ラピスの魔法の剣と霊晶石
ミスランに帰って来た。
馬車の振動に心地良さを感じて──ついつい眠ってしまう。
気づけば夕暮れになる頃だった。
停留所に馬車が停まると、数人の乗客が降りて行く。御者に金を支払って大通りから転移門のある広場近くを通っていると、続々と冒険に出ていた冒険者の一団が帰って来る。
うちの旅団員は居ないみたいだな……そんな風に思っていると、見覚えのある三人組が転移門から現れた。
遠目だったが、その独特な風貌は離れていてもそれと分かる。三人の周りには不思議な空気が流れ、遠巻きに冒険者達が彼女らに視線を向けているのが、離れた場所から見ていると良く分かるのだ。
その内の一人が俺に気づき、手を振って近づいて来る。
「よぉオーディスワイア──さんじゃないか」
そう言ったのはダリア。
相変わらず鎧部分の少ない──肌の露出が多い装備に身を包んでいた。肩当てと籠手が以前よりも傷ついているように見える。
彼女の後ろからフレジアとラピスも歩いて来た。
少女のフレジアは胸当てと腰鎧をしっかりと身に着け、頑丈そうな籠手と腿当ても付けているが、二本の手斧を振り回す為か、肩は自由に動かせるよう防具は付けていない。
ラピスは長剣に──小盾の付いた籠手を装備している。青い髪をした彼女に合わせ青い胸当てや籠手に脛当て、腰から脚を守る革製のスカートなどを身に着けていた。
「ミスランに来ていたのか」
「ええ、魔法の剣作製用の素材を集めに。──霊晶石がなかなか手に入らなくて……」とラピス。
「お金もね」そう言ったのはフレジアだった。
「そうか、魔法の剣か……そんな物もあったなぁ……」
鍛冶以外の分野で忙しくしていたので、本業の仕事を忘れるところだ。
「三つの属性を持たせるのは大変だと言っていましたが、もしかして負担に?」
ラピスが心配そうな表情をする。
「ああ──いやいや、ちょっとここのところ鍛冶以外の仕事が増えてな。それでてんてこ舞いになっていただけだ、大丈夫。長剣だろう? 火属性以外の三属性の──覚えている」
大丈夫? と少女のフレジアにまで心配されてしまう。
「だははは……平気だよ。それより、今日は宿舎の方に来るのか?」
三美人の冒険者達は遠慮がちに「お邪魔します」といった返事を返す。
俺は彼女らを引き連れて宿舎に戻る途中、旅団の名称が変わった事を告げ、通りを歩いていると──宿舎の隣の建物の前から荷車が出て行くところだった。
引っ越しをするらしく、大きな箪笥などを紐で縛っているのが見えた。確か隣には老夫婦が住んでいたはずだが。──レーチェの故郷であるクラレンスに息子が暮らしているらしいが……そっちへ移り住む事にしたのだろうか?
結構広い庭と建物を持つ、裕福で物静かな老夫婦という感じだったが……宿舎に戻ると、庭でカムイとリトキスが訓練をしていた。──カムイは二本の木剣を手にしており、本格的に二本の剣を使った戦い方に切り替えるつもりなのだろうか。
「あ、お帰りなさい」
リトキスはそう言いながらあっさりとカムイの剣を受け流し、懐に入り込んで柄頭で腹部を打ち据える。
革鎧の上からだが、予想以上に間合いを詰める動きと重なった一撃が重かったようで、カムイは咳込んだ。
「おいおい、大会前に怪我とかしないようにな」
どうやら仲間の多くはすでに冒険から帰って来ているみたいだ。フレジアは猫や旅団の友達に会いたいらしく、一足先に宿舎の中へと入って行った。
「大会? ゲーシオンでやるってやつか。若手の成長を願ってやる武闘大会だとか……」
ダリアは興味が無さそうだ。彼女の性格的に参加してみたいかと思ったのだが。
「木剣での戦いだろ? 正直言うと剣技だけでは、あたしはそれほど強くはないと思うな。剣を誰かから教わった訳でも無いし」
しかし彼女の剣気を使った攻撃なら──おそらく並の相手では、防御するだけで吹き飛ばされるだろう。
いや、その前に木剣が折れるかもしれない。
そう話しているところへ、レーチェにエウラ、カーリアとヴィナーが帰って来た。
「あら今日は、お二方もご一緒なのですわね。疲れていなければ剣の稽古をラピスさんにお願いしたいところなのですが……」
そんな話をしながら彼女らは宿舎へと入って行く。
庭で訓練していた仲間達も汗を流したり、食堂へ向かったりする。──一度部屋に戻って、監視飛翔体の試作設計図を机の上に置き、食堂の方へ出向く……と、その前に──素材置場を覗いて見た。
やはり霊晶石の在庫が無い。鍛冶屋の方の在庫も残り七か八個しか無かったはずだ。
これは霊晶石を求めて旅団員に採掘や、混沌の魔物などの強敵の討伐を依頼するしかないかもしれない……
シャルファーの腐敗樹から魔晶石の他にも霊晶石が希に取れるらしいが──そう言えば、あいつが吐き出す麻痺毒を防ぐ、魔晶石を大量に消費して作ったお守りがある。
残念ながらシャルファーには以前に一度だけ遠征に行ったきりだが。
「抗麻痺毒の魔印」という魔具の製法があると知ったのは、仲間達がシャルファーから引き上げてから随分と経った頃だった。
「腐敗樹の毒瓦斯を防ぐ魔具」という、あまりに目的が限定的な魔具の存在を知らなかったのだ。
「あの毒瓦斯を何とかして欲しいですわ」と言うレーチェの言葉を受け、色々と調べてみて分かった事だった。
だがそれを一つ作るのに、大量の魔晶石を失ってしまった。錬成台を前に五回以上の失敗が続いた時は──さすがに己の力量や、作製方法が書かれた紙に苛立ちを覚えたものだ。
シャルファーの管理局にあった「抗麻痺毒の魔印」の作製方法を改良して、やっと二割の成功率から五割の成功率まで上げる事が出来たのである。
この情報を管理局に提出するとシャルファーからお礼状が届いたほど喜ばれた。シャルファーにある旅団を代表するとして贈られてきた小包からは、多くの魔晶石が入っていて「作製で失った魔晶石の補填になれば」といった手紙も添えられていた。
この世界もまだまだ捨てたもんじゃないな。
霊晶石については──いくつかの場所や魔物から入手可能だが……何しろ入手確率が低い。シャルファーの大型の腐敗樹を狙うよりは、混沌の魔物を倒す方が入手しやすいだろう。
これは皆と相談した方がいいかもしれない。
食堂へ向かいながら、これからの錬成に必要な素材の確保についても真剣に考える必要を感じていた。




