ミスランの旅団に起こる変化
フォロスハートの若者達も頑張っているらしい、けれど──?
次話は金曜日の午後6時~を予定しています。
「ところで『黎明の白刃旅団』って知ってるかにゃ?」
お金を背嚢にしまいながらナンティルはそう聞いてきた。
「いいや? 聞いた事が無いな」
「最近ミスランで急成長してきた新人の多い旅団にゃ。ミスランの市民の間では、ミスランの上位旅団と言えば数年前までは『金色狼の旅団』と『蒼髪の天女旅団』の二つだったにゃ。最近は『蒼髪の天女旅団』に『黒き錬金鍛冶の旅団』と『黎明の白刃旅団』の三つと言われ始めているにゃ」
金色狼はどうした、そう尋ねると彼女は「うにゃぁ……」と言い渋る。
「最近はいい噂を聞かないですにゃぁ……古強者が退団して弱体化したのを切っ掛けに、鳴かず飛ばずという感じですにゃ」
「マヂか。そこまで酷くなっているのか」
「ですにゃぁ……今では『黎明の白刃旅団』の方が勢いがあると評判ですにゃ」
そんな若手の台頭があったのか。
自分の旅団と鍛冶屋の事ばかり考えていて、まったく気にしなかったな……
「それにしても、お前の情報網も大したもんだな。諜報活動はもう止めたんじゃ無かったのか」
「これは諜報じゃないにゃ。商売に必要な情報ですにゃ」
彼女はそう言って鼻を鳴らす。
「ああそれと、その情報の一部は古いぞ。『黒き錬金鍛冶の旅団』は『金獅子の錬金鍛冶旅団』に変更したからな」
「にゃっ⁉」
ナンティルは「いつそんな事になったにゃ」と問い詰めてくる。
黒獅子ヴォージェスの提案を受け入れて、そう名乗るよう変えた事を説明すると「そんな事が……」と呟いている。
黒獅子ヴォージェスを知っていたらしい。
「ま、それはともかく。なんだ黎明の白刃旅団って……なんか辻斬りでもしそうな名前だな」
「辻斬りってなんにゃ」
武器の切れ味を試す為に、闇夜に紛れて通行人を斬る事だ、そう説明すると。
「残酷にゃ! 許せんにゃ!」
彼女はウニャ──ッと怒り出す。
「いやいや、そんな時代もあったらしい。という──お話だよ、お話」
そう応えながら確かに、どう考えても理不尽きわまり無い話だと思う。
封建時代の制度が如何に自分勝手な奴を生み出していたか、その最たるものの一つかもしれないな。
ナンティルを宥めながら、金色狼の旅団はいったいどんな事になっているのかと──古巣の様子も気になってきた。
彼女に金色狼の事を尋ねると、旅団内の対立が激化しているのでは、という噂もあり──中堅どころの冒険者が仕切る二派閥が出来て、それが対立しているという話もあるらしい。
「ああ──そういう展開か」
「管理局の方でも問題を重く受け止めているらしいにゃ。そのうち旅団内の争いに発展する前になんとか治めようと動き出すんじゃないか?」
そういや「旅団・冒険者統率機構」とか言っていた管理局の一部署が新しくなるとか、そんな話を耳にした事はある。もともと役に立たない部署がいくつもあるらしく、無駄を無くす為に冒険者や旅団に関する部署を統合して一つの部署にするとか、なんとか……だいたい「旅団員登録書」と「旅団員推薦状」とかが、別々の部署で取り扱われるなんていうのが意味が分からん。
……後者の「推薦状」なんてそれ自体が無駄だから──この際、きっぱりと廃止にすべきだ。
「私としては、フォロスハートの海産物よりも、『オーディス錬金鍛冶工房』の魔法の武器を輸入する権利を与えて欲しいのだけれどにゃ」
急にナンティルはそんな事を言い出した。
彼女の今回の目的は、新しい大地から得られる恵みの定期的な買い付け交渉と、犬亜人の討伐協力依頼の二つだったが、彼女は強力な武器を前線の戦士に提供する方も求めたかったのだと言う。
「──しかしだな、簡単には造れないんだぞ魔法の剣とかは。一種類の属性魔法の力を封入するだけなら失敗は少ないが……」
「すぐ作れにゃ」
「簡単に言うな!」
にゃふふん、と彼女は得意げな笑みで返す。
おのれ……ヘルフェルト霊山を奪い返せと言った当てつけだな?
しかし、このまま霊晶石の採掘場所の一つを犬亜人に奪われたままではまずい。それはパールラクーンにもフォロスハートにとっても同様だ。
魔法の剣を造ってパールラクーン側に売るのは、そのうち何とかなるだろう。
だがこちらにもやるべき事が山積みなのだ。
霊晶石も重要だが、地の化身エウシュマージアの象徴武具についても、そろそろ準備をしなくてはならないだろう。
「まあ今日は、このくらいで勘弁してやるにゃ」
謎の言葉を残して猫獣人の行商人は鍛冶屋から去って行く。
「それよりも何とかして霊山を奪い返せよ……」
俺は呟きながら、大きな背嚢が出て行くのを見つめていた。




