賢者との顔合わせ
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メリッサの隣に座らされた俺は、資料に目を通しながら、賢者達がやって来るのを待つ。
資料には「海の中の島」を以降、「西海の大地」と呼び名が変更される事が決まった、と書かれていた。
西の海を治めていたという神エウシュアットアと、エウシュマージアの事も周知させるという。
これからは、この大地は「冒険先」では無く、漁獲を行う為の水産業の場として管理されるのだ。
──もっとも、この時は、そう考えられていた。というだけの事なのだが──
大地の移動に関しては、もうすでに神々が始めているらしい。
四大神と海の神の間で交信を行い、こうしている今も、西海の大地をフォロスハートに引き寄せている最中なのだ。
それは、真っ暗な混沌の中を、見えない綱で引っ張っている、あるいは船を漕いで移動させる様なものだろう。
神の作業は分からないが、大地が接近しても、ぶつかる様な事は起こさないと、神々は請け負ったそうだ。
二つの大地に張られた結界を結び付ける事で、それ以上離れたり、近づいたりする事の無いようにする。──もちろん多少は動くだろうが、間に架ける吊り橋が壊れるような離れ方や、接近をする事は無いだろう。
そんな事を考えながら資料を読んでいると、部屋の奥にある扉から、三人の老人がお付きの者を従えて会議室に入って来た。
いや、一人は老人と言うよりは──いくらか若い、初老という見た目の男だ。
その身体は骨太で、筋骨逞しい体格を青い上着と外套で覆っているが、以前は冒険者や兵士をしていたのではないかと窺わせた。
もう一人は、真っ白な長い髭を蓄えた──か細い身体の、見るからにヨボヨボの老人だった。
彼らは向かいのテーブル席へ腰掛けると、まずは初老の男が、遅れた事を詫びた。
「すまない、待たせただろう。なにしろ年を取ると、頻繁に流れ出て行ってしまうものなのだ」
唐突な言葉に、俺達は言葉を発する事も無く、じっと三人の賢者を交互に見つめていた。
「何を言う。儂は垂れ流してなどおらん」
白髭の賢者が見た目とは違った、力強い口調で反論する。
「いえ、『垂れ流している』とは言っていませんが」
すると二人のやり取りを見かねた、もう一人の賢者が「もういい」と彼らを諌めた。
「さて、本題に入ろうか。吊り橋の建造についてだったな。──神々の言葉によると、互いの大地が接触するのは二日ほど後だという事だが、転移門を使って今日にでも、向こうの大地にも資材を運び込む作業を始めるべきだろう」
そこで、何か意見はあるか? という風に、こちらを見る三人の賢者達。
「こちらの錬金鍛冶師オーディスワイアが持って来た物があります。こちらをご覧下さい」
メリッサはそう言うと、俺の持って来た紙を三賢者の方に持って行くよう、控えていた職員に指示を出す。
「ほう、なるほど。硬い金属の縄という訳か、さすがだな。ここ最近、何度かオーディスワイアの名は聞いているが、……私がその名を初めて聞いたのは、確か『金色狼の三勇士』という肩書きであったと記憶しているが。──相違ないか?」
三人の中でも一番若い、初老の男がそう尋ねてきた。
「ええ──そうです。脚を負傷した為、もう冒険には出ず、今は錬金鍛冶師の仕事に専念していますが」
そう応えると、彼は何か思うところがあったのだろうか、少し沈思した後で「そうか」とだけ答える。
「しかし、この紙に書かれている様に、錬金容器とやらに溶かした金属を流し続けて、一本の長い鉄線を作り出すのは難しいのではないか? 金属を流し込む作業を一定の量と速度で行わなくてならない」
そう反論したのは、先ほど他の二人を諌めた老人で、この男はなかなか気難しそうな顔をしている。──一言で言えば、偏屈さが顔に滲み出ている類型の老人だ。
「それは、漏斗を使う事で可能だと考えます。漏斗の上に長い筒状の容器を乗せ、その中に溶けた金属を流し、一定の速度で決まった分量だけが流れ続ける様にすれば、後は、溶けた金属を容器に足して行くだけですから。
──失礼、錬金術師にとって普段から使っている道具の事なので、敢えて資料に書くのを省いてしまいました」
そう言うと、偏屈そうな老人は、一瞬むっとした表情を見せたが、大人しく頷いて、むっつりと口を閉ざす。
「なるほど。では、麻を使った縄を作るよう指示を出すのを撤回し、錬金鍛冶屋に、この鉄線と綱を作る作業を手配しよう」
初老の賢者は紙にスラスラと指示を書き込むと、判を押し、側に控えていた職員に、俺の書いた紙と一緒に手渡す。
「この紙に書かれた内容の物を、『新技術』として登録し、報酬を渡す事を約束しよう」
彼はそう言うと、他のいくつかの案件について、主に管理局職員らと話し合う。
漏斗は口の狭い容器に液体を移し替える道具ですね。念の為。
「西海の大地」はこの先、いくつか展開があるのですが──(伏線)物語的には大きな内容にはならない物ですので、お気になさらず(笑)。




