チョ○バッ○を作ろう
誤字報告ありがとうございます~
あ、また横道にそれた話に……まあ大半はこんな内容ですが。
まずは午前中の内に植物に水をやったり、神への祈りを捧げに庭に出る。
以前の「珈琲バッ○」を作った経験から、今回は燻製を使う事にしている。
カブテ草の根を用意し、庭の片隅に設置した燻製用の炉に木片を入れて火を付け、煙りを出した上に箱を置き、その中にカブテ草の根を何本か吊す。
燻製にしたカブテ草の根だけでは弱いかもしれないので、巴旦杏の実も吊した網の上に乗せ燻製に掛けておく。……これは軽く煎った物も用意する。
いくつかの物を分量などを変えて、チョ○に近い味や香りになる物を作り上げるのだ。……あ、そうだ。名前も考えなければならないか。
こちらの言葉で「苦味のある」とか「薫り高い」とか「甘味」とかの言葉を合成して──「プラノクリージュ」と命名しよう。……まあ仮名でも構わない、この際は。
「黒くて固い棒」などと呼ばれるよりはマシだろう。
そのうち太巻きくらいの太さのプラノクリージュの棒が作られて、なんか運気の上がる方向とかを向きながら、ぶっとい奴をくわえたりする行事が生まれるかもな……
そんな野心(?)を抱きながら、俺は燻製器の前を離れて、中身の焼き菓子生地を作る作業を始める事にした。
宿舎の中に戻ると、ウリスが二階へと上がる階段を掃除しながら降りて来た。彼女は地味な色合いの枯れ草色の上着と焦げ茶色のズボンを履いている。
彼女がスカートを履いているところを見た事が無い。森や山の近くで育った彼女の生活様式がそうさせるのだろうか。
「あ、団長」
彼女は下まで降りて来ると振り返り、そう声を掛けてきた。
「おう、もう二階は掃除したのか? 早いな」
「いえ、二階はヴィナーが掃除しているんです」
なるほど、と納得していると、彼女の足下に子猫達がわらわらと集まり出した。ミィミィ、ニャァニャァと合唱が始まる。
彼女は動物に好かれやすい体質のようだ。無口であまり人との関わりを持たない彼女だが、子猫からは大人気だ。
「一階を掃除するから、巣箱の中で大人しくしていてね」
優しい口調で言いながら、母猫のライムが入っている巣箱に三匹の子猫を入れてやると、子猫達は彼女の言いつけに従って箱の中でじっとしていた。
動物使いの才能でもあるのだろうか? 狩人として動物を狩る彼女が自然との関わりの中で培ってきたものが、そうした不思議な能力として現れているような気がしてならない。
調理場は俺が後で掃除するからとウリスに言っておき、調理場へ向かうと、チョ○レ……もとい、プラノクリージュを塗る生地を作る作業に入る。
ざっくりと固い噛み応えにする為に水分や、小麦粉の配合に気をつけて行う。
材料の分量はもちろん、かき混ぜ方にも注意が必要だ。特に強力粉などのグルテンが多い粉は、かき混ぜると粘りが出て──固くてごわごわした食感の物になってしまう。
粉物は篩に掛け、ヘラでさっくりと混ぜ、全体が纏まるまで切るように混ぜるのがコツだ。パンは練って粘りを持たせた生地に、酵母菌を使ってふんわりと焼き上げられるが、菓子はそうはいかない場合が多い。
膨らし粉を使えば柔らかい菓子も作れるが、粉類を入れた後の扱いには配慮が必要になる。
牛酪を塗った天板に棒状に絞り出した生地を乗せて焼く。
天火に入れたら、今度は庭に戻って燻製器に木片を──様子を見ながら足していく。こちらは軽く燻製にした物と、がっつりと燻製した物など、いくつか用意するつもりだ。
「団長、なにしてんの?」
そう言って庭に現れたのはヴィナー。
彼女は二階の掃除を終え、洗濯をするつもりのようだ。
「うん、菓子に使う燻製品を作っているのだ」
「菓子に燻製って……味が想像できない」
まあ確かに燻製は料理には使うが、菓子にはあまり使わないだろう。
「まあ試作だから、上手くいくかは分からないけどな」
ええ……と、苦い顔を見せる彼女。
「何事も挑戦と失敗だ。そうでなければ良い物は作れない……鍛冶だって同じだ」
お前も作ってみろ、と言うと──彼女はまたしても嫌そうな表情になる。
「昔、作ってみた事があったけど……砂糖を無駄にしてしまった記憶しかない」
どんよりと暗い笑顔から、彼女が経験した菓子作りの思い出には踏み込まないでおこうと決めた。
「ま、まあ、そういう時もあるさ」
何の慰めにもならない言葉を残し、俺は調理場へと戻って行った。
昼食をウリスとヴィナーの二人と食べ。彼女らは食後に庭で訓練をすると言うので見ていたが、鏃の無い矢を射るウリスの前にヴィナーが立ち、その矢をヴィナーが防御魔法で弾く、という危険な訓練を行っているのを見て驚いた。
彼女らも他の旅団員に負けないようにと、訓練にもかなり厳しい内容を取り入れているのだ。
「怪我はすんなよ」
俺は彼女らにそう言葉を掛けて、調理場に戻る。
生地が焼き上がると、それを冷ます。
空いた時間に調理場の清掃と、燻製器から途中で取り出した物をいくつかと、糖蜜などと合わせてチョ○レートに似た物が作れるか、何度も試作を重ねていく。
燻製したカブテ草の根は、風味がチョ○レートに近い物になったと感じた。巴旦杏を加えた事で香ばしさも出る。
長い時間燻製に掛けたカブテ草の根と、巴旦杏などの組み合わせを細かく行い、ついにそれっぽい茶色い固まりが完成した。
黒に近いほど苦みやコクがあり、甘さは控えめな物になった。この辺りもチョ○レートっぽいな。そんな思いを抱きながら、紙にいくつかの配合を書いた物に印を付けて、二種類の完成品について注意点や改良点の示唆などを書いておく。
俺は冷ました棒状の生地に、溶かしたチョ○レートを掛けていく。
黒っぽい物と茶色の二種類を用意し、それを冷蔵庫に入れて冷ましていると──調理場に、ヴィナーとウリスがやって来た。
「ずいぶん時間を掛けて作ってますね」
「まあな、だが今はブツを冷ましているところなんだ。もう少しで試作品が出来るから──お茶にしようか」
そう言って立ち上がろうとするとウリスが制して、お湯を沸かし始める。
「体調が悪いんですから、寝台で横になっていた方がいいんじゃないですか?」
彼女はそう言いながら、お茶の用意を整える。
お茶の用意が出来たところで、冷蔵庫から二色のお菓子の一部を取り出す。
二人の前に差し出すと、彼女らはこれは何かと尋ねてきた。
「これは……『プラノクリージュ・ゼルヴ』だ」と、そう答えた。
「プラノクリ……? なんですかそれ。それに棍棒? なんか物騒な名前」
文句を言いながら固い棒を口にするヴィナー。
「いただきます」と言ってからウリスは、それを食べ始めた。
「おいしい」
二人はそう言って顔を見合わせ、こっちを見て笑顔を見せる。
「今までの焼き菓子とは違う、おもしろい歯ごたえと食感ですね」
「パサついてるけど、こっちの黒いのは甘さ控えめでいい感じだと思う」
どうやら二人には好評のようだ。
俺も苦心して作ったそれを食べてみた。
それは、記憶の中にある物とは少し違ったけれど、懐かしさを感じる──甘く、固く、パッサパサの、チョ○バッ○を思い出す味だった。




