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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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事務作業の簡略化

この話に登場するお菓子、実際にある物を参考にしています。それにはドライフルーツなども使われているお菓子でした。ブランデーを染み込ませ、醗酵(?)させるらしく、数ヶ月間という長い時間を掛けて作るお菓子です。

「なんですの? 団長、いま忙しいのですが」

 数十枚の紙束を前に、かなりぴりぴりした雰囲気ふんいきを出してレーチェは言った。こんな事もあろうかと、食堂の冷蔵庫から時間を掛けて作っておいた生菓子ケーキを皿に乗せ、持って来ている。紅茶の用意も万全だ。


「いや、お疲れだろうと思って、お茶を入れてきた」

 ふっ、決まったな。

 これでレーチェは矛先を収めて、こちらの話しに耳を貸すだろう。


 その時、俺の背後で鈴の音が鳴った。

「ニャァ──」

 そこに居たのは白猫のライム。

 ドアを開けた時に俺の後について来て、部屋の中に入って来たらしい。首輪に付けた鈴を鳴らしながら俺の足下まで歩いて来る。


「ねっ、猫! しっ、しっ!」

 彼女は俺の足下の猫に手を振って、部屋から出て行けとせまる。彼女の猫嫌いはまだまだ克服されずにいた。

「ニャゥゥ──」

 ライムは俺の足に体をこすりつけると、寂しげな鳴き声をあげて甘えている。


「ああ──ごめんな、ちょっと副団長レーチェと話しがあるんだ、またな」

 お茶を乗せた銀盤トレーを机に置くと、ライムを抱き上げて部屋の外へ連れ出す。

 彼女ライムは鳴き声をあげて非難したが、レーチェが猫に怯えるので廊下に出てもらう。


 レーチェはほっと胸を撫で下ろす。その胸の大きさも相変わらずだ。今日は冒険には行かず、事務作業をおこなう為に宿舎に残り、一人で作業を行っていたのだ。

 だから今日は彼女の私服姿をおがめる訳だ。……まあいつも冒険から帰って来たら、すぐにあの()()()格好から私服に着替えるのだが。


「それで……なんですの、改まって、紅茶の用意などして──」

 じろりと疑念の視線を向けるレーチェ。

「いやいや、日頃の苦労をねぎらおうと思ってだな」

 そう言っても彼女は疑いの視線を向けたまま茶瓶ティーポットを手にし、紅茶を注ぐと「まあ、一休みしようと思っていたところです」と言った。


 俺も席に座り、紅茶を注いでもらって、皿に乗せた生菓子をレーチェの前に出していると──「ガチャッ」とドアの方から音がして、ドアがゆっくりと開いてきた。今日は俺とレーチェ以外は冒険や、市外訓練場に出向いているはずだが──

 ドアの方を見ていても、誰も入って来ない……と思っていたら、床の方から鈴の音が。

 下を見ると、ライムがてくてくと近づいて来て、俺のそばに来ると膝の上にぴょんと跳び乗る。


「ちょっ……なんでドアを開けられるんですの⁉」

「ああ……ここのドアは取っ手が横に伸びている奴だから、飛びついて開ける事を覚えちゃったんだな」

 そうつぶやくと、ライムは「ニャァ──」と鳴き声をあげて応えた。


「まったく……! 飼い主に似て、ずうずうしい奴ですわね」

「お前も飼い主の一人であるはずだが?」

えさをあげた事は一度もなくってよ!」

 と、何故かキレられてしまう。

「そんな事を威張いばって言わんでも……」

 な──? とライムの頭を撫でてやる。

「ニャァ──ォ」

 ライムはご機嫌そうな鳴き声をあげた。


「もういいですわ。そこからなら机で見えませんし、……そう言えば今日は、鍛冶屋の方は休みですの? 最近は鍛冶屋の方が忙しいとおっしゃっていませんでしたか?」

 俺は「ふむ」と声を出して壁を見る。

 さて、何から話したものか。

「まあ、その通りなのだが。今日は午前の仕事を徒弟とてい達に任せているんだ。……というか──あいつらだけでも、それなりの仕事を回せるようになったからな。それで……」

 猫のライムは俺の膝の上で丸くなると、体を撫でられながら一休みする様子を見せた。


「まあ話しの前に、せっかく作った生菓子を食べて、その感想でも聞かせてくれ」

 俺はそう言いながらフォークで生菓子を切って口に運ぶ。

 レーチェもそれを見て、同じ様に生菓子を口にした。


「あら、この香り……木苺を使ったお酒? ですの?」

「うん、蒸留酒を土台に木苺や香草に薬草なども入れた混成酒リキュールを生地に染み込ませて作ったんだ。時間を掛けて熟成させたのでアルコールは飛んでるはずだが──どうかな?」

 紅茶を一口飲んで彼女は「ふぅ」と息を吐く。


「素晴らしいですわ。錬金鍛冶師から菓子職人に転職でもする心づもりですの?」

 め言葉としては皮肉が効いてる気もするが、彼女の精一杯の賞賛の言葉なのだろう。

「そうか、良かった」

「お酒を使った生菓子だなんて、固めの生地の中に入った木の実も香ばしくて……大人のお菓子、という感じですわね」

 彼女はそう言って二口目を食べる。気に入ってもらえたらしい。


 俺自身も、そのなつかしい味のする菓子を食べて紅茶を飲み、久し振りに心休まる時間になった。

 こんな風に猫を抱きながら、お茶やお菓子を楽しむなど──最近なかった事だ。

 旅団も鍛冶屋も順風満帆じゅんぷうまんぱんという奴で忙しくしている。


 忙しいのは俺とレーチェだけではない。

 保管していた銅や鉄などの金属の延べ棒を、管理局から買い取らせて欲しいと──すべての都市の鍛冶屋にお布令ふれが出され、オーディス錬金鍛冶工房の在庫からも出す事になった。

 その埋め合わせとして、旅団員に都市ゲーシオンに遠征に行ってもらい、鉱石を採掘さいくつに行ってもらったりしたのだ。


 近いうちに管理局で大量に金属を使って、防衛部隊の装備品の新調でもする気なのだろう。もしかしたら明日、管理局でその件について協力するようにと言われるかもしれない。

 これ以上忙しくなると、旅団員達の装備品を作ろうという計画を後回しにしないといけなくなるか。

 彼らの日頃の頑張りに応えてやりたいのだが。


「それで……ご用件は?」

 レーチェはフォーク皿に置いて、こちらの話を聞く姿勢になる。

「用というか……お互いに忙しくなってきたからな。ここいらで事務作業効率化を図った方が良くないか? リトキスは自主的に冒険から帰ったら入手素材などを書いた物を呈示しているが、他の皆にもそのように取り組んでもらった方が、レーチェも楽だろう?」

 それはそうですが……という彼女。


「そこで、簡単な判子はんこを作ろうと思う。素材の種類や名前などを判子で押せれば、それをいちいち書く手間がはぶけるからいいだろ? 判子の横に数を書くだけで済むからな」

「ああ、それはいいですわね! ぜひお願いしたいですわ」

 この話に彼女は食いついた。


「紙についても、行や枠などを印刷した紙を簡単に作り出せる機械を作った。紙に線を焼き付ける方法だから、にじんだり、他の紙を重ねても移ったりしないようにできる」

 かなり大きな機械になってしまったが、紙の束を乗せて、円筒圧縮機ローラーを手動で回して一枚一枚焼き付ける事のできる機械だ。

 今日、仲間達が冒険から帰って来たら、さっそくこっちに持って来させよう。そう言うと彼女は喜んだ。


「それはありがたいですわ。……管理局の印刷機は、民間には回って来ませんものね」

「それに、印刷機があればいいが、行などを引くだけなら、こちらの機械の方が効率もいいだろう」

 その新技術開発も管理局に渡し、開発報酬をもらうとしよう──そんな考えもある。


「ごろごろごろ……」

 珍しくライムが喉を鳴らす。

 よしよしと喉を撫でてやりながら、生菓子を口にする。

 穏やかな日に、飼い猫を膝に乗せながら──ゆったりと茶菓子をたしなむ……悪くない。


 紅茶を楽しんだ後は、判子を作る為の字の選定を行った。素材を中心に、「○○の~」と後半に続く「鱗」や「甲殻」などを組み合わせて使えるようにし、判子の上にも、その判子の文字を表記すると決める。

 かなり小さな物なので、細かな作業が必要になるが──うちには細かな作業が得意なサリエが居る。

 俺と二人で取り組めば、そこそこ早い時間で製作できるだろう。そんな見立てをして、昼食の用意を始めるのだった。

金属の延べ棒を管理局が買い取った事は、この後の展開でそれとなく出ます。


猫のライムに首輪を付けるようになったんですね、嫌がりそうですけど。

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