個人と集団のあり方
今回のうんちく、ちょっと乱雑になり過ぎたか──;
鍛冶屋で徒弟に指示を出し、これから管理局に行く事を伝え、地の神から譲り受けた神結晶の入った木箱を、保管庫に収めておく。
神貴鉄鋼の延べ棒は、すぐに使う事になるので、取り出し易い場所に置いておく。──火の神から神結晶が届けられたら、すぐにでも設計図を元に修正して、「四大神力珠の台座」を作り上げるのだ。
神結晶の大きさはどれも、ほぼ同じくらいだった。たぶん設計図通りの物を作る事になるだろう。
ケベルとサリエは外部からの仕事を受けつつ、残りの新人用防具の作製に入る。
上級冒険者からの錬成強化依頼などが無ければ、彼らだけでも、それなりの仕事をしてくれるというのは、もう理解している。二人に鍛冶場を任せると、対混沌攻撃力についての新たな報告と、海藻から水飴を作る方法などを書いた紙を手に、管理局へと向かう。
その道の途中で、ノロノロと歩いて転移門のある広場に向かう一団を見かけた。身に着けている物を見る限りは、中堅階級の冒険者達の様だ。
彼らの歩みからは冒険への期待や、高揚感といった物は微塵も無く、やる気になれない労働へと向かう、給与労働者の後ろ姿を彷彿とさせた。
おそらくは、旅団内での関係が上手くいっていないのだ。
「希に良くある」みたいな「希」であるのか「良くある」事なのか、判別の付け難い、曖昧とした、あるいは矛盾を含んだ言葉で表現したくなるほど、そうした事は、人間集団には起こる事だ(認めたく無いものだな)。
うちの旅団は今のところは、そうした対立や軋轢みたいなものは発生していないはずだが、こうした状況になったら、見過ごしていてはいけない。
まして上の者(管理する側)が「当事者達に任せる」などという判断を下すのは愚の骨頂だ。
本人達では解決できないから拗れるのだから。
やる気は個人の中から自然に沸き立つものと、周囲の人間関係で変動するもの、二つあると考えた方がいい。
同じ旅団で活動する者同士の間で、この様な「行き違い」が起こる理由は多岐に渡り、一つ一つを語っていては切りが無い。
いずれにしても、こうしたものの本質は「人は他者を容易には認めない」事から来るのだと思う。
反発したり、拒否したり、中には嫌な相手に自分から突っ掛かって行き、気に入らないと文句を言わなければ気が済まない、そんな(屈折した)人間も居る。
旅団の場合は、こうした事柄の中で重要になるのは、「実力」か「協調性」か、を選ばなければならない。そうした問題が起こるのだ。
個人的には「実力さえあれば、何をしても赦される」という考えは、猿山の猿と大して変わらないものだと思っている。
協調性を大事にしつつ、実力を互いに認め、伸ばし合う。こうした関係性が成り立てば理想なのだが、言葉で言うほど、こうした問題の解決は簡単には行かない。
だが一つ、言える事がある。
人々の対立や非融和的な態度に、理不尽な理由を見つけた場合は、その問題を引き起こす要因を取り除かない限り、その組織は駄目になる。という事だ。
反目し合う二つの勢力や人が、同じ場所に居る事が問題になるのだ。こうなったら手の施しようが無い。
故に、問題点を探り出し。その中で、集団生活を乱す。または、規律に反する行動や思想を持つ者は、矯正されるか、排除されるしか無いのである。
本人のやる気次第、などと口にするのは簡単な事だ。
病気になった時、その原因となった習慣や嗜好品を止めるように医者から言われる。
さて、、何人の人間が、今まで続けてきた習慣や嗜好品を止めるだろう?
本人のやる気次第だ、この場合は。
個人と個人の対立では、そうは行かない。
軋轢の原因を取り除かなければならないのだ。
それが個人の偏屈な性質に因るならば、もはや、その個人を追い出す以外には無い。
願わくば、うちの旅団で、そのような問題が起こらないようにと祈るばかり。
旅団員は皆、上手くやっているはずだ。
仲違いや喧嘩は──ヴィナーとカムイがするくらいか? それもすぐに終わるものだ。害は無い。
こんな事を考えている内に、管理局の技術班のある建物の前に来てしまった。
メリッサは俺の持って来た二つの資料に目を通し、簡単な契約金の様な物を払うと約束してくれた。海藻から水飴を作る技術はともかく、対混沌攻撃力についての新たな発見部分は、以前提出した物の続きなのだが。
「ところで、何を深刻そうな表情で考え込んでいるのですか」
メリッサは無表情のまま、そう言ってきた。
俺は、う──ん。と少し悩んだ後、彼女に尋ねる。
「例えば、技術班内で人間関係に問題が起こったとする。さて、どうやって解決する?」
彼女は顎に指を当てて、目線を横に逸らす。
「当事者同士の意見を聞いて、それからこちらの意見を述べるでしょうね」
それは、どういった意見かと聞く。
「簡単な事です。その問題点よりも、『フォロスハートの為にすべき事を考えなさい』と告げるでしょう。成すべき事よりも、個人の感情を優先させるような人物は、管理局員に相応しくありません」
彼女の言葉に「それはそうだな」と納得してしまう。
旅団は仲良し同好会では無いが、個人的な感情をぶつけ合う場でも無い。それを徹底させる事は、旅団の、延いてはフォロスハート全体の利益になると考え、互いに認め合う様になるべきなのだ。
共通する目標を持っている。そういう認識を持てば、つまらない感情の対立を少なく出来るだろう。




