

「それなんだが、すまん。お前の旅団に錬金鍛冶師として雇われる訳には行かなくなった」

 彼女は一瞬怒った顔をしたが、紅茶の器を低いテーブルの上に置き、静かに「理由を」とだけ言った。


 そこで話を元に戻し、女神から旅団を立ち上げるよう求められた事を説明し、もし旅団を立ち上げるなら俺を団長兼鍛冶師として使うか、俺が立ち上げる旅団にレーチェが団員として加入するか、どちらかだと説明した。

「なぁんだ、そんな事でしたの」

 レーチェはあっさりと言う。

「別に誰が立ち上げるとか、団長が誰だとかどうでもいい事ですわ。私は自由に冒険ができればそれでよろしくてよ。──でしたらあなたが旅団を立ち上げる形の方が良いのではなくて? 『金色狼の三勇士』の一人が初代団長の方が、はくが付くでしょう?」

 結構考えてるんだなと言うと。


「あなた……私をバカにしてらっしゃるの? 経営の事は領地の管理の仕方から街全体の収支、一軒一軒の店舗の事まで全て学んでいるつもりでしてよ」

 おう、さすが貴族。なら旅団の経済面での運営はレーチェに任せるな。俺がそう言うと彼女は。

「ま、まあ任されましてよ……ですが、私は冒険がしたいのです。旅団の運営が複雑化した時は、私の侍女などに任せる事になるかもしれなくてよ」


 彼女の言葉に、その侍女は俺が倒れた時に身体を支えてくれた奴かと尋ねた。

「ええ、……良く分かりましてね? 彼女は私の優秀な侍女兼、私の護衛ですのよ。今もそちらの部屋にいますわ」

「だろうな、護衛というか、彼女も昔冒険者だったんだろう」

 俺の言葉に彼女は「さすがですわね」と言って驚きの表情を一瞬見せる。何でも武器を使わずに戦う対人戦闘を、その侍女から学んだらしい。


「リーファ、来なさい」

 そう呼び掛けると奥のドアが開き、侍女姿の女が姿を現した。

 稲穂色をした長い髪を後ろでまとめ、翠玉エメラルド色の美しい瞳は、やや鋭い視線でこちらを見ている。身長が高く、俺とさほど変わらない(百八十センチ近くはありそう)背丈だ。


「リーファ」

 そう言ったのはメイであった、少女は立ち上がり侍女の方を見つめていた。ドアを開けて入って来た鉄面皮てつめんぴの女も、眉を少し上げて驚いた様子を見せる。

「メイ……? 久し振りね。ずいぶん大きくなって……」

 メイは侍女の元へ駆け寄ると、その細い身体に抱きついた。侍女は大きくなったと言っていたが、少女が抱きついても子供と大人の構図に変わりがなかった。


「あらあら、どういう事ですの? うちの侍女とあの娘が知り合いだったなんて──凄い偶然ですわね」

「確かにそうだが、メイは体術の熟練者らしいから、おそらく同じ門下生だったのでは?」

 俺の言葉に侍女──リーファは「はい」と応えて「良く分かりましたね」と続けた。

「俺が倒れた時のあんたの動きや腕力、そういったものが、格闘を学んでいる連中のそれと同じだったからな」

 そう言うとリーファはくすくすと笑いながら、メイの背中を優しく抱き寄せる。

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