決戦前の覚悟
前話に書き忘れていた「象徴武具の作製」に関する部分を書き足しておきました。
──申し訳ありません。
『準備は整った様じゃな?』
頭の中に女神の声が聞こえる。
「はい」
俺は仲間達の武器を手にして、そう答えた。
目を閉じるよう言われた言われた俺は、女神の言葉に従って目を閉じる。
一瞬、身体が落下した様な感覚になったが、すぐに足が地面を踏み締めた。
「目を開けて良いぞ」
女神の声が、目の前から聞こえてくる。
そこは、白い壁に囲まれた場所。──様々な色の珊瑚が淡い光を発している奇妙な場所。
白くぼんやりと光る女神の幻影の背後を見ると──仲間達が集まって、なにやら相談をしていた。
「待たせたな」
俺が声を掛けると、武装した俺の姿を見て、レーチェやリゼミラがこくりと頷く。
「あら、その足……」
目敏く足の変化に気づいたレーチェ。
「ああ、ちょうど、新しい義足を作り終えたところだったんだ。多少の運動性能の向上を図ったくらいだが。前の物よりは、動き易くなっていると思う」
俺の言葉にリゼミラが「それはいい」と口にする。
「また一緒に冒険が出来るね」
「いやいや──俺はもう、冒険に対する情熱とかは昔ほど無いな。厳しい戦いを繰り返す気力も無いよ」
そう応えた俺に、リゼミラは「じじ臭い……」と呟く。
「何とでも言え」
俺はばっさりと切り捨てた。
仲間達の背後に、大きな灰色の岩の塊がある。荘厳な雰囲気の中にある、異質な巨岩。
「あの岩が、ここの神様ですよ」とアディーディンクが耳打ちする。
俺は「へえ」と返事しながら、リゼミラやレーチェ達に武器を手渡して行く。
「対混沌攻撃力は付与してある。それと──これも持っていろ」
俺は物入れから、透明な小さい結晶の塊を取り出して、全員に持たせた。
「うちの徒弟に錬成させたんだが、強力な攻撃を喰らっても、その結晶が身代わりになって損害を引き受ける護符だ。念の為に持っていろ」
俺達は相談の結果、アディーが全員の防御や回復を担当し、その他の五人でエウシュマージアを攻撃する事になった。
短時間で決着を着けないと、エウシュアットアに使った象徴武具の効果を、双神であるエウシュマージアも受ける事になる。
これから向かう混沌の領域は、こちらとは時間の隔たりがある為、少しの猶予があるらしい。
「まずは、エウシュアットア様の力を回復し、異界──混沌への入り口を開いてもらいます。その後、僕が皆に攻撃強化、防御強化、魔法障壁などの補助魔法を掛けます。後は異界へ向かい、混沌に侵蝕された神を──弱らせるだけです」
アディーはそう言ったが、神を相手にする畏怖の様な想いがあるのは明らかだった。
レーチェやリーファにも同様の様子が見られる。
エウラは落ち着いた表情で立っているが、魔剣の柄を握り締め、武者震いを抑え込んでいるみたいだった。
──リゼミラは、むしろワクワクしている様な、そんな前向きな感じさえ出し、二本の剣を手にして、これから臨む戦いへ闘志を滾らせているみたいだった。
「みんな、聞いてくれ。──混沌に侵蝕されているとはいえ、神を相手にするのは気が引けるし、恐ろしいと感じているだろうが。ここでやらなければ、俺達は、せっかくの海を失う事になる。それは何としても阻止しなければ。……全員、覚悟を決めてくれ」
俺は皆にそう呼び掛けて、一人一人の目を見る。
「大丈夫じゃ、我等も力を貸すからな。お前達だけに無理をさせるつもりは無い」
火の神ミーナヴァルズが言うと、彼女の横に居る、鳥の頭を持った法服を着た風の神が頷く。
「そう。今回の問題は、人間だけの問題じゃない。神と、その大地を生かし続ける為の戦いになる。私達も力を尽くして、君達を守ろう」
大きな巨人の幻影が、胡座をかいた格好で言った。
「戦士達に勝利の気運を」
水の神アリエイラ──彼女は、水色の仮面付けた幻影の姿で静かに立ち、皆を見回すと、はっきりとした声で言葉を紡ぐ。
「大丈夫です、私達はあなた方と共に。……混沌を打ち破りに行きましょう」
俺は女神達から求められ、手にした神貴鉄鋼の杖を振り翳す。水の神アリエイラも力を貸してくれて、海を司る神エウシュアットアの力を増幅させる──
光が杖から放たれると、周囲の珊瑚に共鳴するみたいに光が束ねられ、その暖かな光が神殿の中央にあった大岩に集まって行く。
力を取り戻した海の神が立ち上がり、身体の表面を覆う岩を打ち砕き、灰色の石の塊の下から、水色や蒼い色に輝く美しい甲殻が現れた。
表面に艶やかな光沢を持つ大きな蒼い蟹が、その場を退いて、座り込んでいた床の黒い穴に螯を突き立てる。
「さあ、行け。戦士達よ。私が異界への入り口を開き、侵蝕を抑え込んでいるうちに、我が半身を──倒してやってくれ」
アディーは神の言葉を聞くと、全員に複数の魔法を一気に掛けて強化する。
さらに四柱の神が俺達六人に、それぞれの力で守る障壁を張り、アディーに「四大神力珠台座」を持たせて──俺達は異界の中へ向かって飛び込んだ。
身代わりになって損害を引き受ける「錬成品」から「護符」に変更しました。形は結晶に近いので、そのままです。




