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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第七章 方舟大地の未来

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混沌騎士と魔法弓

 管理局から鍛冶屋に戻ると、ケベルが応対して客と話し合っていた。どうやら、いくつか新しい仕事の依頼が入ったようである。


 サリエは、装飾品を作製する依頼を受けたらしい。どういう訳か彼女の昔馴染(なじ)みが彼女を尋ねて来て、装飾品の依頼を発注したみたいだ。


 正直言って、俺や先代のじいさんがやっていた時には、装飾品の作製を求められたのは数えるほどだ。すでに作ってある装飾品錬成強化を施す依頼なら、数えられないほどこなして来たが。


 新しい依頼の中には、「蒼髪天女旅団」に所属する上級冒険者から受けた物もあり、それは俺が引き受けて作業する。

 強化錬成の依頼だが、すでに何度か強化されている武器に強化を重ねる依頼だ。強化錬成した物は、使い込む事と、時間がち、強化した物が定着する事で、また錬成強化を重ねる事が出来るのだ。


 錬成強化を繰り返し行う為の錬成品もあるが、生成するのが困難で、それを作る素材も貴重なのだ。水銀と硫黄いおう、魔晶石に魔力結晶などなど……

「純化結晶」などと呼ばれる錬成品だが、まれに、これを落とす「混沌の魔物」や「混沌の騎士」などが居る。


 ……混沌の騎士! こいつは洒落にならない強さを持った、黒ずくめの全身鎧を着込んだ敵で、身体から黒や赤、紫色などに変色する発光気オーラを放つ、不気味な奴だ。


 こいつが出現する領域は、それだけで難易度が二十も引き上げられているのでは、そんな風に言われる事もある──危険な敵である。

 俺も何度か正面から一対一で(仲間が傷ついて回復している時などに)戦ったが、一撃の速さや重さは、こう言っては自画自賛になるかもしれないが、俺と肩を並べる手強さであった。


 あの禍々(まがまが)しい発光気をまとう姿は、悪夢の具現化そのものだ。

 あるいは人類史の、互いに傷つけ合ってきた歴史から生まれて来た──総体そのもの。そんな風に思わされる怪物。


 白銀騎士を、手練れの冒険者になる為の「先生」だと評した俺だが、混沌騎士は、熟練者じゅくれんしゃを殺しに掛かる混沌からの「刺客しかく」、とでも言った相手である。


 リゼミラの連撃ですら武器や盾でたくみに弾き、魔法にも高い耐性を持つ。すきが無く、弱点と言えるものは無い。


 俺が作り出した「対混沌攻撃力」の効果が、奴の発光気(これが魔法の効果を弱めていると考えられている)を打ち消したり、あるいは弱らせる事が出来れば──そう思う。




「師匠。いいですか?」

 サリエが、完成した指輪と依頼書を持って来て、点検チェックを求める。

 俺も、上級冒険者の依頼を済ませたところだ。

「装飾品の出来については、サリエの方が詳しいだろうから、依頼の内容についてだけな」

 俺は多少、自虐的じぎゃくてきにそう言うと、紅玉ルビーが付いた銀製の指輪を鑑定する。


「うん、いいんじゃないか。依頼書よりも数値は高い──装飾の効果のせいか、火の属性攻撃力強化の数値も高い……これなら客も納得するだろう」

 俺の言葉を受け、真剣な表情をしていた少女が、ホッと笑顔を見せた。

「ありがとうございます──それでは、この後は、新人達の防具の仕上げに掛かりますね」

 うん。と俺は応え、残りの仕事を片づける事にした。




 昼食休憩を取って宿舎に向かうと、何やら庭で話し合う声がする。──今日は、ウリス以外は冒険に出ているはずだが。


 扉を開けて敷地の中に入ると、数人の姿があった。そのうちの数人は赤い神官服を着た巫女みこで、ウリスのそばに居る人物は──なんと、火の神ミーナヴァルズであった。


「うむ、そうじゃまとに当たる瞬間に、矢に込めた力が爆発するのを想像しながらる。そうする事で──。おや、やっと来たかオーディスワイアよ」

 紅玉ルビーの仮面で顔を隠した女神。その隣に居た巫女がこちらを向いて話し掛けてくる。


「いったい、何事ですか。──その、燃えている的は」

 ウリスは弓の練習をしていたのだろう。

 三つの的に向かって矢をっていたはずだが、その的の一つがたったまま炎に包まれている。


「うむ。この娘、なかなか洗練された感覚を持っているようで、一つ面白い技を教えていたのよ。矢に魔法を込めて撃ち出す、言うなれば『魔法(きゅう)』とでも呼ぶべきものをな」

 ウリスが射った矢が的に向かって飛ぶ。

 それが燃えた的に当たると、小さな爆発を起こし、的を真っ二つにして焼け落とした。


「よ──し、いい出来じゃ。その感覚を、今度は強力なものにして放てば、実戦でも頼りになるじゃろう」

 女神はそう言いながら、焼け落ちた的に向かって手を振ると、火は一瞬で消え去る。


「この娘──ウリスと言ったか? なかなか見所があるゆえ、火の魔法を授けてやったのじゃ。自然を愛する狩人かりゅうどに、戦いのすべを教えるのは気が引けるがの」

 火の女神はそう言いながら、側仕そばづかえの巫女に合図を送り、俺に木箱を手渡させた。


「報酬はすでに倉庫の中に入れておいた。この箱の中身を届けに来たんじゃが、思いがけず魔法弓を教える事になってしまったな。我らはすぐにフレイマに戻らぬとならぬが、オーディスワイアよ、他の冒険者にもよろしくな」

 巫女はそう告げて、手にした錫杖しゃくじょうを鳴らし、宿舎を出て行った。


 なんとも急な登場と帰還であったが──俺よりも、ウリスの方が衝撃を受けた様子だ。


「まさか、神様に、こんな技術や魔法を与えてもらえるとは……」

 放心状態になってしまったウリス。

 純朴じゅんぼくな信仰心を持つ彼女には、夢の様な出来事であったのだろう……

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