混沌を倒す為に
臨床心理学でも、古い記憶や、子供時代の感情や(楽しかった)記憶などを呼び覚ます事で、より良い精神状態を取り戻したりする事があるそうです。
まあ、そんな感じなのかな、ここでのオーディスワイアさんの感情は。
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ミーナヴァルズから「海の中の島」を管理している神の力や、特徴を聞いた俺は、その水の力と地の力に分けられた双神の、片方の力を増幅させる象徴武具を造る作業に入る。
炉の前に腰掛けると──用意した神貴鉄鋼を溶かす。
ケベルが手伝いを訴えて来たが、今回の作業は象徴武具の作製なので、一人で取り組む事が求められる作業内容なのだと断った。
「急いで造らないと」
俺は少し焦っていた。
幸いというか、神貴鉄鋼は不純物も少なく、武器として使う訳でも無いので、鍛えあげる必要は無い。
その分、時間を短縮する事は可能だろう。
エウシュアットアは、蟹の姿をした神だという。
海を管理し、守護する神に力を与える──象徴を施した杖を造れと、女神ミーナヴァルズから言われた。
象徴的には水の紋様と水晶、青玉を使用して効果を高める。
魔力結晶と水の精霊結晶を溶かした金属に加えていく段になって、孤独な水の神の姿を思い浮かべる……
彼の神は、人を救いたかったと言っていたらしい。──だが、神の手の届く所には人は存在しなかったのだ。
人の力になろうとする神を、今度は俺が、俺達が──力になるのだ。絶対に混沌の手などに手渡しはしない。
俺は水の──海の神を司る神の力を増幅させる象徴杖を造り上げた。
水晶と青玉を杖の頂点に配し、波を表現した紋様などを杖に彫り込んで完成させた。この杖があれば、海の神の支えになるはず──
次は、仲間達の武器に「対混沌攻撃力」を付与する作業に入る。
鍛冶場の片隅にある錬成台は二台用意している。──徒弟達も作った武器や防具に錬成台を使って、初歩的な強化錬成を行っていたが、彼らに他の作業をしてもらう。
ケベルとサリエに、いくつか錬成して欲しい物があり──彼らには、それを作るよう指示を出す。
「悪い、急ぎの用が出来た。──しかも、錬成が終わったら、俺も冒険に出なきゃならんらしい」
唐突な言葉にケベルもサリエも首を傾げる。
来客があった訳でも無いのに、いったい誰から言われたのか、と思っているのだろう。
錬成台の横に置いてある作業台の上に、剣や手袋を置き、素材保管庫から素材──混沌鉄鋼や、混沌爪と牙も用意する──が。
「しまった……混沌鉄鋼が──ギリギリだな。どうするか……」
混沌鉄鋼が、もう残りわずかになっていた。
「ケベル。悪いが、管理局の『技術班』のある建物に行って、メリッサから混沌鉄鋼などを貰って来てくれるか。今……手紙を書く」
少年は「分かりました」と即答する。
簡単な手紙に「海の中の島」に居る神に危機的状況が迫っていて、それを退ける為に協力する事になり、素材が必要なので提供して欲しい、と書いておき、それをケベルに持たせた。
「では、よろしく頼む。俺は一度、宿舎に戻って、俺の武器と防具を取って来るわ」
鍛冶場の留守はサリエに任せ、すぐに行動に移る。
鍛冶場を出ると、ケベルは管理局の方に、俺は宿舎の方に早歩きで向かう。
まったく、急な依頼な上に、まさか俺が冒険──というか、戦いの場に駆り出される事のなろうとは……
「ああ、そういえば『混沌の巨獣』との戦いがあったな。くっそ、また混沌がらみとは……」
思い出すと、また苛ついてきた。あの痛み……パールラクーンの女神アヴロラに治療され、体内に入り込んだ混沌を除去する時に感じた、地獄の様な苦痛。
その怒りが湧くと、その感情を力に変え、奴らをぶっ叩く方へ気持ちを持って行く。
「俺様のスゴいやつを、脳天にぶち込んでやるんだぜ?」
生憎、俺の昔から使っている大剣は魔法の剣では無いが、気の力を増幅する「衝気増加」の効果が付与されている。
気の力を攻撃に使うように特化した武器なのだ。
対混沌攻撃力は、魔力とも気とも結び付けて攻撃する事が可能なので、奴らに目に物見せる──良い機会だと考える事にした。
宿舎に入り、玄関を開けて中へ入ると子猫達が、階段前の廊下に敷いた布の上で眠っているのが目に付いた。三匹とも身を寄せ合い、丸まっている。
自室に向かい、武器と防具を身に着けて部屋を出ると、食堂の方の通路から──ライムがトコトコと歩いて来るのが見えた。
「食堂の方には、あまり近づくなよ。悪さしたらレーチェにどやされるぞ」
そう言って靴を履こうとすると、ライムが俺の脚に身体を擦り付け、ズボンをくわえて引っ張り出す。
「おいおい、どうした? ……行くなって、言ってるのか?」
彼女の頭を、撫でるとライムは「ゥニャァ~~」と、不満そうな鳴き方をする。
「心配してくれてるのか、ありがとうな。でも行かなくては……仲間達だけに、危険な戦いをさせる訳にはいかないんだ」
俺が玄関を出ようとすると、彼女は付いて来てしまった。
「お──い、ライムは連れては行けないぞ。お前は子猫達を守ってやってくれ」
「ニィャァアァ──」
なんだか悲しげな鳴き方をして、俺の後を付いて来る。
仕方ないので、宿舎の玄関は少し開けておき、庭でライムを待たせる事にする。
「大丈夫。神様も俺達を守ってくれるんだ──心配するな。お前はそこで、俺達の帰りを待っていろ、いいな?」
そう言って敷地から出るまで、ライムはニャァニャァと鳴き声を上げ続けていた。
獣の勘が働いたのか? 俺は今回の冒険には、いつも以上に気を付けて臨もうと誓った。
ここで帰らぬ人となる訳にはいかない。
まだまだ俺には、やらなければならない事があるのだ。
鍛冶場に戻って来ると、まず仲間達の武器に「対混沌攻撃力」を付与する強化錬成を始める。
素材はギリギリ、失敗はしたくは無い。
慎重に──だが、急いで作業に掛からなければ……時間に猶予は無い。
俺は、一つ目の錬成に混沌の牙なども使って強化を施し、二つ目の錬成も問題なくやり遂げた。凄く集中してきている。
これから戦いに臨もうとしているせいか、感覚が……新鮮な感覚が蘇ってきた様に感じている。それはまるで、古い感情の殻が剥がれて、新しい活き活きとした感情に生まれ変わったみたいな感覚だった。
研ぎ澄まされた戦いへの感覚が、錬成に臨む俺の背中を押してくれている。──そんな風にも感じている。
次々に錬成を成功させていると、そこへケベルが帰って来た。
「早かったな」
「ええ、走って戻って来ました。管理局の──メリッサさんが、すぐに素材を手配してくれて──早く届けるように言ってくれたんです」
よし、と俺は応え、ケベルにも礼を言って、自分の武器にも対混沌攻撃力を付与する──
それらの作業が終わると、奥の部屋にそれらを運び、鍛冶場の奥の部屋で神──ミーナヴァルズに呼び掛ける事にした。
書き忘れていた「象徴武具作製」部分を冒頭に追加しました。




