旅団名の変更と武闘大会
お読みくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いします~
その日の夕食後に、完成したチョ○バッ○の試食会を開いた。甘い物好きのメイは特に喜んでいる。
「こんな物を作っていたのですか……体を休めてほしかったのですが」
レーチェはそう言いながらも、二種類のお菓子を口にして「苦みもある変わったお菓子ですわね」と言って「美味しいですわ」と紅茶を口にする。
メイは黒い物よりも茶色い物の方が好きなようだ。ほんのり甘く苦みなどがある物よりも、素直な甘さのお菓子がいいらしい。
この場に居た旅団員にどちらが好みかを聞くと、意見は真っ二つに分かれる感じになった。
ユナに至っては「茶色い方を食べてから黒い方を食べると、また茶色いのが食べたくなり……」と無限輪状態になりそうだと言う。
「それで、このお菓子の名前は?」エウラが棒をくわえながら尋ねるので、俺は「プラノクリージュ・ゼルヴ」だと告げた。
「棍棒? なんでそんな名前に……」とか。
「プラノクリージュ……? それは何ですか?」
とか──いくつもの戸惑いの声が聞こえてきた。
「名前は気にすんな。上にかかった黒っぽい物をプラノクリージュと命名しただけだ。『香り高い甘味と苦味』そんな意味だ」
ああ、と一部の仲間は理解した様子だが、その他の者は今一つピンと来なかったみたいだ。
「まあ、お菓子の名前は置いておこう。それよりも、もう一つの重要な名前について話しをしようじゃないか」
皆は「何の事だろう」と隣り合う者同士で話し合ったりしている。
「ほら、旅団の名前の頭に付いている『黒き』から、『白金の』とかに変えようと言っていた件についてだよ」
そう言ってはじめて「ああ~~」みたいな声があちこちから聞こえてきて、がっくりとする。
「ま、まあいい。それで……その件に、賢者ヴォージェスからこんな意見があった『金獅子』と名乗ったらどうか、というものだ」
すると今度は「賢者ヴォージェスって誰だ?」とざわめく食堂。
「賢者ヴォージェスは……元冒険者で、かつては『黒獅子』という異名を持っていた人物だ。彼の活躍は相当なものだったという噂を聞いた程度だが──たった一人で黒獅子三体を仕留めた事から、その異名が付いたらしい」
団員の中からは「おおっ」と驚く者や、「黒獅子」自体が分からない者が居たようだった。
「黒獅子ヴォージェスが⁉ いったいいつの間にそんな話しになっていたんです?『金獅子』という事は、『黒獅子』から期待されているという事ですよね?」
リトキスは黒獅子ヴォージェスを知っていた様子で、興奮した感じで声を上げる。
「あら、あの方からそんな話しがあったのですか? 私としては『白金の』でも良いと思うのですが……金獅子も悪くありませんわね」
レーチェはそう言って、金色に輝く獅子を想像しているみたいに上を見上げる。
食堂では新たな旅団の名前をどうするかについて、侃々諤々の議論が……起こる様子は無い。
むしろ一部では新しいお菓子についてどちらが好みか、といった話題で盛り上がっているくらいだ。
「おいおい、自分の所属する旅団の名称が変わるんだぞ。少しは意見を言ったらどうなんだ……」
リトキスやレーチェは金獅子でいいのではないか、といった考えを示し、ユナやエウラやカムイなどは白金でも金獅子でも、どちらでもいい。といった答え方をする。
「名前は旅団長や副団長が決めてもいいんじゃない?」
そう言ったのはエアネル。
彼女の意見に賛成するレンネルやウリス、カーリアなど多数……
どうやら旅団の新たなる名前は「金獅子の錬金鍛冶旅団」(「旅団」の前に付けていた「の」を取る事に決めた)に決まりそうだ。
「それでオーディスさんとレーチェさんは、いつヴォージェスさんと知り合ったんです? というか、あの人が五賢者の一人になっていたなんて初めて知りましたよ」
リトキスは改めて驚きを示す。
「ああ……西海の大地と接合する時に、橋が架かるのを見届けたと教えただろう? その前くらいからだな」
リトキスはヴォージェスを知っているのかと尋ねると首を横に振る。
「いえ、話で聞いただけで、会った事はありません。僕が剣の修業の為に一人で各地を回っていた時に、黒獅子ヴォージェスの孫弟子だという冒険者と会って。一緒に冒険に行ったり、ヴォージェスの話を聞いたりしたんです」
その孫弟子とやらも相当の槍使いだったそうで、あのリトキスが互角の戦いを演じたのだという。
「まあ、かなり前の事ですが」
都市ゲーシオンの「黒獅子の鬣旅団」に居るバウラムという若者らしい。正確な突きと、変則的な回転攻撃で剣を弾かれ、しっかりと握っていないと剣を落としてしまう。そんな相手であるようだ。
「へえ、お前がそこまで言うとはね。かなりの槍使いだろうな」
「まあうちの旅団でも、近頃はカムイやレーチェさんなども、かなり伸びてきてますからね。今月末に行われるらしい武闘大会でも、参加すれば結構いい試合をしてくれるんじゃないでしょうか」
そんな事を言うリトキス。
「なに? 武闘大会? 何だそれは」
「あれ? 知りませんか?」とリトキスは言い、都市ゲーシオンで開かれる予定だと説明した。
「主に中堅どころと、若手の冒険者を各地から呼び集めて、慰霊祭の前に武闘大会を開くらしいですよ」
俺はレーチェを見る──彼女も首を横に振った。
「手紙なら配達が来たので、旅団執務室のテーブルの上に置きましたけれど……」
そう言ったのは、一週間ほど前に休みを取っていたカーリア。
俺達の話を聞いていて、何やら嫌な予感がしたのだと彼女は言う。
「執務室か……いやまて、あの部屋のドア、ライムが開けるんだよな」
まさかと思い、執務室に行って机の下などを探し回ると──あった。長椅子の下に、ゲーシオンの管理局からの手紙が落ちていたのだ。
「ライムゥウゥゥ──!」
廊下の先に居た白猫に向かって叫ぶと、彼女は危険を察知したのか、慌てて巣箱に逃げ去る。
食堂に戻ってレーチェやリトキスの前でそれを読んでみると確かに、中堅や若手の冒険者を対象とした武闘大会を開くので、一人から三人まで参加して欲しいといった事が書かれていた。
「おいおい、参加登録まで三日無いぞ。誰か、参加してみたい奴は居るか?」
俺がそう尋ねるとカムイがすぐに手を上げた。
「力試しをしたいと思っていたところです」
俺は頷き、最近のカムイならかなり良い成績が残せるんじゃないか、といった事を言いながら──リトキスを見る。
「え、なんですか?」
「そうか、参加したいか。よし、うちからはこの二人だな」
そう言いながら出場者登録の欄にカムイとリトキスの名と、「金獅子の錬金鍛冶旅団」の名を書いて、翌日に管理局へと持って行く事にしたのだった。
「ぼ、僕の意思は無視ですか」
「うん。頼んだぞ。別に優勝とか、そんなのどうでもいいから、新しくなった旅団名のお披露目に行って来てくれ?」
俺は二人の旅団員にそう声援を送ると、彼らから気の無い返事が返ってきた。
「いやいや、なら優勝しろ! と言った方がいいのか? まあ気楽に行けよ。『自分の力を確かめるのにいい』くらいの気持ちでいけ」
そう言うとカムイは「はい」と返事をするが、リトキスはあまり気乗りがしない様子だ。
「まあ俺は、リトキスとカムイの今後に期待しているからな。その試金石となる大会だと、そう考えているだけだよ。自分の実力がどの程度かはっきりと分かると、また日頃の訓練や冒険にも力が入るだろ?」
リトキスは「わかりました」と大会への参加を承諾したのであった。
308話でヴォージェスが「まだ聞かされていないのか?」と言っていたのは、この武闘大会の事だったんですね。
旅団名は「金獅子の錬金鍛冶旅団」に決定~という今回の話。




