帰還とその後の計画
朝──目が覚めた俺は、隣に微かに残る温もりを感じながらゆっくりと上体を起こした。久し振りに感じる朝の気怠さ……若い頃と比べて今では、あの様な激しい行為に(気持ちはともかく)身体がついてこない。最近の運動不足も祟って口にするのは憚られるあれもへとへとに疲れ果ててしまった様子だ。
「欲求不満の女を相手にするのは大変なんだぜ……」
そんな、聞かれたらどんな目に遭わされるか分かったものではない言葉を口にしつつ、寝台から起き上がる。
幸い浴場は朝から使えるようになっているので、汗や何やらを流し、着替えてから食堂へと向かう。
食堂にはユナとメイの二人がすでに来ており、給仕の手伝いをして皿を並べている──給仕は困った様子で少女達に座って待ってくれと頼んでいる。
「おはようございますオーディスワイアさん」
二人はそう言って元気に挨拶する。
俺は「あぃ……」と元気の欠片も無い挨拶を返し、二人を心配させてしまう。
「大丈夫、少し疲れただけだ」
「眠れなかったんですか?」
「ん、まぁ……そうとも言う」
曖昧な事を言って誤魔化したが、少女らには分からなかったようだ。昨日聞いた話しではユナは十五歳でメイは十四歳になったばかりだという。
今はあどけない少女でも大人になると、あの様な女になってしまうのだろうか……それはそれでアリな気もする──(←こらっ)
食事を取った俺達は早速帰る事にした。神殿側から用意された馬車で、クラレンスを通り過ぎて一気にミスランまで駆け抜けて行く。
御者が「高速馬車」なる事を言っていたが本当だった、その日の昼にはミスランまで帰って来れたのである。
さて、俺はこれからやらねばならない事があるのだ。旅団新設の資金を調達に行くと言うと、少女達もついて来ると言うので、一緒に捜しに行く事にする──捜すと言ってもこれから向かう場所に行けば必ず居るはずだという確信がある。
その場所とは、ミスランの街にある宿屋の中でも最高級と噂の宿「明月館」だ。歴史ある宿としても人気があるらしい──俺にはまったく分からんのだが。
大きな宿屋の建物に辿り着くまでに、庭の中を歩かされる辺りが「高級感」の演出なのだろう。
「庭を見てご覧、素晴らしいじゃないか」
「きゃっ、本当ね。素敵だわ」
こんな事を言いながら行くのが、良い男女の決まりなのだろうか……? だが、現在の俺達は……
「お、オーディスワイアさん? ここ、凄くか、格式が高くていらっしゃるようなんですけど……?」
「ばば、ばか、狼狽えるな。かっ、格式がなんぼのもんじゃい──」
こんな有様なのである。
メイは俺やユナとは違って、目新しい彫像などに興味を示すと「あれ、何なんでしょうか。まるで意味が分かりません」と楽しんでいるご様子。
無垢ってこういう事なのか……
覚悟を決め、宿屋の入り口から中に入り、カウンターに居る支配人(?)らしき男に詰め寄る。
「レーチェ・ウィンデリアの泊まってる部屋へ案内しろ」
相手は急に現れた男の形相を見て危険な奴だと判断したらしい、両手を軽く上げて「武器は持っていない」と示す。
「お、お客様。当宿ではお客様の事をお話しする事は禁じられておりまして──」
「ばっ、バッカ野郎! 俺が強盗や誘拐犯にでも見えんのか、ぁあん⁉」
しまった、テンパり過ぎてチンピラみたいな喋り方になってしまった。
「おっ、俺はオーディスワイアという者です。怪しい者ではありません、お嬢様にお仕事の件でお話がございまして……」
何とか口調を誤魔化して話し掛けると「オーディスワイア──? ぁあ」
と支配人らしい男は何やら納得し、「失礼致しました、こちらです」と案内し始めた。
俺と二人の少女は豪奢な意匠に包まれた壁や柱、時には大きな絵画の横を通り、真っ赤な絨毯の上を恐る恐る歩いて、やっと目的の部屋へと案内された。
「お客様、失礼致します」
ノックの後に「どうぞ」との声を受けた支配人がドアを開け、レーチェに「オーディスワイア様がお見えになられていますが」と声を掛ける。
「オーディスワイアが⁉ まっ……少々お待ちになるよう伝えて貰えるかしら⁉」
と開いたドアから彼女の慌てた声が聞こえてくる。ああ、何を躊躇っているのだ、面倒臭い奴だ。俺は格式高い物に囲まれた居心地の悪さから気が立っていた。
支配人が部屋から出て来て「少々お待ちくださいとの事です」とご丁寧に復唱してくれた。
しばらくすると部屋のドアが開いたが、俺達(?)は苛々の頂点に達しようとしていた。
「ばかぁああ! さっさと開けろよぉおおぉ‼」
「なっ、なんなんですのいきなり⁉」




