職人の矜持
ウリスから詳しく話を聞く事が出来た。
彼女が一人、庭で弓矢を三つの的に矢継ぎ早に射る練習をしていると、火の神ミーナヴァルズの一団が来たのだ。
少女は畏まって、ひざまずかんばかりだったが、女神は気さくに接し、彼女の素質を見抜くと、火の魔法の素質を彼女の中から引き出して、魔法弓という新たな技も教えてくれたと言う。
「びっくりしました……」
魔法弓について尋ねると、撃ち出した矢に魔法を込めて、敵にぶつかると爆発を放つらしい。魔法剣の「爆裂斬」に似たものの様だが、強力な反面、矢を確実に消費する攻撃になる。
爆発の攻撃と貫通の攻撃が増幅され、威力が格段に上昇するだろう。各属性を封じ込めた「魔法の矢」よりも強力な攻撃になるかもしれない。
属性矢は、やはり汎用性を目的に作られており、扱い易さに特化した物だ。貫通力や爆発力に優れている訳では無い。
「なんにせよ、良かったじゃないか。その力なら、上級難度の転移門でも通用するんじゃないか」
彼女は真剣な表情で頷くと、「さっそく、市外訓練場で試してきます」と言って、多くの練習用の矢を持って出掛けて行った。
まさか神が冒険者に魔法を授けたり、戦いの技術を与えるとは。
ミーナヴァルズが奔放な女神であるのは理解していたが、ここまで自由に振る舞えるとは意外だ。
巫女達も、神の行動に口を出さなかったらしい。
そう考えると希にだが、こういった事例もあるという事だろうか。
宿舎に入ると子猫達が「ニャゥ、ニャゥ」「ニャァ、ニャァ」と声を掛けてくる。
「まてまて、俺も飯の時間だ」
子猫達の「構って攻撃」を躱して調理場に向かう。簡単な食事を用意しつつ
火の神の神結晶を確認して、四つの神結晶を組み合わせる台座を頭の中で組み上げる。
設計図通りに神貴鉄鋼で作った台座に、各属性に合った宝石も取り付ける予定だ。
あまり大量に付けると、けばけばしい見た目になるので注意だ。──こうした物は、象徴的な意味が重要なので、華美さは必要ない。
「よし、完成だ」
昼食は鶏肉とチーズを使った雑炊。
野菜は水菜と玉葱。
「水玉葱でも良かったかな」
そんな感想を口にしていると、足下には子猫達が擦り寄っている。
食堂の椅子に座ったまま、彼らの気の済むようにさせてやり、ささっと飯を済ませると食器を片し、子猫達を連れ立って庭まで連れて行く。
ライムは巣箱の中で眠っているようだったので、そのまま置いてきた。布などで作った球や、猫じゃらしを使って遊んでやる。
そうして食後の休憩を取ると、子猫達をライムの側に置いて、鍛冶屋へと戻る。弟子達も昼食の用意を交互に行って食べに行った。
早速、神貴鉄鋼を用意すると、各属性の精霊石に魔力結晶、宝石なども用意して炉の前に座る。
今回は弟子の力は借り無い。
己の技術と──信仰心。あるいは神への愛を込めて作製する気でいた。不純物を混じらせる要因は極力排除する。
その様な精神的な部分から、徹底して作業に入る。
妥協は必要ない。
迷いもいらない。
辛さや、不安などを感じる気持ちを消し去って、その大いなる作業に臨む。
錬金術の基本的な考え方と同じだ。
何かを果たすのに、躊躇いは必要ない。
準備し、挑み、完成まで辿り着く。
それの繰り返し。失敗しても最初からやり直せばいい。失敗した理由を考え、分析し、己を成功へと導いて行く。ただそれだけ。
神貴鉄鋼を溶かすと、金床の上で、それを金鎚で打つ。
その昔、「芸術は爆発だ」と言った芸術家が居た。
鍛冶の仕事はどちらかというと、感情や感性を沈静させ、黙々と完成に至る道を歩む作業だ。
気持ちの奥底に、あらゆる感情の爆発を持っていても、それを表に、作り出そうとしている物の外面に表す事は無い。
その内面、本質的な部分に答えを導き出す。
良く切れる刃物なら、鋭い刃を。
攻撃を弾く盾ならば、硬く、滑らかな表面を。
無骨に、実直に、何度も同じ物を作りながら、その完成度を高めて行く。
我々「職人」の作業に爆発は必要ない。
内部に、その思いを込め、作り出された物が内なる力を持った物になれば──、それが「仕事」なのである。
俺達は芸術家では無いのだから。
職人とは、どこまで行っても「技術屋」なのである。
それが矜持というものだ。
すでに(前に)書きましたが、盾や防具の表面を滑らかにするのは、引っ掛かりを無くして「力を受け流す」為です。飾りの無い、真ん丸の防具にはそういった意味があるのです。(ダサいですけどね……)




