海藻から甘味料を作り出す。
鍛冶仕事が入らなかったからと言って、暇だ、暇だと、椅子に座って貧乏揺すりしていた訳では無い。
まずは徒弟達に、まだ作っていない新人の分の武器防具を作るよう指示を出す。
これが完成したら、彼ら新人──厳密には新人冒険者ですら無い、見習い冒険者──を冒険に送り込むのだ。
まあ、最初は簡単な採掘依頼や採取依頼がほとんどだろう。
新人の中には、本当にずぶの素人としか言いようの無い者も居たくらいだ。もちろん徹底的に鍛え上げたから、そこら辺の新人よりはマシになっているはずだ。
この日の俺は、神から受け渡された神結晶を飾る台座を、どういった形にするかの設計を考えて、紙に書き出しておいた。
その後は、作っておいた魔法の剣に、錬成台を使って「対混沌攻撃力」を付与する実験をした。方法論は剣を打ち出してやった時と同じ、「混沌多色玉石」を加えるのである。
言わば、後から付け加えるので、失敗する確率は多少増えるみたいだが、混沌素材を失うだけで済んだ。
武器に宿る精霊力と上手く調和できないと、後から付け足そうとした混沌素材が拒絶され、力の逆流によって混沌素材が自壊するようだ。
「だが、それなら付与対象が壊れる危険は少ないだろう。安心だな」
何度かの実験で、錬成台の上に、どういった配置で行えばいいのかが大体わかった。法則性を狂わす混沌の無作為性が発揮されると、どうしようも無いが──この失敗を少なくするのにも霊晶石があれば、格段に調和させ易くなるのが分かった。
「しかし、これでまた、希少価値の高い霊晶石を使う機会が増えてしまう訳だ。──懐が痛むな」
もちろん俺の懐が、では無く。客の懐が痛む事になるのだが。
これも簡単に錬成指南書に付け加える部分として書いておき、後日、管理局の技術班に持って行く事にしよう。
そうした取り組みの最中にも、旅団の仲間達に冒険に行ってもらい、取って来て欲しい素材などを考えておく。
リトキス達には、跳躍大鰐の脚を持ち帰るように頼んでおいた。リトキスは「なんでそんな物を……」と訝しんでいたが。
竜退治の前哨戦として選んだ槍角蜥蜴と跳躍大鰐の討伐だったが、少し思いついた事が出来たのだ。
──それはひとまず置いておき、俺は針金を作る形に、溶かした柔らかい合金を流し入れ、耐熱手袋を付けてその針金を取り出すと、金属板の上で転がしてさらに伸ばす。
そうした作業を数十回繰り返し、多くの針金を作り出した。こんなに使う訳では無いが、物を作る時は、予備の分も一遍に作り置きした方が効率が良い。
「何を作るんですか?」
サリエが興味を持った様子で尋ねて来た。
「ああ、泡立て器だよ」
柔らかい針金を曲げて、数本の同じ様な物を用意する。
後は木の柄に付けた穴に挿して、根本を圧力を掛けて固定し、金属の留め金などを付けて完成だ。
「これが……泡立て器ですか?」
サリエは完成した物を見ても、それをどう使うかが分からなかった様子である。
「卵とかを、こう──混ぜる物だ。空気を含ませる様に、浮かせて混ぜるのがコツだな」
「へえ──、どこで作られている物なんですか?」
しまった……つい、使用していた体で語ってしまった。これでは下手な言い逃れは出来ない。
「いや、文献に出ていたんだ。菓子作りで使う調理器具らしいな」
少女は素直に「そうなんですか」と、文献の情報から、すぐに実物を再現するなんて凄いです。と誉めてくれた……言えない。別の世界でこれを使っていただなんて……
そうこうしている内に鍛冶屋での作業を終え、ケベルとサリエは、新人用の武器を作り出し、残すは防具のみとなったようだ。
「お疲れさん」
俺は彼らと別れて宿舎に戻ると、庭の隅に置かれた木樽を見て思い出した。
「しまった、海藻を忘れていた」
庭ではカーリアが子猫達を遊ばせていた。
子猫達も伸び伸びと遊べる外の方がいいだろう。
「オーディス団長、どうしたの。樽の前で腕を組んで……」
「ん、いや──錬成容器に入れて錬成するつもりだったが、水に濡れた状態でも大丈夫か、計算していたんだ」
少女は「何を言っているか分からない」という顔をする。
俺は倉庫から綺麗なバケツ錬成台と錬成容器を持って来て、樽の側で錬成する事にした。
カーリアに、宿舎内の倉庫にしまった、蓋付きの瓶をいくつか持って来てくれと頼み、こちらは錬成作業に入る。
それほど難しい事では無い。
海藻を溶かして塩の結晶を分離し、残された液状になった物を、甘味のある液体へと変換するだけだ。
「海藻水飴」とでも言う物が出来上がるのだ(以前の世界で作った事がある)。
当たり前だが、味や風味に海藻を感じさせる部分は無い。分解と分離をする際に海藻の匂いなどは消えている。要するに出来上がるのは、ただの水飴だ。
カーリアが瓶を持って戻って来た時には、水飴は完成していた。少量の塩の結晶も取れたので、一石二鳥。一挙両得というものだ。
「これが、海藻から作った甘味料? なんか、臭そう……」
少女は、まだ残っている、バケツに入った海藻から漂う海の匂いを嗅いで、顔をしかめる。
「そんな物を俺が作ると思うか? まあ、舐めてみろ」
そう言って錬成容器から瓶に移す時に、縁に付いた液体を指ですくってみるように言う。
彼女は躊躇いがちに、それを指に付けて口に運ぶ。
「甘い……!」
そう言って、また舐めようとするカーリアの手を押さえ。手を洗ってから、もう二つ瓶を持って来るよう言いつけて、俺は再び海藻の残りを水飴に変換する錬成を行った。




