戦鎚を持ってゲーシオンに向かう
感想やレビュー、応援を込めた評価など。そうした読者様のありがたい行為のお陰で頑張れます。
翌日になって体調も戻ったと感じた俺は、まずレーチェと話し合い、彼女には冒険に行く前に管理局の方に行き、旅団の名称変更届けを提出するよう言っておく。
「武闘大会出場届けはいいんですの?」
「ああ、それはゲーシオンの管理局に直接持って行くよ。神殿の方に持って行く物もいくつかあるしな」
彼女は「分かりましたわ」と了承してくれた。
朝食を食べた後、俺は鍛冶屋の方へ行って徒弟達に謝罪した。気温の変化で体調を崩すなど、鍛冶師としては未熟だと言わざるを得ない。
「まあ仕方が無いじゃないですか。誰でも炉の前と外の気温の差は堪えると思いますよ」
ケベルの言葉にサリエも頷いている。
「すまんな。やり残した戦鎚を完成させたら判子の方を作るのも手伝うから──ああ、午後から都市ゲーシオンに行かなくちゃならんから、それまでの間だが」
彼女にそう言って、まずは地の神から頼まれている慰霊祭用の戦鎚の仕上げに入る。
金鎚の頭はすでに完成している。
樫の木の柄も大まかにだが作ってある。
この頭の部分に空けた穴に、樫の木を削って作った柄を填め……填め──削る。穴にぴったりと填まるまで慎重に調整する。
別に多少、隙間が空いても楔を打ち込むからいいのだが、まずは慎重に合わせていく。
頭と柄を一つにする時も、魔結液を塗ってから金鎚で軽く叩きつつ、ゆっくりと柄を填め込む。
完成した物をあらゆる角度から点検し、頭と柄の間に意匠の意味も込めた楔を二つ打ち込んで固定する。
柄に細かな装飾を彫ると、それは一段と立派な物に見えた。
銀色に神々しく輝く戦鎚。我ながら良く出来たと心の中で自画自賛する。
この出来映えを見ればウル=オギトも喜んでくれるはずだ。
……俺の中ではすっかり銀色の鼠として定着してしまった地の神だったが、巨大な戦士の姿をした彼が我々と同じ大きさの姿になって、この逸物を握ったら──さぞや絵になるだろう。
それをしまう木箱を用意し、簡単な枠と布を敷いて動かないように固定できるのを確認すると、その箱を閉じて保管庫の中にしまっておく。
その作業が終わると、サリエの行っている事務作業用の判子作りを手伝った。
小さな彫刻刀で木を削り、設計図通りの判子を作っていく──地味で根気のいる作業。
サリエはたった一人で、すでに半分近くの判子を作っていた。
「予定よりも早く終わりそうです」
彼女の手先の器用さは知っていたが、日に日にその精度と早さを増し、今や判子製造機じみた正確無比な動きで小さな木を彫り進めている。
俺も負けじと彫刻刀を手に、簡単な物から彫っていく事にしたのだった。
昼食時になったので、俺とケベルの二人で食事に行く事にした。たまには外食もいいだろうと、仕上げた象徴武具と、武闘大会出場届け、それと蜂蜜酒の瓶を持って大通りの料理屋へ向かう。
神殿がいきなりやって来た俺を通さないかもしれないが、象徴武具と土産の蜂蜜酒を渡せればそれでいい。
以前、意地悪な巫女のせいで飲めなかった蜂蜜酒とは違う物だが、新しい別の種類の蜂蜜から作った物も美味しかった。きっとウル=オギトも気に入るだろう。
昼食をケベルと食べながら最近の少年の成長や評判を褒め、一つ一つの仕事を慢心せずに取り組むよう励まし、店の前で別れる事にした。
馬車でゲーシオンの街まで向かう為、停留所に行ってすぐに一台の小さな馬車に乗り込んだ。ゴロゴロ、ガラガラと音を立てて進み続ける馬車に揺られながら、気づくと眠っており──起こされた時にはゲーシオンの街に着いていた。
金を支払うと、まずは管理局の場所を御者に聞き、通りを歩いて行ってゲーシオン管理局にやって来ると、武闘大会出場届けを提出する。
まさかミスランから届けに来るとは思わなかったのだろう。受付の職員も驚いていたが「神殿に用がある」と伝えると、神殿のある方角を教えてくれた。
だいぶ前に来た事があるが、街のどの辺りだったかうろ覚えになっていた。大通りを歩いていても、こんな場所だったかな? と感じるくらいだ。
久し振りのゲーシオンの街並みは、記憶にある様子とはずいぶん様変わりしたように感じていた。どの街も徐々にだが変化しているのだろう。
久し振りに来た俺にはちょっとした変化も、大きな違いのように感じられるだけなのかもしれないが。
大通りから曲がって進んだ先に広くなった場所があり、その周辺から神殿の区画になっていた。広い場所の中央には石像が立っている。地の神ウル=オギトの勇ましい立像の周りが車道になっており、馬車がその周囲をぐるりと回って、神殿前広場の停留所に馬車が停まるようになっていた。
神殿に向かうと大きな入り口は開放され、中に入る事ができた。昔もこの入り口から入り、中にある地の神の座を二階の廊下から見る事が出来たのだ。運が良いと、そこに座る巨人姿のウル=オギトの顕現体を見られるのである。
なんだか懐かしく感じた俺は階段を上り、二階の廊下にやって来た。一階の地の神の座へと通じる大扉は閉じられていて、二階からのみ神の座を見る事が出来るのだ。
二階の高さでちょうど高い段にある、地の神の座に座るウル=オギトの目の高さになるのである。
高い天井のある地の神の間と違い、二階の通路は普通に天井が低くなっており、人間に合わせた作りになっているのだった。
残念ながら神ウル=オギトは、そこには居なかった。別室に控えているのだろう。そう考えて、その場を立ち去ろうとした──その時。
『おお、オーディスワイアではないか。そこで何をしているのだ』
頭の中に響く声。
それはウル=オギトのものだろう。
「戦鎚が出来たので、お持ちしました」
心の中でそう告げると、ちゃんと通じたようだ。
『もう完成させたのか! 仕事の早い男だな』
はっはっはっ、そんな笑い声を頭の中に響かせると、神殿職員に声を掛けて迎賓館まで来るようにと言うウル=オギト。
神の言われた通り、一階に降りた場所で会った神殿職員──神官見習いらしい若者に声を掛け、迎賓館の場所を教えてもらった。
神殿の敷地には神官達の住む区画もあるみたいでかなり広い。
神殿から少し離れた場所に迎賓館があり、そこは二階建てのどっしりとした石造りの立派な建物だった。
白と黒の石を使い分けた建築物で、一階の地面近くと二階と一階の間に、黒い線が引かれたように黒い石が使われている。
鉄製の格子扉の前で立っていると、しばらくして巫女が二人やって来て扉を開いてくれ、迎賓館の中に案内してくれた。
通された部屋は灰色の石壁と、白い石壁に囲まれた広い部屋。
壁には額に入った絵画があり、部屋の片隅に置かれた長椅子に座る前に絵画を鑑賞する事にした。
多くはフォロスハートの風景画であるが、一つ毛色の違う絵を見つけた。──それは神騎兵の絵だ。
銀色の甲冑を纏う大きな騎士が大地に立ち、武器を手に空を見上げている構図だった。
神殿の関係者が描いたのだろうか?
神騎兵は神の力を持っているので神殿も、その運用について話し合う立場に当然あるが、神騎兵を生で見る機会などそうそう無いだろう。
その絵からは、大地を守る神騎兵を誇らしく思っている、絵描きの想いが溢れているように感じられた。




