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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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管理局からの依頼と過去の知識

応援を込めた高い評価をしていただき、ありがたいです。

週に2~3回の投稿を目指して頑張ります。

 翌日、旅団員それぞれに、これからは冒険に出た各班パーティが入手素材の報告書を書くように指示を出し、その作業を簡略化する為の判子なども作ると説明した。


 鍛冶場に向かうと、今日一日の作業について話し、サリエには判子を作る作業を頼んでおく。紙に書いた判子の一覧を渡し、細かい設計図の数値通りの大きさに仕上げるよう念を入れて発注する。

 彼女は「分かりました……全部作るのに、たぶん──五日くらいを予定してください」と応えた。

「うん、了解した。頼んだぞ」


 鍛冶場から旅団宿舎に、作製しておいた印刷機を運ぶのを、双子のエアネルとレンネルに任せると──その後、俺は一人で管理局へと向かう。

 手には印刷機の設計図と、地の化身エウシュマージアの為の象徴しょうちょう武具についての大まかな設計図も持ち、管理局内の技術開発棟へ向かい──メリッサに会いに来たのだった。


「よく来てくれました」

 彼女は管理局上級管理官制服ではなく、作業服仕様の管理官服を着て出迎えてくれ──「それでは、さっそく案内しましょう」そんな事を言うのだ。


「まてまて、今日はいったい何の用だ。地の化身エウシュマージアの象徴武具について聞かれると思って来たんだが……」

 俺はそう言いながら、彼女に数枚の紙を手渡す。

「もちろんそれについてもお聞きしますが、それだけではないからこそ、手紙でお呼び出しをしたのです」

 そう言いながら、メリッサは資料に簡単に目を通すと──ぼそぼそと開発費報酬の計算を始め、「これについては後で話し合いましょう」と残して、さっさと歩き出す。


「それにしても印刷機ですか。これは旅団にとっては特にありがたい物ですね」

「判子も作っているんだが、そうした物も印字できればいいんだが。まあ、印刷するたびに判子を交換する手間を考えると、別々の方が効率は良さそうだ」


 メリッサは通路の奥へと向かったと思ったら、そのまま裏口から外へと出て行く。

 裏庭のある広い空間……庭と言うか、だだっ広い芝生で埋め尽くされた中央に、一階建ての──さして大きくない灰色の建物がある。

 メリッサはその建物の扉を開けると中へと入り、左右にある扉を無視して前方の大きなドアの前に立った。


「これは昇降機です。今から地下へと向かうので、その間にいくつかお話ししておきましょう」

 彼女が壁のボタンを押すと、二枚の大きなドアが横に開いて行き、その先に大きな部屋みたいな昇降機エレベーターがあった。


「大がかりだな」

「この下で作る物が大きな物なので、場合によっては大きな機材を運搬するだろうと、このような大きさの昇降機になっています」

 行きましょう、と彼女は昇降機に乗り、俺に呼び掛けた。


 昇降機に乗るなんて久し振りだったが、これはただ単にロープで吊り上げている物ではなさそうだ。おそらく(昇降機)の左右などに錬金術か魔法の技術を使って、磁石の様な物を利用して上下に動かしているのだろう。

 凄く静かに下へ降りて行っている。言われなければ降りていると気づかないくらいだ。


「この地下にあるのは『神の手(シュベルエレン)』と呼ばれる神騎兵シュルトヴァーレンの生産、修理などを行っている区画です。何層かに分かれていますが、今回は金属加工場と神の手の修理工場へ案内しましょう」


 神の手……「戦う者共」とも呼ばれる巨大な鎧をまとう半霊的戦士の事だ。まさかその生産工場に来る事になろうとは……彼らは霊的な存在であるが、神の力の一部であり、戦う意思以外は持たない存在であるらしい。

 混沌こんとんを排除する為に常にフォロスハートの周辺を警戒して回る、巨大人型兵器である。


 その存在がある事は知らされているが、多くの市民にとっては神と同じくらい、あるいはそれ以上に縁遠い存在かもしれない。

 見た事のある市民など、ほぼ居ないだろう。


「実は、あなたが発見した『対混沌攻撃力』を付与する為に、大量の金属の加工をしなくてはならないのですが──特に鋼を。その為の新技術開発を、あなたならできると、火の神ミーナヴァルズ様がおっしゃったので」

「またあの()か」

「あ、いえ。正確には、水の神アリエイラ様から聞いた話だと仰っていましたが」


 俺は首をかしげたが、彼女は俺を()()()()()()()()()()()俺の姿を見ており、そこでの情報についても知り得る事は可能だろう。あるいはいくらかは俺の記憶を共有しているのかもしれない。──その、()()()()()()()からな……


「大量の金属の加工……ああ、何となくだが心当たりがある」

 炉で溶かした大量の金属から、短時間で不純物を取り除く方法について助言をしろと、神々は言うのだろう。

(こちらの世界の)小さな鍛冶場では、そうした方法よりも、やはり武器や防具など一つ一つの装備に力を込める為に、えて金鎚を使って叩いているが──ある品を使えば、不純物を簡単に取り除く事は可能なのだ。


「ところで神の手の装甲に『対混沌』の効果を付与するなら、『混沌()()』の方がいいだろう」

 俺の言葉に彼女は眉をひそめる。

「そんなものを……発見したのですか?」

「発見というか……発想の違いだな。『混沌鉄鋼アディスヴァルド』と『混沌灰』の効力を融和して、混沌の攻撃に対して威力を軽減させる事は──ある程度は可能だ」

 まあ、管理局に混沌結晶に関する報告書を提出した後も、未だに結晶の研究を続けていたので──その時に気づいたのだが。


「それなら早く言ってください。危うく混沌鉄鋼を無駄にするところでした」

 無駄にはならないだろう……ただ、防御としての効果は少ない物になってしまうだろうが。攻撃特化か、防御にも効果を回すか……それが問題だ。


 ……それにしても、だいぶ地下深くまで降りて行くんだな。

 俺の言葉にメリッサは同意する。

「ええ、何しろ一番下の区画から神の手が発進するので。つまり一番下はフォロスハートの下部に抜ける穴が空いているのです」

「へえ、それはネ○フもびっくりだな」

 なんですかネ○フって、と尋ねる彼女を無視して、地下深くに降りて来た俺達は、地下にある広々とした工場の様な場所に出た。


 大勢の人が手押し車などに乗せた物を運んだり、せわしなく動き回っている。

 壁などは剥き出しの地面だが、相当固い。いや、おそらく土の壁に何かを塗り込んで、固めてあるのだろう。

 床には石の薄板タイルが張られたり、金属板が敷かれている場所があった。いかにも大きな工場区画といった雰囲気で、かなりの資材がこの区画に使われているのは明白だった。


「最新式の空調や冷房装置など、あなたの発明した簡易冷房装置も、ここには数多く置かれています。万が一の消火器や武器なども大量に保管されているのです」

 こっちですと案内された場所は、様々な素材や薬品が置かれた保管庫だった。


「ここの物を自由に使って下さって構いません。それで金属加工で不純物を取り除く品が作れるなら、ぜひお願いします」

 棚を見ると彼女の言う通り、様々な物が置かれている。色々な鉱石や石炭、結晶から液体まで、何でもあった。


 鉄から鋼を作るには酸素を送り込み、炭素を排除する事だ。さらに硫黄いおうやケイ素、りんなどの不純物を取り除かなければ、良い鋼はできない。

「まずは炉を見せてくれ」

 メリッサに言うと、彼女はすぐに案内してくれた。


 そこにあったのは大きな壺型の炉で、壺の左右にある取っ手を上げ下げして、炉を傾けて溶けた金属を流したりするように出来ていた。

 管理局は最近、新しい耐熱石材を完成させたらしい。それで作られた炉なら、かなりの高温に耐えられるのだろう。


「立派な炉じゃないか。この中に酸素を発生させる物を投げ込むと、火花が周辺に飛び散って大惨事になるが、構わないか?」

「いえ、できればそれは……」

 なら炉に傾きを付けて、一方に火花が飛ぶようにした方がいいだろうな、と言うと。

「そんなに火花が出るのですか?」

 とか言うので、「前に立っていたら、焼け死ぬほどに」と答えておいた。


 俺は素材保管庫に戻りながら、酸素を発生させる錬成品を作るとメリッサに言う。すると彼女は近くの研究員に声を掛け、紙を持って来てメモするようにと言う。

「それほど難しい物じゃない」

 数人の錬金術師の若者を前に「酸素」を発生させる錬成品の作製を始める。


 これは水中に潜る時に使った物とは違う。

 今回は純度の高い酸素を大量に作る事が目的で、これは炉の中で炭素を極力排除する為に生み出す酸素なのだ、人が呼吸する為の物ではない。


 錬金術師の前で、俺は二つの物を錬成した。

 一つは熱い溶けた金属に触れると酸素を発生させる白い結晶。

 もう一つは酸素を除去し、残った不純物を鉱滓こうさいとして固める為の灰色の結晶だ。


「これをまずは白い方を投げ入れて、酸素をあふれさせ──炭素などを排除し、その後は溶けた金属から酸素を除去するのに、灰色の奴を投げ入れれば大丈夫だろう。大きい炉でやった事は無いが、まあ、投げ入れたら、そこからすぐに離れる事だな。でないと死ぬかもしれん」

 注意しながら、まずは試しにやってみよう、という事になった。

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