四大神力珠の台座と冷暖房装置
あらゆる感覚、あらゆる悟性を以って、真摯に作業に取り組んだ。
この台座を作る作業を他の誰にも任せる訳にはいかない。そのくらいの気持ちでいた。
神貴鉄鋼の中に魔力結晶を加えて魔力回路を生成すると、四大属性すべてを、その回路に取り込むよう促す。
あまりに作業に没頭しすぎた為に、時間の経過も、疲労も、熱さも感じなかった。
四つの神結晶を神貴鉄鋼の台座に嵌め込む時になって初めて、自分が作っている物が完成する一歩手前にあると気づいたほどだ。
溶けた金属を打ち、耐熱手袋で引っ張って伸ばす。そうした作業を行っていたのは確かに自分だったが、今、思い返してみても──、その時の自分が何を感じ、何を思い取り組んでいたか、あやふやな感じだった。
ただ真剣に、設計図通りに、目の前の金属の形を変えて、台座へと作り変えてやる事だけを意識していたのである。
「完成──か」
終わってみると、急に熱さを感じる。
左半身が炉の方を向いていた為、身体の左側が火傷しそうだ。
「大丈夫ですか」
俺が軟膏を塗っていると、ケベルとサリエが近づいて来た。手にはそれぞれ防具を持っている。
「そっちも終わったか」
そう問い掛けると、彼らは揃って「はい」と答え、点検を求めてきた。
二人の作った新人用防具──。これで最後の防具だが、かなりの錬成強化も成されていた。彼らが日々、研究をし、互いに意見を交換しながら──時には錬成叢書や、俺の書いた錬成手記なども参考にしながら取り組んだのが窺える。
「うん、いいじゃないか。二人とも、よくやった」
俺は彼らの仕事を誉めると、それを保管庫にしまって、金属板を打ち出すよう頼んだ。
「設計図は出来ている──ええと……これだ」
机の引き出しから一枚の紙を取り出し、二人にそれを見せる。
「これは──金属の箱? 何かの装置ですか?」
「うん。冷暖房装置だな。まあここに置く物は、冷房だけで充分なんだが」
箱の中に設置する物を冷結晶か、火の精霊石や精霊結晶に替える事で、冷房か暖房に切り替えられるのだ。
「ちなみに、冷結晶でなくとも、水の精霊石などでも代用出来る。冷結晶の方が、多少は燃費が良くなる、といった程度の違いになるだろうな」
設計図を指しながら、二人に装置の外側の部分を作るよう指示を出し、俺は内部の細かい部品に、魔力回路による冷風や温風を発生させる機関を作る。
しかし、その前に、完成した「四大神力珠の台座」をしまう木の箱を作る──。仮にも神の力が宿り、これを通して神が顕現するのだ。
箱の中に綿と絹を使った敷物を詰めて、傷が付かないよう施す。
台座は、頂点に赤い「火の神の神結晶」を頂き、その下に「風の神の神結晶」を配置する。その下であり、左側に位置する場所に「水の神の結晶」を、その反対側の右側に「地の神の神結晶」を配置する。──これは、ここフォロスハートを象徴的に表した配置になっている。
各神結晶を支える神貴鉄鋼の「枝」、──あるいは「根」を心象する物に宝石を取り付け、白銀色の樹木の台座に、各神を表す象徴的な浮き彫りを施すと、それは仕上げられた。
なかなかに神々しい、それでいて自然の荒々しさに似た「不調和の調和」が、その台座には表されている。
「うん、いい出来だ」
完成した台座を前に、自らの仕事に満足すると、それを磨いて粗を削り取り、木箱の中にしまって保管庫へ運び込んだ。
一大作業が片付くと、改めて冷暖房装置の内部機関を作る作業に取り掛かる。
細かな金属の板や棒に、魔力回路を作り出す作業だ。ある意味では先程の「台座」よりも難しい、細かな作業が必要となる。
それでも、最近の俺は以前より──
勁を傷つけて臥せっていた以前よりも、さらに繊細な作業感覚を身に付けて、細かな作業にも躊躇う事無く、取り組む事が出来るようになっていた。
老いてますます盛ん、などと言いたくは無いし、生涯現役などとも思わない。
老いて身が言う事を聞かなくなる前に、大人しく去るのもまた、生き様と考えている。
内部に入れる冷結晶と火の精霊石を用意すると、内部機関だけで試してみた。
冷結晶から力を増幅した物が、小さな箱の外へ流れ出てくる。
これを外を覆う箱と、結晶を取り入れる機関から繋げる、風の力を封入した部分を通じて外へ、冷気や暖気を送り出すのだ。
機構的には、それほど難しい物では無い。
精霊石などから力を取り込んで、望みの現象を起こす装置を作るのに、錬金術の理論を応用した、魔法工学の技術が必要になるが。
弟子の二人が、金属板を望みの大きさに切り揃えると、俺はそれらを組み上げて、まずは一つ目の冷暖房装置を作り上げた




