レーチェの決断
《外伝》と登場人物設定を読む事の出来るものも投稿しているので、そちらもどうぞ~
「まったく、あなたという人は……!」
まだ憤慨しているレーチェ。
よほど「面倒臭い女」扱いされたのが気に入らなかったらしい。
人は、核心を衝かれた時にムキになるものだ。
「──それはともかく。何で俺の過去を調べるなんて事になったんだ?」
そう尋ねると、彼女は吊り上げていた眉を下げて、呆れ顔へと変わっていく。
「何を仰るかと思えば……、あなたの今までの言動を思い出してごらんなさいな。まるで私には理解できない言葉を使ったり、通常では考えつかないような発明をしたりだとか……いい加減、あなたの素性を疑い出しても仕方が無いでしょう」
この前、つい口に出した「ハンバーグ」などが原因だったか……。しかし、いつかはこちらから、話さなければならない時が来るかもしれない、そんな風にも思っていた。
こんな風にバレるとは思わなかったが。
「そうですか。でも、この事は秘密にしておいた方が良いでしょう」
俺が別の世界から来た事を皆に話すべきか、と尋ねると、レーチェは首を横に振ったのだ。
「皆が素直に、あなたの素性を受け入れるかどうかは分かりません。信じられない者も居るでしょう。私だって、神アリエイラの言葉で無ければ、信じなかったかもしれませんわ」
確かに……しかし。
「しかしそれなら、何故レーチェは俺の過去を調べる気になったんだ。いったい何を疑っていたんだ?」
そう問うと、彼女は少し躊躇った。
「あなたが別の──、異なる世界の人間とは考えていませんでしたわ。私の想像では、あなたはフォロスハートとは違う、別の大地から──パールラクーンの様な──場所からやって来た、人間だと考えていたのですわ」
「なるほどな」と俺は頷く。
そう考える方が自然だろう。フォロスハートと繋がっていない、人の住む大地が他にあったとしても不思議では無いのだ。
その大地から転移門が(一時的に?)開いて、フォロスハートに侵入したり──。
まあ、転移門がフォロスハートに開いたら、四大神が気づく可能性が高そうだが。
「とにかく、あなたの秘密については、このまま隠しておきましょう。幸い、あなたはフォロスハートに、大地を守る神々に愛着を持っているようですから。あなたがフォロスハートを共に守る仲間であるのは、私も、旅団の団員達も、疑いを挟む者は居ないでしょう」
そう言うと、彼女は急にしおらしい態度になった。長い金髪の毛先を指で弄りながら、躊躇いがちに喋り出す。
「それで……その、水の神アリエイラの事をあなたは──。どのように思っているんですの?」
少し頬を赤く染めるレーチェ。
いや、まさか、アリエイラが俺の過去だけで無く、再会後の事まで話したとは思えないが……
「どのようにって……もちろん、敬愛しているに決まっている」
そう言っても彼女は、何やらモジモジと照れているので、俺はやんわりと否定する言葉を選んだ。
「水の神だけでは無い。火の神も、地の神も、風の神も。俺は全ての神に──俺達を助け、守ろうとする神を、心から愛している」
俺の信仰告白めいたものを受け、レーチェは「そ、そうですわよね」などと呟いてから咳払いする。
「もちろん。私もそうですわ」
レーチェは真剣な口調で言ったが、頬には赤みが差している。彼女が俺とアリエイラの関係を、どのように疑っているかは分からないが──。たぶん、謁見の時に俺と女神との距離が近い事を、敏感に感じ取ったのだろう。
藪をつついて蛇を出すのは全力で回避したいので、この件は触れないでおくのが一番だと判断した。
人と神との恋愛が、フォロスハートの住人達にとって身近なものであったとしても(火の神ミーナヴァルズには、そうした噂話が多く囁かれているらしい)、こちらから口にする事も無いだろう。
彼女が聞きたがったとしても、すっとぼけようと心に誓った。
「それで、その……あなたの居た世界は、何という場所でしたの?」
おや、そっちの方を聞きたがっていたのか? まあ、その事もあまりペラペラと話すべきでは無いだろう。
異文化の──あまりに異質な文化の──情報を教え広めるのは、利点よりも欠点の方が多いのではないだろうか。
「向こうの事について話すのは止めておく。ただ、これだけは言っておこう。俺の居た世界の大地は丸く、地面よりも広大な海が広がっていた。フォロスハート大地も昔は大きな一つの丸い大地だった、と書物に書かれているのは読んだ事はあるか? それが事実だというのは、俺の居た世界では常識だった」
それは読んだ事があります、とレーチェは頷く。
「そうすると、フォロスハートは今よりも、ずっと大きな大地だったのでしょうね」
「当たり前だ。フォロスハートの大きさなんて、大地のほんの一部だぞ。……いや、俺の居た世界での話だが。フォロスハートとして分離する前の『惑星』の大きさを知らんから、確かな事は言えないが」
すると彼女は「『わくせい』って、なんですの」と首を傾げる。
「だから、俺の居た世界の話はしないと言ったんだ。この世界は混沌のせいで多くの物を失っている。その事に気づくよりも、まずは一つ一つを取り返す為に、『海の中の島』の大地と接合を果たす。それが何より重要だ」
こうして俺とレーチェは約束を交わし、しばらくは、俺の過去についての情報を伏せておこうと決めたのだった。




