不意の来客と依頼
おお⁉ 急に評価がたくさん……ありがとうございます!
今回は笑える展開──外伝のときといい、メイはなぜか下ネタ担当になりつつある……(汗)
宿舎に戻った俺を出迎えたのはメイだった。
今日はメイとリーファの二人が宿舎に残り、他の面々は冒険や若手の育成の為、市外訓練場へ出向いている。
「旅団長、お客が来ているよ。地の神ウル=オギト様の使いだって」
少女が言うには、客間に待たせてあるというので、まずは神騎兵の資料を自室の机の引き出しに入れ、それから客間へと向かう。
ドアを叩くと中から「どうぞ」と静かな女の声が。
部屋の中へと足を踏み入れると、テーブル席の前に腰掛けた二人の巫女が立ち上がろうとする。
俺はそのまま座ってくれと身振りで示すと、彼女らと対面する長椅子に腰掛ける。
「神ウル=オギトの使いという事だが……また、面倒な事を頼みに来たんじゃないだろうな」
若い二人の巫女は初めて見る顔だったが──曖昧に頷いて、見習いの着る黄色と灰色の巫女服の懐から書状を取り出してテーブルの上に置く。
テーブルの上、彼女らの前には菓子が乗っていたと思われる小さな皿と、紅茶の入った茶碗が置かれていた。
最近、不意の来客も多いので、作り置きの焼き菓子などを瓶の中に保管してある。今日の焼き菓子はリーファが焼いた物だろう。
巫女の二人がどれくらい待っていたかは分からないが、紅茶の残りに比べて菓子が消えている様子を見ると、相当気に入ったらしい。あるいは、彼女らは甘いお菓子を食べられるような生活を送ってはいないのかもしれない。
「書状──誰が書いたんだ?」
裏側を見ると、そこには地の神ウル=オギトの名と、巫女の名前──アロエ──が書かれていた。この名前は確か、地の神の通訳で語尾に「チューチュー」と付ける巫女の名前だったはずだ。
巫女の二人の少女は、傍若無人な態度の俺を憚るような目で見てくるが、「焼き菓子は旨かったか?」と尋ねると、コクコクと頷いて目を輝かせる。
(ふふん、まだまだ子供だな)
俺は書状の封を切って、中身の二枚の紙を取り出して読み始める。
──一枚目の手紙の内容は簡潔だった。
冬前に「地の慰霊祭」を執り行うので、そこで使用する象徴武具の「戦鎚」を造って欲しい、といった要請の内容が書かれていた(この慰霊祭は、大地に還った者達の供養というよりは、来年の収穫に恵みを齎して欲しいと祈る、豊穣祈願の側面が強いらしい)。
やれやれ、同じく「地の」化身エウシュマージアの象徴武具を造るよう、管理局から依頼されているというのに、またしても新たな依頼を受けるとは。
しかも手紙の最後にはご丁寧に──通訳の巫女から「使いに寄越した二人の巫女見習いは、まだまだ未熟な者達なので、甘いお菓子などを与えて心を惑わす事の無いように」などと書き加えられていた。
「そういう事は、本人達に言え」
俺は手紙を軽くひっぱたくと、二枚目の紙に目を通す。
それは、神騎兵の混沌警戒活動を助ける、「監視飛翔体の作製」という依頼内容だった。
どういう事かと思いながら先を読むと、都市ゲーシオンの管理局で保管されている「古代の遺産」を見れば分かるだろうと書かれていた。
監視飛翔体──そう言われて思いつくのはドローンだった。混沌領域の中を飛翔し、敵の接近を神騎兵よりも早く捉え、その情報を神騎兵や、監視している者達にも伝える──そんな機械の事だろう。
「古代の遺産にそんな物があるのか……? 管理局の秘匿情報は一度すべて、解放した方が良くないか?」
思わずそんな事を呟いて、少女二人から訝しがられてしまう。
「ニャァ──」
不意に、子猫の声がした。
テーブルで隠れて見えなかったが、巫女の隣に子猫が座っていたらしい。
子猫は床に降りるとドアの方に歩いて行って、木製のドアをカリカリと爪で引っ掻き始める。
「あ──あ──、引っ掻くな。開けてやるから……」
ドアを開けると、子猫は客間を出て廊下を駆けて行く。
それにしても監視飛翔体か……古代の技術的遺産には、いったいどういった物があるのだろうか。
まあ、それらを見たところで、俺がその技術を復活させられるかは分からないが。
俺はしばらく立ったまま考え込んでしまった。地の神ウル=オギトの手紙には「見れば分かる」と書かれていたが……映像を送れる物か、それとも感知した混沌の位置や、方向を伝えるだけの物なのか……映像が送れる物なら、冒険でも有効な物になりそうだ。
冒険に出ていない俺でも、新しく開いた転移門の先を確認する事も出来るのだから。
「あの──」
と、巫女の少女が話しかけてくる。
「おお、すまん。それで、もう用は済んだのか? 他に用事が無ければ、俺は少しやる事があるから──まあ、宿舎の外までは送ってやるぞ」
そう言うと、少女達は紅茶の残りを飲み、すっくと立ち上がって「案内されなくても、帰る事くらいできます」と膨れっ面をする。
俺は少女達を玄関まで送る前に、自室から小さな瓶に入った焼き菓子を手土産に持たせ、彼女らの先輩巫女──通訳の「アロエ」にそれを渡すように言っておく。
「手紙に、君らに甘い物などを与えぬようにと書いてあった。それを知らずに甘い物を口にさせてしまったからな。アロエにはそれを渡し、俺が君らを責めぬように言っていたと伝えてくれ」
すると二人の巫女は一瞬「まずい事をした」といった表情をして見せたが、小瓶に入った焼き菓子を受け取ると「確かに渡しておきます」と大きく頭を下げ、礼を言って宿舎を出て行った。
ま、あの通訳も本気で「甘い物を食わすな」などと言う事は無いだろう。きっと、若い娘を甘やかすな、といった程度の意味であの一文を書いたはずだ。
部屋に戻って「神騎兵」の資料を読むか、それともこのまま鍛冶場に行くか、廊下に立って考えていると、後ろから声が掛けられた。
「おぅ……メイか、脅かすな」
「あの子達、帰ったの?」
俺は「ああ」と答え、彼女が何やら悩み事を抱えている様な表情をしているので、どうかしたかと尋ねてみた──すると。
「う──。旅団長の、黒くて固い棒が食べたい」
などと言い出したのだ。
誤解の無いように言っておくが、彼女の言う「黒くて固い棒」とはチョ○バッ○の事だ。
……と言っても、こっちの世界でチョ○バッ○が売っているはずも無く。もちろん俺が作った物だ。
何しろチョ○バッ○は、俺が子供時代から親しんでいた定番の駄菓子だった。それを急に食べたくなったのだ。
しかし、カカオの実が無いこちらの世界(少なくとも発見されてはいない)、チョ○レートの代用品として選んだのは小さな草の根っこ(こちらの世界でそれは、煎じてお茶として飲まれている)。それを煎って粉末にした物を元に、海藻から作った糖蜜に牛酪や香料を混ぜて、それらしい物を作り、固いパンと焼き菓子の間の様な、あのパッサパサに乾き、食べると喉が渇いて仕方なくなるような生地を焼いて、それに黒いチョ○レートもどきの液体をかけて固まらせた物だ。
見た目はチョ○バッ○そっくりな物が出来たのだが、味は……チョ○というよりは珈琲に近い味の物が出来上がった。悪くはないが、期待していた物とは違った。
しかしメイは気に入ったらしい。
「ああ、あれね……まあ、そのうちまた改良したのを作ってやるから……その『黒くて固い棒』という言い方はやめろ、いいな?」
少女は「わかった──」と答えたが、意味は分かっていないだろう。
このままではチョ○バッ○が「旅団長の黒くて固い棒」などという、卑猥な呼び名を付けられてしまいそうなので、命名についても考えておかねばならないだろう。
それに「カブテ草」の根を加工する方法に心当たりが出来たし、それ以外の物を加える事も考えている。
俺はメイに菓子を作る約束をして、鍛冶場へ向かう事にした。
オーディスワイアはチョ○バッ○をディスってるわけじゃありません。彼はそれを含めてチョ○バッ○が好きなんです。




