転移門前で(ユナ・エアネル・カムイ視点)
転移門のある広場で「竜棲の広原と森」に行く私達の班と、「海の中の島」に向かう班は別れ、互いの冒険の成功と団員の無事を願い合った。
転移門を潜るのに、これほど緊張したのは生まれて初めての事だ。
私の「竜素材を使った杖や防具を手に入れたい」という発言をメイにしてしまった事から、急に話は進み──気づけば本当に竜を討伐しに出向いてしまっている。
大きな転移門の前には、昨日のうちにリトキスさんが手配していた、素材運搬用の荷車と、解体と運搬を行う「素材回収屋」と呼ばれる業者の人達が数名来ていた。
もちろん彼らは戦わない。
安全な場所から私達の活動を見守り、竜が倒されると、その死体から素材や肉を剥ぎ取って運ぶのだと言う。
……メイを見ると、彼女は凄くやる気に満ち溢れている感じで、首から紐で下げた銀の指輪──団長から貰った物だ──を下げている。これでも指輪の効果を得られるらしい。
「がんばろうね」とメイは言ってきた。
そうだ──これから竜を討伐し、私はまた、大きな成長の為の一歩を踏み出すんだ。
「うん。がんばろう」
私は精一杯強がって、答えて見せた。
正直に言うと、まだ恐怖の方が勝っている感じだ。
大きな転移門を前にすると、緊張で心臓が早鐘を打ち始める。
だめだめ、こんなんじゃ、──魔法の使用にも不手際が発生しかねない。
私は大きく深呼吸すると、覚悟を決めた。──そう心の中で呟いた。
仲間を守り、竜を討つ。
その事だけに意識を集中するの。
大丈夫、私なら出来る。強力な各属性の攻撃魔法も覚えた。仲間を補助する魔法もだ。
それに私には、強力な昇華錬成の腕輪がある。オーディスワイアさんが作ってくれた、最高の、究極の、錬成品。
私はもう、力の前に怯える事しか出来ない子供じゃない。大きな力に抗って、抵抗して、激しくやり返す事だって出来る。──その力がある。
仲間を守り、竜を狩る。
そうだ。この試練を乗り越えて、私は冒険者として大きく成長するんだ。
*****
ユナが緊張しているのが分かる。
ううん、──私だって緊張している。
もっと言えば、恐怖を感じているのだ。
さすがの弟も、今回の相手に対しては恐れを感じている様だ。
今はカムイと普段通りに話している。──冷静を装いながら、腰に付けている小物入れを確認したり、剣や盾を気にしたりしながら、何とか気持ちを落ち着けようとしている。
私の視線に気づいたレンが近づいて来た。
「いよいよだね、姉さん。──少し怖いな」
驚くほど素直に弟は認めた。
それはそうだ、巨大な竜を相手に戦いを挑もうとしているのに、いつも通りのスカした感じで来られたら、腹に拳を叩き込んでしまいそうだ。
「そうね。私も怖い」
槍を持つ手が震える。
でも、大丈夫。
戦いになれば、私もレンも、全力で相手を倒しに行く。その事に変わりは無い。
出来なければやられるだけ、その事を良く知っている。
「全員で無事に帰ろう。──もちろん、竜を倒してね」
レンがそう言うと、少し離れた場所に居るカムイが頷く。
今日のカムイの側には、ウリスとヴィナー二人が居ない。
その代わりと言っては何だが、ユナとメイ、そしてカーリアが付いているみたいだ。あるいは、カムイが彼女らを守ろうとしているのだろう。
「今回の敵は強大だ。仲間同士で助け合って戦うんだ」と、リトキスさんも言っていた。
*****
がんばりましょうと、ユナが言ってきた。
「ああ」と、思わず生返事で返し──しまった、と思う。
今日の竜狩りにはいつもの二人が居ない。
ウリスもヴィナーも、自分達には竜狩りは早いと、俺にも参加しないよう訴えてきたが──俺は、それを受け入れなかった。
「ここで挑戦しないと、いつになるか分からない。俺は、少しでも早く、一人前の冒険者──戦士になりたいんだ」
そう言って俺は、今ここに居る。
最悪、命を落とす事は──何も、竜狩りの時だけじゃない。その他の冒険でだって命の危険はあるんだ。
俺は今回の冒険で、はっきりと強くなった自分を確認したい。ただそれだけ。
だから、この冒険には命だって賭ける。それくらいの気持ちでいなければ、今までの努力を自分で否定する事になる。──そんな風に思う。
しばらくすると、周囲の注目を浴びる三人の女冒険者達が広場にやって来た。
ダリア、フレジア、ラピスの三人だ。
彼女らは──いつも通りの様子で、これから竜と向かい合うという、特別な感じは微塵も感じさせない。
リトキスさんが「いこう」と俺達に声を掛ける。
「はい」
俺とユナが同時に答えた。
大きな転移門の前に立つと、膝が震え出しそうになる。
ぐっと下腹部に力を込め、呼吸を意識する。ここを乗り越えなければ、俺に居場所は無い。そんな風に自分に言い聞かせ──俺は、足を大きく一歩、踏み出した。
ユナ、エアネル、カムイの順番に語られるそれぞれの気持ち。
共通しているのは「竜に対する恐怖」「挑戦する時の緊張」といった心理ですね。
ダリア達三人も参加する様子を追記しました。




