冒険、その戦果
水飴入りの瓶を抱えて宿舎の中に入る。
その後ろから、子猫達を抱えたカーリアが玄関に足を踏み入れた。
玄関先の廊下で待っていたのは母猫のライムだ。後ろ足で耳の後ろを掻きながら、億劫そうに立ち上がる。
「ニャァ──ゥ」
母猫の鳴き声に子猫達が「ニャゥ、ニャウ」「ミャゥ、ミャゥ」と、返事を返している。
カーリアが前屈みになって廊下に子猫達を下ろしてやると、子猫達は母猫の側に駆け寄って行く。母猫の方は眠っていたのだろう。大きな欠伸をして見せ、のろのろと巣箱の方へ歩いて行った。
食堂の方へ向かおうとした時に、宿舎の敷地へ入って来た音が聞こえ、脱ぎかけた靴を履き直し、玄関を開けると、リトキスやメイ、ユナ、カムイとレンネル、エアネルが冒険から戻って来たところだ。
「おう、お疲れさん──大丈夫そうだな? 例の討伐対象はどうなった?」
メイは、背負っていた荷袋を前に差し出してから地面に下ろす。その口を開くと、中から大きな爬虫類の脚が二本出て来た。
「団長──私、この大鰐のお肉は食べたく無いなぁ……」
メイは如何にも深刻そうな表情で、そう漏らす。よほど気持ち悪かったらしい。
跳躍大鰐の姿は、見た目は大きな守宮に牙だらけの鰐の口。長い脚は、まるで蜘蛛の様に体の外側に向いた爪先。硬く鋭い刃状の先端を持つ尻尾など。不気味な外見をしているのだ。
「いやいや、食べる為に持って帰れと言った訳じゃ無いぞ」
その荷袋を受け取りながら「まあ、食えるらしいけどな」と呟く。
「今日は『跳躍大鰐』一体。『槍角蜥蜴』二体を倒しました。明日も同じ構成員で行くつもりです」
リトキスはそう報告して、「まあ、見た目は気持ち悪くても鰐ですから、鶏肉みたいな物ですよ」と味の感想を言う。
「そうだよな、せっかくだから塩漬けにしたり、燻製にしたりするか」
俺の言葉にメイが「うえぇ──」と声を漏らすが、ユナは、それほど抵抗を感じていない様子だ。
「私は食べてみたいかな……見た目よりも、味と栄養が大事ですし」
「うん、そうだな。俺もそう思う。まあ、これは脚の肉だから、良く煮込まないと固くて食えなさそうだけどな」
俺は倉庫から解体用の短刀を取り出して、水洗い場で解体を始める。
「肉を食べるので無ければ、何を取る為に持ち帰らせたんですか?」
興味を持ったリトキスやユナ達が、俺の解体作業を見ている。
「まあ、待ってろ」
鱗部分を避けて皮を剥ぎ、骨から肉を取り外す。
その中にある、白い大きな筋状の物に刃を当てて、白い筋から肉を削ぎ落として行く。
そうして次々に脚の中から白い物を取り出して、肉は塊のまま集め、それを調理場へ持って行かせる。
「この白い物ですか? 欲しかった素材って」
ユナが不思議そうに言う。
「これは腱だ。こいつのは少々変わっていて、関節から関節の間までの長い腱を持っているんだ。跳躍力が凄いのは、この腱のせいなのかどうかは知らんが」
それを何に使うつもりなのか、と問われたので。
「この前、管理局の『開発技術総覧』を見ていたら、義手をこの腱で作った。というのを見たんだ。この腱で義足を作れば、もっと良い物が出来るんじゃないかと期待してな」
そう言いながら腱を用意した液体の中に漬けて、表面の肉や脂を取り除く。
液体から取り出した腱を別の液体に漬け、これを保存しておく。
「これで明日には使えるようになる。皮や鱗、爪などは錬成素材として使うとしよう」
そう言いながら俺達は宿舎に入る。
食堂へ向かうと、まだ調理場で料理を作っているようなので、俺は調理場に運び込んだ大鰐の肉を、大きめの塊に切り分けて塩漬けにしたり、香辛料をまぶして冷蔵庫に入れた。
食事の用意が整うと、皆で集まって今日の冒険について聞いたり、これから作って欲しい物などについて語り合う。
気づけば、この旅団の団員の多くが、上級難度の転移門を使っての冒険に向かうようになっていた。
慎重に、慎重にと思っていたのは俺だけだったのか? そんな風にすら思う。
カムイだけでなく、エアとレンの双子も今回の跳躍大鰐の討伐に向かい、なかなかの戦い振りを見せたとリトキスが報告する。
「これからは、上級難度の冒険を多めにしても、問題なさそうですね」
リトキスの言葉に、俺は「それはありがたいな」と答えつつ、若者達の成長の早さに驚き、こちらも彼らの成長に合わせた、より良い武具の作製を行う必要があるなと思わされたのであった。




