小さな蛇の願う事
次話で最終話です。
あわわわわっ、最後がだいぶ、はしょった感じになったら──ごめんなさい!
区切りの良い300話にこだわり過ぎたか……
その日の夜には「神威の台座」を納める木の箱が四つ、完成した。
それぞれの属性に対応した装飾を施した木箱。中には絹や綿を仕込み、盃型の台座をそっと包み込む様にしまえる作りだ。
「ご苦労さん。明日、朝食を食べたら、管理局に持って行く事にしよう」
ケベルとサリエも頷いて、自分達も持って行きますと言ってくれた。
「そうだな、一人で四つの箱を運ぶのは厳しい。それでは頼む」
木箱の中に台座を入れると、蓋をした箱を青や緑、赤に灰色の布で包み、それらを保管庫にしまって置く。
鍛冶屋の扉を閉めると、二人の弟子におやすみを言って、宿舎へと戻る。
薄暗い夜道を照らす、青い月火。
空気は少し冷たく、肌を撫でる風に身を震わせながら宿舎へと帰って来た。
玄関前の猫達の居る場所に、発光結晶の指輪付けたユナとメイが居た。……どうやら風呂から上がって、部屋に戻る前に猫の様子を見ていたらしい。
「おかえりなさい。台座の箱、完成しましたか?」
ユナの言葉に頷きながら靴を脱ぐ。
「ああ、明日の早朝に徒弟達と管理局の方へ持って行くよ──メイ、猫は明かりが苦手だから、そっと寝かしておいてやれ」
巣箱の中に居る子猫達は、母猫のお腹に顔を押し付けたり、丸まって顔を前足で隠したりしながら眠っている。
ライムはまだ起きていて、俺の顔を見ると小さな鳴き声を上げ、おやすみを言った様に目を閉じた。
「さ、俺達も眠るぞ。明日も早い」
俺は部屋に戻ると、風呂で軽く汗を流す事にし、着替えを手にして風呂場へと向かった。
風呂を上がると部屋に戻り、髪を乾かしながら物思いに耽る。
新しい転移門が開く度に、冒険者達は──その門の先に、大きな期待と不安を抱いて、仲間達と共に旅立って行くのだ。
今回の大地の接合……これは、それよりも遥かに大きな変化であるだろう。
当事者となる我々にも、その変化がどれほどのものかを判断できないほどに、それはフォロスハートに新たな可能性を齎す事になる。
今まで、漫然とした食料自給の少なさに、ある者は怯え、ある者は慣れてしまっていた。これからは、そんな不安の種が、少しは解消されるだろう。
何故だろう。明日への期待や希望が──胸の奥をざわつかせ、波立たせる。
不安になるほどの喜びの感情。
今までの苦労が報われる。そんな気持ちを感じながら、その日の終わりを──今までに無い、充実した気持ちで眠りに就く事が出来た。
*****
波の音が聞こえる。
懐かしい、ひどく懐かしい波の音。
気づけば俺は、白い砂浜の上で横になっていた。
「夢……? いや、精神世界か……?」
自分の意識を認識できる。──夢では無い。
周囲を見回すと、小さな島の砂浜に居るらしかった。
青々とした空と、内陸に生えた緑生い茂る草木の豊かな場所。見覚えは無いが、なんとも落ち着く光景だ。
俺は近くの岩場に行くと、体に付いた砂を払いながら岩に腰掛ける。
「私の力は、こんなにも小さくなってしまった」
不意に、誰かの声が聞こえた。
振り返るが、誰も居ない。
……ふと、白い砂の中から何かがうねうねと動いて、隣の白い石の上に、それが乗っかった。
灰色の小さな蛇だ。
ああ、その蛇には見覚えがある。こんなに小さくは無かったが。この蛇は、混沌の領域で戦った──海の神の半身。エウシュマージアだろう。
「この小さな島。ここが今の私の力の全て」
その蛇は、寂しげに言った。
「しかしそれは、海の神エウシュアットアに、その力を預けたせいでは?」
小さな蛇は、金色の眼を光らせて、チロチロと小さな舌を出す。
「うむ、それもある。しかし、私の力は本質的に失われてしまったのだ。──このままでは、お前達人間の力になってやる事も出来ない。……そこで──人間よ。私に、私達に力を貸してくれないか」
そう言うと、蛇は象徴武具や、神威の台座で海の神と、その半身である地の化身の力を回復させて欲しいと訴えてきた。
「それは──個人的にはそうしたいのですが、後者の使用には神結晶が必要ですし──どちらにしても、管理局の方に聞かないと、俺の力だけでは、どうにも出来ません」
なるほど、と蛇は言い、では管理局に力が回復した暁には、こちらの大地から転移門を作り、別の大地への扉を開く事に協力すると伝えてくれないか。と言ってきたのである。
「そうか、海のある大地から転移門を開けば……もしかすると、南の海の女神を見つける事も可能になるかもしれないですね」
安請け合いは出来ないが、明日、管理局へ行くので──その時に、あなたの訴えを伝えましょうと返事をした。
「うむ、頼んだぞ……それと、大地の移動が順調に行えている。間もなく虚無の間隙を抜けて、そちらの大地の近くに出るはずだ。直接会えるのを愉しみにしていよう……まあ、お前とは、すでに会っているとも言えるが」
あの時の事、感謝する。この身を救ってくれた事、決して忘れぬ──蛇は心底愉しそうな、穏やかな少年の声でそう告げると、声も、視界も遠ざかって、俺は微睡みの中へと引き戻された。




