元団長リトキスの苦悩
部屋の中に招かれた俺達は、何とか落ち着きを取り戻していた。
冷静になれば、フレイマの迎賓館だって似た様な格式の高さがあったが、あそこでは喧嘩をしに行く気持ちで乗り込んで行った為、そういった事に無頓着でいられたのだ。
レーチェの借りている部屋は内装も豪華な物だったが、一人で(?)居る癖にやたらと広い部屋を使っている。
「無駄もいいとこだな」
「何か仰いまして?」
それに今のレーチェは、いかにも貴族のお嬢様らしい品の良い水色の婦人服を身に着けていて、少しがっかりしてしまう。
「部屋着はエロくないんだな……」
「何か仰いまして⁉」
二人の少女は硝子戸で仕切られた庭の方を見たり、壁に架かった訳の分からない物が描かれた絵画を見たりしている。
「それで、あの娘らは誰なんですの? 見る限り冒険者の様ですけれど」
あんなに小さい娘が……などと心配そうに見ているが、おそらくはレーチェよりメイの方が単純な力や技では上だろう。まあ今はそんな事を説明してやる必要は無い。
「お嬢様は、旅団を立ち上げて俺を専属の錬金鍛冶師として雇うと言っていたな? あれはどうなった?」
唐突に切り出された話にレーチェは「ああ」、と声に出し頷いてみせる。
「それについてお話ししようと昨日あなたの店に行きましてよ。ところが閉まっているじゃありませんの、いったいどこへ行かれていましたの?」
なんと、行き違いになっていたようだなと話し、事の経緯をユナやメイと共に説明し、フレイマで起こった事を(泊まった夜の出来事は内緒だ)彼女に説明する。
「昇華錬成の事は聞いていましたが、そんな事になっていようとは……それにしてもその旅団の連中は屑ですわね。虫酸が走りますわ」
そう言いながらお茶の用意をするレーチェ。
「レーチェさんは、オーディスワイアさんが『金色狼の三勇士』だから雇いたいんですか?」
とユナが話してしまう。
「は……い? 『金色狼の三勇士』の事は知っていますが、誰が三勇士と仰いましたか?」
「オーディスワイアさん」と今度はメイが答える。
お嬢様は手にしていた紅茶の入った容器を持ったままこちらを見て、「そうなんですの?」と表情で訴えている。
俺が頷くとそのまま紅茶を注ぎ、「知りませんでしたわ」と言いながら人数分注ぐ。
「でしたら、私が元団長のリトキス氏の名前を出した時に、仰って下さっても良かったのではなくて⁉」
「いやいや、別にそんな紹介いらんだろ。俺が『三勇士』なんて恥ずかしい呼び名をされていた時に、リトキスはまだ副団長の立場だった。俺が引退してすぐに、あいつが団長になったんだが──あまり長続きはしなかったらしいな」
灰汁の強い連中ばかりだったからなぁ、と口にするとレーチェは静かに語り出す。
「元『金色狼の旅団』団長のリトキス氏は偶にですけど、三勇士の事を話してくれましたわ。一人一人の名前については話して下さらなかったのですけれど、あの三人が冒険に出る度に、いつもわくわくしながら帰りを待っていたものだと──そう仰っていましたわ」
あいつ、まだ若いのに団長なんてやらされる羽目になって辛かっただろうな──そんな事をおもわず呟くと、レーチェが急に怒り出した。
「そう思うのでしたら、あなたが旅団の団長を引き受ければ良かったじゃありませんの! リトキス氏は旅団の団長を早々と辞める事になったのは、自分の力量が足らなかったからだと自分を責め、今は各地の転移門を旅しながら修業していると仰いましてよ⁉」
そうだったのか──彼女からそう聞かされて、俺はぐうの音も出ないほど打ちのめされてしまった──




