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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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地の神ウル=オギトに蜂蜜酒を──

レンズの日本語って正確な物が無いんですね。眼鏡めがねが「鏡」を使用するのは中国語かららしいです。

作者は「鏡面」をレンズとしました。

「またせたなっちゅ──」

 ドアを開けて入って来たのは白い法服ローブを着た巫女アロエと、銀色のねずみ姿の神ウル=オギトを運んでいる──黒い法服を着た巫女の二人だった。

 相変わらず通訳のアロエは語尾に「ちゅう」を付けてしゃべっている。

 銀色の鼠を乗せた赤い座布団を、丁寧に運ぶ巫女が先に長椅子に腰掛け、続いて通訳のアロエが長椅子に座ると、対面する椅子に座るよう身振りで示す。

 相変わらず無遠慮で、冷たい印象の女だった。


「それでは、象徴しょうちょう武具の戦鎚せんついを見せてくれっちゅ──」

 俺は隣に置いた木箱を取り、テーブルの上に置いて箱を開いて中身を見せた。

「どうぞ」

 そう言って差し出したが、鼠のウル=オギトには持ち上げる事は出来ない。

 代わりに通訳のアロエが持とうとしたが、重くてなかなか苦労している様子だ。


「チュゥ、チュウ──!」

 座布団の上で銀色の鼠が腹を抱えて転げている。その様子から察するに、笑っているのだろう──それもかなりひどく。

 アロエはぎろりと鼠を睨み「確認を」と冷たい声で言うのだった。

 戦鎚をくるりと回転させて裏側も見ると、ウル=オギトは満足したようだ。


「素晴らしい出来だっちゅ──!」

 重い戦鎚を箱の中に戻しながらアロエは言った。彼女は金剛石ダイアモンドと、その周辺の細かい幾何学模様きかがくもようを褒めて、これなら慰霊祭いれいさいで十二分にその役目を果たしてくれるだろうと、いささか大仰に言う。

「報酬は数日後に、オーディス錬金鍛冶工房に届けるよう手配するっちゅ──」


 そう言ったところに、部屋に入って来た巫女見習いの少女。彼女は以前、旅団宿舎の方に来た巫女の一人だった。

 彼女は茶碗ティーカップに紅茶を注ぎ入れると、三人の前にそれらを置く。


「この前は、アロエに叱られなかったか?」

 少女にそう尋ねると。

「はい」とだけ答えて「あの時はお世話になりました」と頭を下げて出て行った。

「別に叱ったりしませんよ。──ああ、焼き菓子(クッキー)をありがとうございました大変美味しかったです」

 アロエはにっこりと微笑ほほえむ。

 この女、こんな表情も出来るんだな……そんな風に思いつつ紅茶を飲み、果物の香りがする華やかな味わいにほっこりとする。


「ああ、そうだ。これは神ウル=オギトに持って来たお土産みやげです」

 そう言い布に包んだ丸みのある瓶を取り出して見せる。

「そ、それはっちゅぅ──!」

 チュウチュウ──! と鳴き声を上げた銀色の鼠。

「以前の物とは違う種類の蜂蜜酒ですが、こちらもウィンデリア領の養蜂場ようほうじょうから採れた物です。とても美味しいので是非召し上がってくださいと、レーチェ・ウィンデリアも言っていました」

 ここまで言えば、さすがのアロエも「持って帰れ」とは言うまい。


「うむ、ありがとうオーディスワイアよ。レーチェ・ウィンデリアにも、ウル=オギトが礼を言っていたと伝えてほしいっちゅ──」

 俺の作った小さな硝子ガラス容器も合わせて持って来たので、一口飲ませてあげてもいいですよね? と布の中から小さな硝子の器を取り出す。

「チュウ──!」

 とウル=オギトが鳴き声を上げたのは──たぶん「でかした!」といった事を言ったのだろう。しかしアロエは通訳せず、ただ黙ってうなずき、透明な硝子に青や緑の硝子で渦状の装飾を施した器を手にして、鼠の前にそれを差し出す。


「これは美しく、細かな細工も素晴らしい器だっちゅ──。オーディスワイア、お前が作ったのかっちゅ──?」

「ええ、そうですよ。細かな装飾なども俺が。硝子の装飾では徒弟のサリエより、俺の方が上手いと思いますよ」

 そう答えながら瓶の蓋を外して、小さな硝子の容器に蜂蜜酒をちょっとだけ注ぐ。


 器を受け取ったのは神ウル=オギトを運ぶ巫女で、彼女が小さな器を鼠の口元へ運ぶと、鼠は小さな愛らしい手を伸ばして器を掴み、巫女に支えられながらゴクゴク蜂蜜酒を飲み干した。


「うんまいっちゅうぅ──‼」

 通訳の言葉を聞くまでもなく、銀色の鼠の鳴き声でウル=オギトが喜んだ事が伝わってきた。

 その後、少し談笑して忘れかけてしまったが、アロエが唐突に口にした言葉で、もう一つの用件を思い出したのだ。


「それよりも……ウル=オギト様。古代の遺物と、『監視飛翔体かんしひしょうたい』の事について話さなくていいのですか」

 すると銀色の鼠がぽんとお腹を叩いて「チュッ⁉」と声を上げた。

「忘れるところだったっちゅ──! さっそくだが、管理局に保管されている『古代の遺物』を見に行くっちゅよ!」

 ウル=オギトにうながされ、俺達は管理局の保管庫がある建物まで馬車に乗って移動したのだった。


 *****


 管理局の建物が並ぶ区画にある建物の一つに、特殊な装飾を施した壁や柱のある建物があり、その中へと三人と一匹で入って行く。

 建物の中に入ると地の神が来たというので案内係が()()()()()来た。

「お待ちしていました」

 係の男はそう言うと、小さな部屋へと案内する。

 どうやら目的の古代の遺産だけを持って来て見せるつもりらしい。


「なぜ管理局はすべての古代の遺産を開示しないんでしょうか?」

 俺の問いにウル=オギトは、通訳を通して簡単に説明する。


「それはっちゅね……革新的な技術の発達で、古き良き部分が失われたり、予想外の有害な影響について考えているからっちゅ。今回の『監視飛翔体』も、ずいぶん開示を躊躇ためらっていたっちゅ。──ただ、この飛翔体の原理はおそらく量産が難しい素材や技術を使用する事から、市民生活に影響を与えない範囲での利用については認可が下りたという訳っちゅ──」

 それはそうかもしれないが……そう思ったが口にはしなかった。もしかして、フォロスハートのあった世界が崩壊した事と関係があると考えているのだろうか? そうだとすると簡単に開示しろとは言えない気持ちになる。


 係の男がドアを開けて部屋に入って来る。

 俺達は長椅子に腰掛けながら、男が木箱の中身をテーブルの上に置くのを待った。

 ……木箱から取り出したのは銀色の球体。

 それはいくつかの金属の板を貼り合わせて作った機械だろう。だが、推進力を生み出す部分が無い。


「これが『飛翔』するんですか?」

 係の男に尋ねると男は箱の中から四角い鏡と、小さな箱を取り出してテーブルの上に置いた。

 小さな箱は上部にくぼみがあり、最初の球体を乗せられるようだ。

 俺は係の男に言われて球体を箱の上に乗せ、箱の横にあるボタンを押した。するとそれは浮き上がり、鏡が反応して──何かを映し出した。


 鏡に映っているのは、銀色の鼠──ウル=オギトだ。

 それは銀色の球体の一部にある硝子鏡面(レンズ)が見ている映像なのだ。

「なるほど、箱と一つになっている訳か」

 鏡を手にして、鏡の縁に付いている釦や小さな操作棒レバーを動かしたり、押したりすると──画面が移動したり、拡大した映像が映し出される。


「なるほど……しかし『飛翔』しているかと言われると──これ以上は浮き上がらない?」

 すると男は「はい」と答える。


 俺は少し内部を「鑑定(探査魔法)」で詳しく調べてみたが、この機械の動力はもしかすると神結晶などの「神の力」が働いているのかもしれない。

 そういえば神騎兵も神の力で、あの巨体が空に浮き上がり行動できるのだと──神騎兵の資料にも書いてあった。


 俺は箱の上から球体を手に取って箱から別の場所に移動させてみた──すると、その球体は鏡からの操作は出来なくなったが、ふわふわと宙に浮き続けている。つまり銀の箱が球体を操作する信号のような物を発している訳だ。


「これを改良して球体のみで浮遊し、映像を送れる物を作ればいいと、そういう事ですか?」

 ウル=オギトに尋ねると、銀色の鼠は大きく頷いたのだった。

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