管理局での会議に参加
朝、目が覚めた。
やはり、じっとりと胸元が蒸れているのを感じる。
ライムの顔が目の前にある。いつも、この猫は俺の上で眠ると、こうして胸の上に居座って目を閉じるのだ。
それにしても夢──精神世界での出来事が、凄く生々しく記憶に残っていた。
風の神ラホルスの言葉は、だいたいこんなものだった。
*****
──神結晶の台座を作るのに必要な神結晶を、ウル=オギトも送ると言っていた。私からも送るが、神結晶の台座を一つ一つ設置するのでは無く、一遍に四箇所の結界柱に設置するのがいいだろう。また以前の様に、一つの神の力だけが大きくなり過ぎて、暴走したりさせない為だ──
*****
と──そして、風の神の最後の言葉は、辛辣なものだった。
「君達も神だと言うのなら、少しばかりの節度を持ってくれないか。見るに堪えない争いをするもんじゃない」
俺は風の神の配慮もあって、どうやら無事に、現実世界に戻って来れたようだ。
どうか、火と水が争って戦いを始めないようにと、祈る思いで目が覚めた。
「ほら、お前達も起きてくれ。暑くてかなわん」
ライムの頬の皮を両手で引っ張ると、歯を剥き出しにして笑った様に見える。
「ゥナァ──」
不機嫌そうな鳴き声を発した後、彼女は大きな欠伸をして、俺の上から降りると、床の上で伸びをする。
そうなのだ、子猫達の事を配慮して、床の上に毛布を敷き、その上で寝たのだが──若干、背中が痛い。
子猫達を一匹一匹、そうっと毛布の上に降ろしてやると、ライムが子猫達に寄り添ってやる。
やはり猫達も寒いのだろう。
俺は毛布を集めて、猫達の周りを囲むようにして包んでやると、霧吹きを持って小鉢植物園に水をやり、部屋を出る。──もちろん、ドアを半開きにしてだ。
その日の始まりは、そんな穏やかなものだったが、朝食を食べ終えて、仲間の今日の予定(全員休日を取る事に昨日決まった)を開き、訓練や買い物に行くなど、それぞれの行動をだいたい把握した頃、来客が来た。
「団長、管理局の人が来ています」
来客の対応に出たカムイが言うので、玄関に向かう。
「本日の正午前に、管理局の中央会議棟に来て下さい。是非、大地の接合について、お知恵を拝借したいとの通達です」
職員は紙を数枚差し出し、地図に場所が書いてあります、と丁寧に説明して去って行く。
「どういった用件でしたか?」
食堂から出て来たカムイやヴィナーに、そう尋ねられた俺は、「厄介事だ」返事をして、数枚の紙に目を通す。
そこには古い時代(世界が崩壊する前)の建築技術書から写された、「吊り橋」の作り方が書かれていた。
これに錬金鍛冶師として、応用する方法を探せというのだろう。
どうやら管理局の考えでは、二つの大地の間に架ける橋の長さは、十数メートルに満たない長さの物を想定しているらしい。
縄を使った吊り橋を作る考えで、すぐにでも工場での縄の大量生産を開始すると書かれている。
これについては一つ、違った答えを用意できそうだ。
その後、俺は管理局に向かい、目当ての会議棟へと向かった。
そこは大きな建物に囲まれた二階建ての建物で、周囲の建物の二階と通路で繋がった奇妙な作りをしている。
建物の白い壁には凝った装飾が施され、仰々しい雰囲気を持たせてある。──窓には硝子が填められ、外の明かりをふんだんに取り入れる作りになっていた。
建物に入ると、その先の広間に数名の職員が居て、俺は案内されるまま、二階の会議室へと連れて行かれた。
そこには長テーブルが向かい合うように置かれ、数名の若い職員やメリッサらが椅子に腰掛け、資料に目を通している。
「良く来てくれました、オーディスワイアさん」
彼女は俺が会議室に入って来たのを知ると、そう声を掛けてきて、長テーブルの上に置かれた一塊の資料を俺に渡してきた。
「間もなく七……五賢者の中の三名の方が来られるので、何か意見があれば──」
俺は首を横に振り、この短時間では、一つの案しか持って来られなかったと、一本の鉄線と、その鉄線を束ねて作った綱を見せる。
「これは?」
「見ての通り、金属製の紐と、それを束ねて作った縄だ。これを新技術として提案する。『鋼糸蚕』の糸よりも簡単に入手できるし、何より太く丈夫だ。これなら、普通の縄よりも長持ちするし、加重にも堪えられるだろう。錬成容器を使って作る方法は、ここに書いて来た」
そう言いながら紙を一枚、彼女に見せる。
「じゃ、後はよろしく」
そう言って立ち去ろうとする俺の袖を、ぐっと掴んで、彼女は声に力を込める。
「五賢者の方が来るので、あなたの、口から、説明して下さい……!」
「はい……」
俺は彼女の気迫に圧され、そう応えたのだった……




