混沌に蝕まれし神
混沌領域の不気味さをけと思ったら、上手く表現できん! 力不足ですみません……
暗い穴の中に飛び込んだ俺や、リゼミラに、レーチェら六人。
その背後から神々の幻影が付いて来て、アディーの手にする四大神力珠が収まった台座に、光となって溶け込むのが見えた。
ゆっくりとした落下速度。
落下傘で敵地に降りて行く空挺部隊の心境だ。
その先に居るのは──恐るべき敵。
海の神の半身であり、地の力を司る化身。
今は、混沌に侵され、正気を失った魔物と化している。
俺達は、神の力も借りて、その荒ぶる神を鎮めに行くのだ。
失敗など考えていない。──全力を尽くして戦いに勝つ。
それだけだ。
冒険者時代の覚悟であり、錬金鍛冶師としての心得でもある。
この訓戒を心に刻んで物事に臨むのだ。そうすれば、躊躇い迷う事は無い。
闇に包まれた縦穴の底が見えてきた。
頭上を振り返れば、そこには水が押し寄せて来ていた。それは落下せずに、さざ波を打ちながらゆっくりと、こちらの落下に合わせて付いて来ている。
この水が、混沌の侵蝕から、海のある大地を守っていたのだろう。
あの大蟹──エウシュアットアが守り抜いた世界。
誰の為でも無く、孤独の中で堪え忍んでいた神。いつかは人間や、他の神と出会える事を信じて、あの大地を守っていたのではないだろうか。
そう考えると俺は、あの神様の分も背負って戦う覚悟を持った。
例え片脚が義足であっても、俺にはやらなければならない事がある。
フォロスハートに、新しい命の息吹を齎す為に──必ず、成し遂げてみせる。俺は暗闇の底に着地すると、そう心に誓った。
暗い、暗い──闇の底は、どんよりとした鈍い光に包まれていた……薄暗い世界。黒の中に流れる紫や赤の発光。
人の気持ちを不安に蝕む、気味の悪い配色の空間。
その先に──黒い渦がある。
「あれか」
リゼミラが二本の剣を抜く。
長年連れ添った冒険者の一人として、俺には感じられるのだ。
この女戦士は、かつて無いほどに──闘志をその身に、その魂に漲らせている。
ビリビリと、空気を伝播しそうな気迫。
こちらもその気迫に圧倒され──そして、鼓舞されている。
「やるか」
俺も背負った大剣を構えながら、リゼミラの気迫に呼応する。
仲間達も次々に武器を構え、進むべき道の無い闇の中に蠢く──大きな渦に向かって歩き出す。
空中に渦を巻く暗黒がある。
それは黒い雲、または噴煙だ。
その渦の中央に、何かが居る。
それはぐるぐると円を描いて、目を開く。
大きな蛇だ。
ただし、開いた目は、蛇の物では無い。
蛇の頭部に人の顔らしき物があり、その目が開いたのだ。
金色に輝く眼。
大きな蛇が、ガタガタ、ゴロゴロと騒音を撒き散らしながら、渦の中からこちらに向かって進んで来る。
蛇の頭部にある人の顔らしき物が目を閉ざし、代わりに蛇の大きな赤い眼が開けられた。
「ギョワァぁあァアぁ……」
大気を震わす奇怪な叫び声を上げる大きな黒い蛇。体中の鱗が紫色に不気味に光る。
鱗の間から赤や青い暗い光が覗き見えた。
周囲の闇を取り込みながら、ズルズルと滑り、こちらへ向かって来たそれは、六人の前で立ち上がると──首の部分から棘の付いた触手を数本出し、大きく口を開いて襲い掛かって来たのだ。
全身から棘を生やし、固い鱗で身を守る不気味な大蛇。それは、かつて海の神の力の一部であった地の化身。
大地を蝕む存在と成り果てた、穢れた存在となっていた。
こちらには「対混沌攻撃力」と──切り札になるかもしれない物がある。
俺は、それを懐に忍ばせている。
「だが──まずは、全力で混沌の侵蝕を叩いてやろう」
俺とリゼミラは仲間達よりも先に前に進み出ると、地の化身に立ち向かって行った。




