混沌の攻撃
リゼミラの攻撃を受けた大蛇──エウシュマージアの頭部が、ブスブスと音を立てて燻り続けている。下顎を左右に割った口から、ボロボロと牙や──崩れた身体の一部が落下する。
地面に落ちた肉は石と化していた。
崩れ落ちる大蛇の身体。
しかし、首の後ろに刺さった水晶に、周囲の鈍い光が集まると、その崩壊が治まった。
リゼミラは、よろつきながらもリーファと共にレーチェを引きずって後退させ、脚や肩に突き刺さった灰色の牙を引き抜き、アディーに回復させる。
「くぅうぅぅっ……!」
傷口は塞がるが、痛みはまだ残っているらしい。四大神力珠の台座から幻影となって現れた水の神アリエイラが、彼女の中の混沌の影響を取り除く。
アリエイラの力で混沌の毒が中和され、レーチェは何とか立ち上がった。
「ありがとうございます、女神アリエイラ様」
レーチェの言葉に黙って頷くと、女神は台座の中へと戻って行く。
大蛇は崩壊した身体を修復し始める。──しかし、その姿は、先ほどの大きな腕を生やした大蛇では無く、蛇の胴体から、人間の上半身を生やした──半人半蛇の怪物へと変わっていた。
「だいぶ縮んだみたいだね」
アディーから魔力回復薬を貰って飲んでいるリゼミラが言う。
「そのようだな……もう、無茶はするなよ」
崩壊を起こした大蛇の身体は、大きさからすると、半分近くにまで小さくなっていた。人間の頭部や上半身は、俺達と変わらぬ大きさの物になっていた。
「グルるラァアァぁあァッ‼」
灰色の肌をした人間の口から叫び声が響く。
その手に暗く光る──紫色の魔力を集めると、緩やかに曲がった片刃の剣を二本、両手に生成し、ゆっくりとした動きでこちらに近づいて来る。
「ゴワぁあァアぁァッ!」
開かれた口から恐ろしい咆哮を放つ大蛇──地の化身エウシュマージア。
蛇の下半身を左右に振りながら、ズルズルと地面を這っている。
「まずは、俺にやらせてもらおうか」
大剣を構えると、負傷したレーチェとリゼミラをアディーとリーファに任せ、エウラに四人の護衛を頼む。
威圧的な気配を漂わせながら、半人半蛇の化け物は、二本の剣を振り回して襲い掛かって来た。
金属音が鳴り響く。
振るってきた剣を大剣で弾き返すと、思わぬ反撃を受けた、とでも言うみたいに蛇の下半身がズルズルと後退し、金色の眼を見開いた無表情の顔で、こちらをじっと見つめる。
素早い剣の振りだが、攻撃に重さが無い。腕の力だけで振っている──まるで、でんでん太鼓の様に。そんな程度の攻撃だけなら、なんとかなりそうだ。
後退した敵に一歩踏み出しながら、後方から振り下ろした剣の一撃で、相手の剣を叩き折ってやった。
不用意に受け止めようとした剣の腹を断ち切り、その勢いのまま半歩進み出ると、今度は突きをお見舞いする。
エウシュマージアは身体を回転させて突きを躱すと、その遠心力のまま、斬り掛かって来た。
鋭い一撃だったが何とか避けて、こちらも回転しながら剣に気を纏わせ、「破砕撃」を相手の身体に叩き込む──
「なにっ⁉」
なんと、折れた剣をこちらの大剣に突き出し、爆発を地面に向けて暴発させたのだ。
爆発が蛇の身体の横で起き、地面をえぐると、周囲に土煙と小石を飛び散らせる。
「シャァアァァ──ッ!」
人型の口から威嚇の吐息が漏れる。
毒気を持った息吹。
それを避け、蛇から離れながら横へ、横へと回り込む。
人間の上半身を持つ背中には、暗い色に光る水晶が刺さり、大蛇の背中にあった時とは違う、赤色を含んだ発光を放っていた。──その変化に、どんな意味があるかは分からないが。
尻尾で殴りつけて来る瞬間を見計らい、前に進んで背中に回り込み、水晶を攻撃しようとしたが、身体を反転させて躱しながら、剣を振り下ろして攻撃してくる。
折れた剣を放り捨てると、新たに一本の剣を生成し、迫って来た。
正面に立つと、互いの連続攻撃が空を斬り、小さな傷を互いの身体に刻み込む。
「あたしらも加勢するぞ!」
リゼミラとエウラが前線に加わる。
三人に取り囲まれた怪物は、手にした二本の剣と尻尾で応戦していたが、劣勢に立たされると、さっと間合いを離して、魔法への集中を始める。
「まずいっ……! 止めろ!」
一斉に襲い掛かったが、相手の魔法の始動が早く、黒い波動を撃ち出す攻撃を喰らって、後方に吹き飛ばされてしまった。
回復したレーチェとリーファも、戦いに加わろうとしていた矢先に、衝撃波で後退させられる。
威力はそれほどでも無いが、身体を締め付ける様な痛みが残り、力が入らない──
「『聖霊の祝福』!」
アディーが瞬時に俺達の状態を見抜いて、状態回復魔法を使う。
混沌の侵蝕が取り除かれると、リゼミラとエウラが同時に攻撃に移り、半人半蛇の胴体と腕に傷を負わせた。
ところが、さらに敵は魔法への集中を行っていたらしい。背中の水晶が赤と紫の光を放つと、二本の剣を地面に突き刺したエウシュマージアが両手を突き上げ、その手の先に赤黒い光の塊を発生させて、それを俺達に向かって撃ち出して来たのだ。
オーディスワイアが魔法剣を使った描写を「破砕撃」に変更しました。
オーディスワイアの剣は魔法の剣では無いので、魔法剣は使えないのを失念していました……;
誤字報告ありがとうございます。
「よろめく」は「よろつく」よりも正しい読みなのかもしれないと思いつつ、俗的な響きの「よろつく」を採用する事にしました。──しかし、再度検討してみたいと思います。




