ユナとメイの願い
「して、その二人はどうするつもりか」
女神の言葉を巫女が伝えた。
「は、はい……?」
急に話の中心に置かれたユナとメイは、直立不動のまま頭だけで女神の方を向く。
「今回の被害者はユナ、そしてその者を庇って仲間と対立する事になった、メイの二人である。望みがあるなら申してみよ」
急にそう言われても答えを用意していなかった少女達は狼狽えたが、メイがはっきりと言葉にした。
「わ、私は、朱き陽炎の旅団を抜けたいと、思っています! 今度の事で、頭に来まし──いえっ、あんまりに非道いと思ったので!」
友人の言葉を聞きユナも覚悟を決めたらしい。弱々しい声で喋り出す。
「私も彼女が抜けると言うのなら、一緒に旅団を出たいと思います。私にとって朱き陽炎の旅団での日々は辛い思い出ばかりですが、唯一、彼女との出会いが、この旅団で得られた最高の贈り物だと思います」
そこまで言って彼女は俺の方を振り返り。
「あっ、あの、オーディスワイアさんが私の母の形見を守ってくれた事も、最高の思い出の一つですよ!」
と慌ててそう言った。
俺は分かっていると彼女に言って火の神を見ると、女神は顎に手を当てて何かを思案している。
「しかしこれは困ったのぉ、その二人がただ抜けるだけでは、彼女等の先行きが心配でならぬ」
巫女にそう言わせる女神、嫌な予感がする……
「ぉお、一つ善い事を思い付いたぞ、オーディスワイアよ。我の頼みを聴いてくれぬか」
……これは「頼み」ではない、ほとんど「強迫」だ。フレイマの旅団の団長らを前にして、その守護者とも言える火の神が「頼む」と言って、それを断れるだろうか?
「内容によりますね」
俺は何とか女神の強制を回避する道(返答)を模索した。だが相手は人間は疎か、この大地の全ての意思と繋がる存在。無限の叡智の源泉。神なのである。
俺は内心諦めていた。
「のぅオーディスワイア、其方新しく旅団を造ってくれまいか。そこでその二人を団員にしておくれでないか、そうすれば我も安心出来るのだ」
俺は思わず口走った、「無茶な事を」と。すると女神(巫女)は錫杖の石突きで床をとんと叩き、大勢の巫女を立ち上がらせると裁定の間から出て行かせた。
「頼む、なぁオーディスワイア、我等の子よ。其方、何時も言っておろう。自分は我等の子供であり、僕であると。あぁ、僕などと自らを卑下する様な事を言って欲しくは無いのだが。母の言葉を、母の頼みを聴いておくれ? 愛する子よ」
こっ……! 錬金術の開始を意味するお題目に過ぎない慣用句の集まりを取って、都合の良い事を……!
だがその悪態が口を出る事はついに無かった。俺は大きな溜め息を吐くと「分かりました」と答えていたのである。




