方舟大地の未来
目覚めた俺は、朝食を食べるまで、ぼうっと考え事をしながら、惰性で動いているみたいだった。
エウシュマージアの言葉は、はっきりと頭の中に残っていて、俺は早々に鍛冶屋へ向かうと、徒弟の二人と共に「神威の台座」を持って管理局へ向かう。
管理局に「神々から依頼のあった物を持って来た」と伝えると、驚くほど速やかに担当の者が呼ばれ、礼を口にすると同時に──箱に入った台座を運ぶ者達が集められ、四人の職員が、それぞれ護衛を引き連れて、管理局から飛び出して行く。
唖然とする俺達に報酬を約束し、契約の内容が書かれた紙に捺印すると、その職員もまた、あっと言う間に去って行った。
徒弟達を帰し、俺はエウシュマージアに力を取り戻させるべく、相談する相手を探して──結局メリッサを頼る事にした。
彼女は、半信半疑で聞いていたようだったが、間もなく「西海の大地」がフォロスハートの近くに現れるらしい、と話すと、メリッサは言う。
「──ええ、どうやらそうらしいのです。私は、神官が賢者と話していたのを聞いただけですが」
それから彼女は、賢者ヴォージェスの居る場所に案内してくれた。
どうも彼女は、ヴォージェスの「耳」の一人であったらしい。
ヴォージェスは中央会議棟の外に居た。なにやら職員達と忙しなく話していたが、メリッサが近寄ると、すぐにこちらの話を聞く体勢に入る。
「どうした、二人とも」
そこでメリッサは、俺の話を聞くようにと賢者に進言する。
俺は昨日の夢……精神世界での事を話し、地の化身エウシュマージアが力を取り戻す為に、協力を求めている事を伝えた。
「もちろん大丈夫だ。それについては賢者達の中でも、すでに話し合っている」
ヴォージェスは海の大地の神々の力も借りて、フォロスハートを守る礎を築こうと考えていると明かす。
「その為の神結晶などは、こちらで手配するように働き掛けよう──だが、今はまだ、他にやるべき事がある」
彼はそう言うと、「お前も来い」と強引に俺を馬車に乗るよう言い、メリッサと別れて──急遽、賢者ヴォージェスと共に馬車で移動する事になった。
「せっかくだ、お前も吊り橋の完成を見届けたいだろう。神官の話では、間もなく混沌を抜けて西海の大地が、こちらに姿を見せるらしい。急ごう」
俺は流されるまま、馬車に揺られ、街の大通りを西に向けて進み始める。
その時だった、窓硝子の外を見ていた俺の目に、見知った人物の横顔が目に入った。
「止めてくれ!」
俺は御者に声を掛け、馬車を停車させる。
「なんだ、どうした」
訝しむヴォージェスに詫びを言い、もう一人連れて行ってもいいかと尋ねる。
「ああ、構わないが」
俺は返事を聞くと馬車を飛び降り、道をこちらに向かって歩いて来る人物に、手を振りながら駆け寄る。
「オーディス……団長! どうしたのです? 今、そこの馬車から降りて来たように見えましたが」
「話は馬車の中で、行くぞ。レーチェ」
急に現れた俺に手を引かれ、訳も分からぬと言った様子で馬車に乗り込むレーチェ。
「いったい、なんなんですか……」
レーチェはそう言いながらも、少し楽しそうだ。
「こちらは?」
賢者ヴォージェスが尋ねる。
俺はレーチェを旅団の副団長だと紹介し、賢者を、元冒険者の「黒獅子ヴォージェス」だと紹介した。
「賢者の方でしたの、それに昔は冒険者だった方とは──意外ですわ。七賢者……いえ、今は五人の賢者でしたわね。全員、管理局の人間で構成されているものとばかり思っていましたわ」
管理局の権力集中に対する不信感を持っていた彼女にとって、ヴォージェスの様な肩書きの賢者が居るとは、予想外だったろう。
この大柄な賢者と俺達は、馬車の中で旅団についてや、西海の大地の海底神殿で起こった事などについて話し合い、街道をかなりの速さで駆ける馬車に揺られながら、目的地に辿り着く。
そこは、外周区に用意された工事現場だった。高い岩の壁に囲まれた外周の一部が拓かれ、外側へと地面が突き出している。
すでに吊り橋を架ける準備が整っていた。
大地の外側に、もう一つの大地が見える。
「西海の大地」は、もうすぐそこにあった。
縄を取り付けた弓矢が放たれ、対岸に居る人々の間に縄が通され、その縄を移動して行く鋼索。ズルズルと伸びて行くそれは、橋の上部に固定され、中央に馬車の通る道、両脇に人が通行できる、欄干の付いた吊り橋が──二つの大地の間に渡された。
橋の床板を震わす様な歓声と拍手。
双方の大地から人々が競って吊り橋を渡って行く。
新しい時代を迎えた市民達が歌を唄う。
これからの幸福と希望を願う歌。
「皆、本当に嬉しそうで──なんだか、こちらも嬉しくなってしまいます」
レーチェが呟くのが聞こえる。
様々な苦痛や困難を乗り越えて、俺達が成し遂げたのは──こうした日を、待ち望んでいたからだ。
俺は、そう答えていた。
「ええ、……ええ。そうですわね」
賢者ヴォージェスは俺の肩をぽんぽんと二度叩くと、民衆の中へ大きな声を響かせる。
「聞け! フォロスハートに住む者達よ! 今日という日を忘れるな。──そして、覚えておいて欲しい。多くの冒険者や、それを支える多くの人々の尽力によって、今日という日が迎えられた事を! 我らの見る先にある西海の大地。そこに居る神を助け、こうしてフォロスハートに新たな土地を接合する為に尽力した、一番の功労者を紹介しよう」
そう言って、賢者ヴォージェスは俺の背中を、逞しい太い腕で押し出した。
「この男、錬金鍛冶師にして、旅団を纏め上げる冒険者のオーディスワイアが、海の神との契約を定め、フォロスハートに海から得られる恵みを齎してくれたのだ!」
うぉおおぉっ、と凄まじい歓声が沸き起こる。
まるで何かが噴火したかの様な、ビリビリと体に響く彼らの声と、打ち鳴らされる拍手の嵐。
「おいおい、俺一人でやった事じゃぁ無いぞ」
俺は歓声に気圧されながら、賢者の無茶な表明に文句を言う。
控えめに、背後でレーチェが手を叩いている。
彼女の嬉しそうな微笑みを見て、俺は曖昧に笑い掛ける。
これからも、冒険者を、市民を、フォロスハートを、神々を、支える日々が続きそうだ──
ー 錬金鍛冶師の冒険のその後 第七章 方舟大地の未来 完 ー
ここまで読んでくださった方に、まずは、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか、最後ははしょってしまった感がありますが、なんとか毎日更新を目指して取り組み、300話までこぎつけました。
まだいくつか書かれていない(伏線の様な)部分もあり、これからの展開も考えなきゃなぁ……と考えつつ、他の小説を書かなきゃならないので、続編を書くにしても、いつになるか分かりませんし、もう毎日更新などという真似は出来ません(笑)&(震え声)。
今回で一応の完結ですが、上にも書いたようにまだ書いてないエピソードがいくつかあります。外伝に書く物もあるので、そちらも読んでもらえると幸いです。
それではまた、この物語の続編か、別の物語でお会いしましょう~~
感想、お待ちしています! ありがとうございました。




