神の力を高める二つ目の方法
「お疲れ様でした、オーディスワイア」
目覚めると──そこには、アリエイラが居た。
いや、反対側を見ると、そこにはミーナヴァルズの姿もある。
いつの間にか、精神世界に入り込んでいた。
……寝そべっている俺の身体の上──胸の上にライムが、お腹の方には子猫達が固まって眠っている。
相変わらず、眠ったまま目を覚まさない猫達。
ここ(上位精神世界)では、動物の精神──あるいは霊は、活動できないのだ。
今日のライムは、俺が無事に帰って来たのがよほど嬉しかったのか、ずっと俺の側に居ようとして来た。
風呂場に行く時も付いて来たし、風呂を上がると、戸口の前で子猫も一緒に俺が出て来るのを待っていた(何故か、メイも子猫の側に居た)ほどだ。
部屋にまで猫達は付いて来ると、メイに自分の部屋に戻るよう言いつけて、仕方なく俺は、部屋に猫達を入れて、横になる事にしたのだった。
「それにしても、今日のお前は──我々の期待を超えた成果を出して見せたな、さすがじゃ」
火の神はそう言うと、胸の上で寝ていたライムを摘み上げて、自分の膝の上に寝かせる。
俺が上半身を起こすと、腹の上に居た子猫達がコロコロと転がり、太股の上で眠りこけてしまう。
彼らを丁寧に並べて寝かしてやると、俺はアリエイラとミーナヴァルズを交互に見る。
いつもの様に火の神は露出の多い朱色の薄布を羽織り、水の神は青い色の上着やスカートを履いていた。
アリエイラは子猫の一匹をそっと抱き上げる。
青い毛の混じった子猫は、ぐっすりと眠ったまま女神の掌に収まって、微かに上下に動いて呼吸している。
「オーディスワイアよ」
唐突にミーナヴァルズが声を掛けてくる。
「あの台座──我らの力を封入した神結晶の力を引き上げた、あの台座と同じ様な物を、また作ってくれぬか」
「あの台座は今、ミスランの中央にある結界柱の元に置かれていますが、四つの都市にある結界柱にも、各都市を治める神の力を引き上げる、神結晶付きの台座を設置したいのです」
アリエイラが続きを言うとミーナヴァルズも、その後を続ける。
「そうして四つの都市に神結晶の台座を設置すれば、我らの力は増幅され、新たな転移門を開く力、また──他の大地を探索する力も広がるであろう、と言う訳じゃ」
なるほど、と納得しつつ、神結晶そのものの力を吸収するよりも効率が良いのかと尋ねた。
「そうですね。おそらく、二倍近い精霊力を得られると思います。──ただ、神結晶の力を増幅して吸収する台座を作っても、神結晶は吸収の度に失われてしまいますが」
四大神力珠の台座は、四つの力の安定を目指したが、一つ一つの属性力を引き上げる台座を作るのは──比較的簡単だ。
「分かりました。時間が空いた時に神結晶の力を研究してみます」
そう応えると、二柱の神は「よろしく頼む」と言って、小さな神結晶をいくつか送る事を約束する。
神結晶は冒険先で入手すると、全て管理局に買い取られ、集められているので、市内には出回らない。いわば神が、この大地を維持する為に使う活動力に変換されるのだ。
「海のある大地に転移門を使わずに行けるようになれば、その分、他の事に力を使えるからな。今回の件は実に大きな進展だ。──その為に、お前には大きな負担を掛ける事になったが」
火の神はそう言うと、すすっと身を寄せて来る。
「お前の気苦労を拭う為に、我の都に来るがいい。せいぜい持て成してやるぞ?」
そっと肩に手を置き、顔を近づける女神。
「ミーナヴァルズ」
警告を含んだ鋭い言葉が飛ぶ。
「それ以上オーディスワイア近づくのは止めなさい。あなたの体温で彼の肌が火傷してしまいます」
水の神アリエイラの言葉を鼻で笑う火の神ミーナヴァルズ。
「はっ、何を言うか。我の肌の温もりをオーディスワイアが愉しまなかった訳があるまい。火傷どころか、進んで我を強く抱き締めたものよ」
火の神の言葉に、周囲の温度が下がった気がした。
精神世界で物理的な現象が、どういった意味を持つのかは分からないが。
「そ、そうですか。──なるほど? あなたの奔放さはウンディードにまで鳴り響くくらいですから、多くの男と、その様な関係を迫ったのでしょうね?」
ピリつく空気。──しんと静まり返った周囲に、猫達の寝息だけが、静かに響く。
不意に、鳥の羽音が聞こえ、青と緑色の羽を持つ鳥が近くの地面に降り立った。
「おやおや、これはこれは、水の神さまに火の神さま。おひさしぶりでございます。ええ」
鳥は何度も頭を大きく縦に振り、身体も大きく上下に揺らす。
「ふたはしらの神さまを前に、しつれいします──わたくしのあるじが、そちらの──ええと、そう。オーディスワイアに伝えたいことがあるというので、ええ。わたくし、その言葉を持ってまいりました」
鳥は一呼吸置くと、呆然とする二柱の神を置いて、風の神ラホルスの言葉を一気に喋ったのであった……




