地の化身エウシュマージア
盾を構えたレーチェや、防御姿勢を取ったリーファが前に飛び出して、赤黒い光の玉を受け止めようとする。
「だめっ!」
水の神アリエイラの声が聞こえた。
その瞬間、アディーの持っていた台座から光が飛び出し、俺達の周りを障壁で護る風の神ラホルスと、水の神アリエイラの幻影が現れたのだ。
赤黒い光の玉が爆発し、大きな音と共に周辺の地面をえぐる。
地面に落ちていた石が砕け、地面の一部が煙りを上げて溶け出していた。
見た事の無い魔法、見た事の無い力。
弱ってきているとはいえ、相手は神なのだと、改めて思い直す。
「これは……俺達の安全の為にも、早々に決着を付けるべきだな」
リゼミラにそう訴えると、女戦士は大きく頷く。
「わかった、私が連撃を使って気を引こう。その間に、あんたは背中のあれを」
今度は俺が頷く。
互いの意志が決まると、俺とリゼミラの二人で、半人半蛇の魔物と化した神、エウシュマージアへ駆け出して行く。
二本の剣を胸の前で十字に構えると、リゼミラは瞬迅を使って左右に素早く移動しながら、敵に近づいて行く。
左右に素早い動きで移動する相手に翻弄され、エウシュマージアもズルズルと後退しながら、警戒した様子で防御の構えを取る。
攻撃に移ったリゼミラの、鋭い多段攻撃を剣で受け止めながら、防戦一方になる魔物。
この好機を逃がさない。
俺は全身に溜めた気を纏い、瞬迅で前に駆け出すと、二歩で相手の間合いに近づき、そこから跳んで背中の水晶めがけて剣を振り下ろす。
剣に流れ込む気を破砕の力に変えて放つ一撃。
大剣から重い斬撃と共に、打ち砕く重い衝撃が放たれる。
金属音と、硝子が砕け散った様な音が辺りに響き渡った。
水晶を砕かれた混沌の化け物が動きを止めた一瞬を狙って、リゼミラの連撃が相手の剣を二本とも弾き飛ばす。
「ゴァアぁあぁァッ‼」
がっくりと、その場に前のめりになって倒れ、両手で地面を掴むエウシュマージア。
俺は背中側から移動して、灰色の顔を持つ神の様子を窺った。
『よ、よく。止めてくれた……だ、だが。最早、私の力は……奪われつつある──い、いまなら、まだ……地の力を……エウシュアットアに、戻すことが……できる、だろゥ……は、はやく……わたシヲ、たおすノダ……』
ボロボロと、身体の表面が崩れ落ちていく──しかし、背中に残った水晶が、再び暗い光を周囲から取り込み始めると、その崩壊が徐々に治まり始める。
どうやら混沌は、まだこの神を利用しようと考えているらしい。
「オーディス、あんたがやらないなら、あたしが……」
前に進み出ようとするリゼミラを押さえ、俺は懐から一つの結晶を取り出した。
仄かに薄い青色の混じる、透明な結晶。
「あなたは混沌の侵蝕に堪え、何とか神の力だけは守り抜いたのだろう。そんなあなたを、ただ打ち倒す様な真似を──俺は選びたくない。だから、この力に賭けようと思う」
俺は大剣を地面に突き立てると、透明な結晶を上に放り投げて、身体の気を一点に集中する。
青い光を透す結晶が、エウシュマージアの身体に重なる瞬間を狙って、掌を突き出し、結晶を通して気を撃ち出す。
結晶を通した気の爆発と衝撃が、青い光を発して、灰色と黒に滲んだエウシュマージアの身体と、混沌の力が集まりつつあった混沌の水晶を打ち砕き、消し去る。
崩れ去り、塵と化す半人半蛇体の中から──丸い、黄色に輝く宝石の様な宝珠が現れた。
それは空中に浮かび、神秘的な発光を放ってフワフワと浮いている。
「おお、この気配は……! エウシュマージア。無事であったか……!」
後方の空から声が聞こえてくる。
上空に浮かぶ水の中から、大きな青い蟹が現れた。
俺は宙に浮かぶ宝珠を手に取ると、エウシュアットアの元へと運ぶ。
「いったい、どうやって……」
神が、俺に疑問を問い掛けようとした時、辺りの様子が変わり始めた。
「──今は、ここを出よう。この領域を支えていた混沌が消え去って行くようだ」
俺やリゼミラ、レーチェ達は、大きな蟹の脚に触れると、足元から湧き出した水に持ち上げられて、どんどん縦穴を上って行った。
下の方を見ると、混沌領域が崩落を始め、見る間に黒い渦の中に飲み込まれて行き、その黒い渦すらも完全な黒い闇へと変わり、跡形も無く混沌は消失してしまったのだ。
「いったい、あの結晶は?」
エウシュアットアに海底神殿まで連れ戻された俺達。
リゼミラが結晶の事を尋ねてきた。
「あれは『混沌吸着結晶』と『霊晶石』を錬成して作り出した結晶だ。霊晶石は、魔法の剣に『対混沌攻撃力』を付与する時に使うと、成功率を上げる事からも、混沌から発生した物と精霊力融和も可能にする──いわば、均衡を齎す性質がある。それに、霊晶石は気とも調和する事から──」
俺が、そこまで話すとリゼミラが言った。
「うん。さっぱりわからん」
断言した女戦士の言葉に、一瞬、静寂が訪れ──皆が一斉に笑い出す。
「なにはともあれ、皆、無事で良かった」
四大神力珠の台座から、アリエイラが幻影の姿で現れると、俺達の苦労を労ってくれた。
「よくやった、さすがは私の見込んだ戦士達だ」
地の神ウル=オギトもそう言って手放しに喜ぶ。火の神と風の神も頷きながら見守っている。
「オーディスワイアと言ったか、お主には感謝せねば。力だけでも取り戻せればと思っていたエウシュマージアを、こうして取り戻せるとは思わなかった」
エウシュアットアの話によると、宝珠の中には、自分から分離した後に生まれた、エウシュマージアとしての存在が眠りに就いているらしい。
今は、海の神の中に戻って眠りに就き、地の神としての力は、エウシュアットアが引き継いでいるが、いつかエウシュマージアが復活したら、地の神として、また海の大地を共に守ると言う。
なにはともあれ、混沌の脅威は去り、「海の中の島」は混沌の侵略の魔の手から逃れる事が出来たのだ──
エウシュアットアとエウシュマージアは元々一つの神様なので、こんな内容です。
意味があるからそうなのですが、物語的には関係ありません(笑)




