冒険への準備
そろそろこの物語の結末へ、話が動き出すので──真面目な内容も増し増しですかね。
自分の書くものは、シリアス多めなので。面白いだけではなく、何か学べる機会を読んでいる人に与えられたら幸いですね。
休日の朝。
パンや生野菜などの軽食を口にすると、食堂で打ち合わせが始まる。
食器を下げながら、こっそりとレーチェが「脱衣所の暖房機、ありがとうございました。団長」と声を掛けて来た。魔力結晶を消費するから、使い過ぎには注意しろと警告すると「分かっていますわ」と応え、自分の席へ着く。
香草を加えた紅茶を口にしながら、各人がそれぞれの成すべき事について行動を起こそうとしていた。
竜狩りへと向かう団員は、庭で訓練を開始する。初めて「竜棲の広原と森」に向かう者ばかりだ。
緊張や不安もあるだろう。
それを払拭すべく、体を動かして、どういった戦い方をするか頭の中で想像しながら、いざという時に俊敏な行動が取れるようにと、何度も訓練を重ねる。
「旅団長」と、メイが話し掛けてきた。
今日の彼女は、普段の様な薄着では無く、防御効果もある上着やズボンなどを身に纏っている。
「竜のどういった行動に注意が必要? どういった時に、どこを攻撃するのがいい?」
もちろん彼女はリトキスからそれらを聞いて学んでいるだろう。
リトキス以外からも積極的に情報を取り入れ、柔軟に答えを導き出そうとしているのだ。
「そうだな──やはり、前面に立たない事だ。噛みつかれたら危ない、というか死ぬ。前足の長いものは、それで攻撃もしてくるが、体当たりや押し潰し、尻尾による攻撃など。一切気は抜けないな」
うん。と少女は答える。
気づくと俺と少女の周辺に、カムイやユナ、エアネルやレンネル達も集まって来ていた。
「攻撃すべき瞬間は──隙が出来た時だが、相手の攻撃を躱して、懐に潜り込んだり、側面に回り込んで攻撃するのがいい。人間と同じで、身体の内側に血管などが集まっている。特に鱗や硬い外皮よりも、腹部などを狙うのがいいだろう。脚の関節も狙い目だが、首や頭もいい。硬い部分には打撃が有効だが──うちには、槌を扱う者が居ないからな……そこは、拳闘士のメイの出番だが……噛みつかれるなよ?」
その後も仲間達に竜の頭を狙い、昏倒させて倒れたら、首や腹部など柔らかい部分を狙うやり方を勧めた。
メイの気による爆発的な衝撃を頭に打てれば、脳震盪を起こさせられるだろう。その為には、脚を狙って転がす必要がある訳だが。
「閃光弾や煙幕なども多めに持って行って、遠慮せず使え。予備ならいくらでも作ってやる」
レンとエアが同時に「魔法剣が利くか」どうかと尋ねてくる。一応、アラストラが管理局に報告している情報によれば、「通常の魔法よりは高い効果が得られる」と記されていた事を説明する。
「魔法の剣や槍も、使い方次第だろう。弱点や攻撃が有効な場所を見極めて戦うんだ」
俺は出来るだけ彼らの求めに応じて答えてやったが、まずは鍛冶屋へ行かなければならない。
鍛冶場に入ると、ケベルとサリエが鍛冶場の掃除を始めていた。
「ご苦労さん。──旅団の方が今日は休みになったんだが、明日から大変になるので、今日の内にやれる事はやっておこう」
そう宣言すると、昨日、延べ棒の型に入れて置いた金属を取り出して、それを素材保管庫に運び入れた。
ケベルは、そういった雑用を手伝おうとするが、徒弟達には掃除が終わったら、鍛冶場の隅にある販売所に置く商品を作らせる事にする。
「実力を上げて行く機会だ。しっかりと取り組むように」
俺はそう言うと彼らの横に立って、一つ一つの作業をどのようにこなせば、良い物が出来るかを説明し、時には手を貸しながら、彼らの技術向上を図る。
真に価値ある物とは、他者と共有できる事柄の中に。
より良い力や技、知識や思想は、継承されて行く事で、その価値を示す。
これらのもの、あるいはそれ以外のものでも、独占されて良いものなど無い。
独占も独善も、その根幹にあるものは同じ。
小さき「個」の肥大よりも、大いなる魂の継承を求めよう。価値ある思想の流布こそが、人の人生足り得る。俺はそう考えている。
俺の辿って来た道はいつも、世界の神秘と対決してきた哲学者や思想家達が居た。彼らは錬金術師と呼ばれ、あらゆる誤解や誤謬の元に迫害されてきた。
だがそれは、俺が生まれた世界での話。
ここフォロスハートでは、錬金術は科学の一端である。
「我らは錬金術師という道を歩む孤独なる者。その道は険しく、無秩序の中にただ独り。──だが、その道を歩む我らは個にして多数。故に、我らは有限にして無限なり」
それは、こちらの錬金術の文献で読んだ一文。
例え、この身が朽ちても──受け継がれたものは不滅。
それこそが、人の生ではないだろうか。




