冷暖房と「竜の護り」
「いやぁ──、涼しいですね」
ケベルが冷房を使って、感想を呟いた。
「上部と、側面の穴から冷気が風と共に出てくるんですね」
サリエが冷暖房装置に手を翳して言う。
大きさとしては人の胴体ほどの大きさに収まった。術式によっては、もっと小さくする事も可能だろう。ただそうすると、装置の周辺にしか影響しない物になりそうだ。
「風力と冷気、暖気の発生に三段階……弱、中、強の三つを付けた。背面の扉から冷結晶と火の精霊石などを交換出来る。上にある小さな扉を開けて魔力結晶を入れれば、それが動力源となる訳だ」
色々と試したが、やはり精霊石よりは、精霊結晶の方が効果は高かった。
「精霊結晶のみに対応した物の方が、燃費も良くなるし、効率も上がるだろう。次からはそうしよう」
これらの事を紙に書き、設計図と共に管理局へ持って行った。
実物は必要ないだろう。設計図にある通りに作れば、それほど難しい物では無い。
「冷暖房装置ですか──気温差の少ないフォロスハートでは、あまり重要ではありませんが」
とメリッサは前置きしつつ。
「ですが、火を使う鍛冶師や料理人によっては、ありがたい発明であるでしょうね。──新技術開発品として登録しましょう」
こうして報酬の契約を済ませると、もう一つの案件。四大神の力を使って、「海の中の島」に居るという神の探索を行う準備が整った事を話しておく。
「分かりました。管理局でも後援の準備は出来ています。……いよいよですね、『大地の接合』が上手く行くか行かないか、歴史的な第一歩を踏み出しましょう」
彼女は表面には出さなかったが、内面では、もの凄く今回の事に興奮している様子だ。言葉の節々に力が込められている。
「ああ、こっちも団員達に伝えておくよ。明後日に、海底にあるという神殿へ向けて、調査に行くよう指示を出す」
彼女は重々しく頷いて、必要な物があったら言うように、と俺を送り出してくれた。
帰り道の途中に以前、野良猫を見かけた路地を通って行く順路を辿ったが、野良は見つからなかった。
どこかで日向ぼっこをしているのだろうか。小さな公園にも、猫の姿は無い。
とぼとぼと、鍛冶屋へ帰る。
弟子達は早速、冷房装置を使いながら、溶錬炉の前で作業していた。
どうやら旅団の仲間達が集めてきた、様々な種類の鉱石から、金属を取り出そうとしているらしい。
「そうだ、余っている金属板があるな? それを使って小型の冷暖房装置を作ってみる」
宿舎の風呂場──その脱衣所が寒いと、女子達が訴えるのだ。むろん男達も裸になれば寒いに決まっているが。
小さな脱衣所を暖めるくらいの暖房なら、小型の物で充分だろう。
金属板で外側の箱部分を作り、内部の術式を組み込んだ機構を作ると、それらをささっと組み立てる。──言うほど、簡単では無いが。
多くの溶かした金属を、延べ棒を作る型に流し入れ終えた徒弟達。
俺の方も小さな冷暖房装置を作り上げた。
せっかく溶錬炉が景気良く燃え続けているので、金属板なども作っておく。
今度は徒弟達の作業に俺も加わり、溶かした金属を金鎚で打ち伸ばしては、不純物を取り除き、それを仕上げの圧延機(円筒形の圧力機の間に挟む)で板状に伸ばす。
さらに、銀の指輪などを用意すると、それにいくつかの錬成を施し、防御性能に特化した物を作製しておく。
こうした作業に取り組んでいると、午後も、あっと言う間に終わってしまった。
時間がいくらあっても足らない。そんな風に感じる。
鍛冶屋から宿舎に戻ろうかと後片づけ始めた時、鍛冶場に誰かが飛び込むみたいに入って来た。──見覚えのある少女。というか、メイだった。
「なんだなんだ、騒々しい。もっと落ち着いて戻ってこれないのか」
メイは冒険から直接、こちらに来たのだろう。彼女の後からリトキスやユナ、カムイなどもやって来る。
「旅団長。跳躍大鰐と槍角蜥蜴を倒して来たよ。『竜棲の広原と森』に行ってもいいでしょ?」
リトキスを見ると、黙って頷く。問題は数を倒した事では無く、竜との戦いに臨める働きを出来そうか? と意思疎通を図ったのだ。
「彼女を含め、全員が積極的に戦いに臨めると判断します。大丈夫だと思いますよ」
リトキスはそう言って、彼女らの実力を保証する。
「分かった。竜との戦いを許可する──ただ、赤翼竜には注意しろ。奴は炎を吐き出すからな。ほら、これを」
そう言って全員に銀の指輪を配る。
「この指輪には、『火耐性』、『防御力強化』、『竜の護り』の効果を付与してある。竜の護りの効果は、奴らの特殊攻撃に対する防御力を上げるものだ。『竜棲の~』転移門に行く場合は有効だろう」
メイは喜んで「ありがとう! 旅団長!」と珍しく笑顔を見せる。ユナやカムイ、エアネルとレンネルも感謝を口にした。
「まずは『大顎獣竜』でも倒してくれ──。後、リトキスは分かっていると思うが、大きな竜を倒した後は、管理局に報告して素材を回収するからな? 管理局に任せずに、雇った素材回収業者に任せる方が、多くの素材を旅団側に持ち帰れるから、その辺りはリトキスから聞いておくように。その為の金は旅団費から払うからな」
こうして俺達は、一通りの説明をして、宿舎へと帰るのであった。




