神威の台座、吊り橋の建造
完成した台座を納める木箱を作る作業は、徒弟の二人に任せる事にして、俺は台座の仕上げに入る。
せっかく休日にしたというのに、二人の弟子達は、断りもせずに二つ返事で、その作業に取り掛かった。
台座に細かな象徴的装飾を彫り込み、粗を削り、磨く。
装飾の一部に取り付けた精霊結晶や宝石。それぞれの属性を司る神の力を表す、象徴を盛り込んだ台座。
四つの台座を磨き終えると、二人の弟子達は、箱を一つずつ完成させたので、残りは明日の夕方までに用意する事にして、夕食を宿舎で食べる事にした。
「まだ夕食には少し早いから、俺も何か料理を作ってやろう」
そう宣言し、台座と箱を保管庫の中にしまい、鍛冶屋の扉を閉めて宿舎へと向かう。
宿舎の庭では、エウラにカムイ、カーリアやメイが訓練をしていた。
カーリアは、メイから基本的な格闘の技術を学んでいるらしい。
カーリアの一撃に頼る動きは、攻撃が当たる敵には有効だが、躱された場合に、それを補う動きが出来ないのだ。
今はそうした欠点を補うべく、防御や反撃の基礎を学んでいた。
初めて彼女が宿舎に来た時の事を思い出す。
その時もメイに、ボロボロになるまで稽古を付けさせられたと聞いている。
旅団員達は変わらず、これからの冒険に対して真摯に取り組む姿勢を貫き通し、訓練に励んでいる訳だ。
全ては己と、それを支える仲間達、延いてはフォロスハートの為に。
冒険を辞めた俺も、彼らと気持ちは一緒だ。だからこそ、海のある大地を手に入れられるというのは、あまり表だって喜びを露にはしていないが、フォロスハートの住人にとって、大きな始まりの一歩になる。
「大地が繋げられれば、その日は記念日になるでしょうね」
リトキスが言っていた事を思い出す。
祭りが行われるかもしれない。
物資の少ない窮状を脱した記念日に、その事を喜ぶ祭り。
管理局内でも大童だった。
フォロスハートに海のある大地が接合される──これが大事にならない訳が無い。
新たな大地と、新たな神を迎え入れる。
凄い事が起ころうとしているのだ。
誰もが、その瞬間を心待ちにしている。
わくわくとした、気持ちを揺さぶる高揚感を隠しながら。
調理場に来ると、リトキスとレンネル、エアネルの三人が調理を始めるところだった。
「おう、すまないが、二人増える事になった。俺も協力するから、よろしく頼む」
察しの良いリトキスは「お弟子さん達ですか」と尋ねてきたので「そうだ」と応える。
塩漬けにした跳躍大鰐の肉を取り出し、適当な大きさに切った物を、玉葱や馬鈴薯と一緒に炒め、味付けした料理。
後は蒸した芋を潰した物に、大鰐の肉と玉葱を微塵切りにした物を混ぜ込み、平たく──小判型にした物に、小麦粉や卵、パン粉を衣にして油で揚げる。
「おいしそう」
いつの間にか、すぐ側にメイとユナが立っていた。
「おう、カーリアの訓練はどうだった?」
少女は少し考えると「前よりは、ぜんぜん良くなったよ」と言って、揚げ立てのコロッケを摘み食いしようとする。
「くぉらぁっ、──食堂に行ってろ。しっしっ」
メイを追っ払うと、ユナが彼女の腕を引っ張って食堂へ連れて行く。
その日の夕食。
食卓に集まった仲間達。
食後に出された蜂蜜漬けの、小さな柑橘類の実。
甘酸っぱい。
明日の予定──というか、数日の予定が話し合われた。
「それでは『西海の大地』が接合される次の日まで、冒険は休みと致しましょう」
レーチェが告げ、皆が、それぞれの言葉で返事を返す。
これはうちの旅団に限った話では無さそうだ。
今日の夕刻前には、管理局から一斉に「新たな大地を接合する」話しが成され、掲示板にその事が貼り出されると、街中が大地の接合に向けて、記念すべき日を見届けようと、フォロスハートの西側──ウンディードのある方角──の、その外周区へ集まりそうな活気に溢れていたらしい。
「とは言っても、全員で押し掛ける訳にもいかんだろ」
もうすでに管理局によって道は統制され、吊り橋を建造する為の資材や、人員が優先的に外周区へ向かったようだ。
「もう、半分以上建造が進んでいるらしいですよ。半日で資材を組み上げて、持ち運んで行き、外周区で主な物を組み立てているらしいですね」
そうアディーディンクが言う。
俺の提供した鉄線綱(鋼索)も、多くの錬金鍛冶師の協力を取り付けて、全体の七割以上が完成しているとか。
「それは凄いな。もしかして、ミスラン以外の錬金鍛冶師にも協力させているのか?」
「ええ、他の四都市の管理局が主導して、全錬金鍛冶師に、作業に当たらせているそうです」
それは……管理局も本気の本気。
全力で、この事業に力を注いでいるのだ。
二日後には、と言っていたが、彼らは一日で吊り橋を開通させる気でいるらしい。
まあ、それほど長い吊り橋では無い。大勢の人員が力を合わせれば、成し遂げられるだろう。
俺とケベルとサリエは、神結晶の増幅装置である「神威の台座」を納める箱を作る為、鍛冶場に戻る事になった。
明日の早朝に各都市へ台座を送れるように、という気持ちになったのだ。
多くの錬金鍛冶師達が、吊り橋造りに参加しているのに、俺達だけ──のんびりしている訳にはいかない。
「今日中に作ってしまおう」
俺も鍛冶場に着くと、用意された木の板に、装飾を彫り始めた。
柑橘類は「金柑」様な物を想像──変な色をしてたりして(笑)




