これからの予定を立てよう。上級編
食堂に来ると、そこには温かな料理の匂いに満ちていた。
それは何だか懐かしい香りだった。小麦粉の焼ける香ばしい匂いと、牛酪の香り。
「おいおい、この匂いは……」
テーブルに置かれた皿の上には、見覚えのある物が置かれていた。
「ホットケ──」と言いかけて、レーチェを見ると、ジロリと睨む彼女の姿が。
「ここっ、これはなんて言う料理かな?」
鍋で作ったばかりの苺のジャムを持って来たリーファが、柄付きの鍋をテーブルの上に置く。
「これは『フォーシク(パンケーキ)』です。今回は甘いジャムと合うように、砂糖で味付けしてありますが。肉などと合わせる場合は、小麦粉と卵、馬鈴薯の摺り下ろした物を混ぜて焼いた物など、風味を変えた物になります」
へえ──、と感心しつつ、蜂蜜を掛けても美味しそうだな。と言うと、リーファは「蜂蜜と牛酪を乗せる事もありますよ」と答えた。
用意しますか? と聞いてくるので、それはまた今度にして、せっかく苺のジャムがあるのなら、それを乗せて食べようと俺は答える。
その料理は確かにパンケーキだった。
薄く焼き上げた生地には卵も入っているようだが、ふっくら感はあまり無い。
「泡立て器を作ろう」と俺は心の中で呟く。
ユナとメイの二人は、いつもと変わらず仲良く隣り合って朝食を食べている。
今日は朝から甘い物が出された為か、メイは先程の話をすっかり忘れている様にすら見える。
「ユナ、君はどうだ。竜と戦いたいと──あるいは、戦う覚悟はあるか?」
唐突な質問に彼女は驚いた様子だったが、フォークを手に持ったまま真剣に考え込む。
「……竜の事を色々と調べましたが、魔法が利き難いという事なので──不安はあります。でも、いつかは戦ってみたいですね」
ユナの言葉を受けて、メイを見ると──少女は頷きながらパンケーキを頬張っている。
「実は、君の隣に居る娘が、ユナと『竜棲の広原と森』に行って、竜を倒しに行く。とか言い出したんだが……」
するとユナが予想外な反応を示す。
「ああ、……それはたぶん。私が竜素材の杖と防具を欲しがったからですね。いつかは手に入れたいとは思っていますが、今すぐにという訳ではありませんよ?」
俺がジロリとメイを睨むと、さすがに彼女はこちらの遣り取りを聞いて目を背ける。
「だが、まあ……いずれ竜域にも入って行かなくてはならないのは確かだ。今は、まだ早いと思うが、そのうちにな」
ユナは元気に「はいっ」と答えたがメイは、つまらなそうな顔をする──。ただ単に、パンケーキが無くなったからかもしれなかったが。
「でも、彼女らも最近、また一段と強くなったんですよ」
と少し離れた席からリトキスが声を掛けてきた。
「彼女らの実力なら、『緑棘爪竜』か『大顎獣竜』くらいなら充分に戦えると思いますよ」
大顎獣竜は二足歩行する大型の竜種だが、主に人より少し大きな肉食竜を狙って狩りをする奴で、竜種の中では、それほど強くは無い。
棘に覆われた身体と、長い尻尾を持つ緑棘爪竜は、「竜棲の広原と森」で草食竜や小型の肉食竜を捕食する狩人だ。
場合によっては大顎獣竜も標的にして襲い掛かる、獰猛な竜種である。
「──そうだな。では、リトキスの責任で行かせる事にするか?」
俺がそう言うと、リトキスは少し狼狽える。
「あ、ごめんなさい。それはちょっと……」
その言葉を聞いたメイは、頬をプク──ッと膨らませて不平を訴えた。
実力が伴っているとは言え、危険には変わりが無いのだ。慎重になるのは当然だろう。
「分かった、こうしよう。上級難度の『金銀鉱山と濃霧の湿地』に行って、そこに出る『槍角蜥蜴』と『跳躍大鰐』を合わせて五体。これを倒して来たら、『竜棲の広原と森』へ行く事を許可しよう」
俺の提案に喜んだのはメイ。ユナは「私はどちらでも……」という感じだった。
「なるほど、槍角蜥蜴に跳躍大鰐ですか。確かに、竜種を相手にする戦い方に似た形で挑みますからね、良い判断だと思います」
リトキスは何故か上から目線だ。
「とにかく、リトキスは二人に竜との戦い方と、上級難度の転移門先についての知識を教える係りな。これ決定だから」
フォークをビシッと突きつけて言うと、リトキスは「分かりました」と、あっさりと受け入れ、朝食後にユナとメイ。その他数名の団員達と相談を始める。
どうやら俺が思っていたよりも、竜種との戦いという、危険な冒険をしたいと考えている奴が多かったようだ、この旅団には。
頼もしい仲間達だと感慨に浸りながら、パンケーキに苺ジャムを乗せて食べる俺。
今度は俺が、卵を泡立ててふっくらとさせたパンケーキを作ってやろう。などと企みながら朝食を食べ終えるのだった。
跳躍大鰐は手足が長いワニで、若干気持ち悪い感じの生物。飛び跳ねて尻尾で攻撃したりする。
もちろん実在しませんよ〜




